湖
ニャーオ
猫を追って入ったのは奇妙な村だった。
そこはどこか、今は遠くなってしまった故郷の風景を思わせる。素朴で、懐かしい風の香り。
けれど、茅葺屋根を黄金色に染める夕焼けは西の空で真っ青に輝いているし、
雲は高波のように揺れ、コンペイトウのような沢山の銀河が、クルクルと無秩序に回転しながらその上を通りすぎていく。
宇宙と地球で風が逆に吹いているのか、雲と銀河は反対方向に流れているので、余計に速く映る。
不意に、一つの銀河が、流星のように真っすぐ、その星の、その国の、町から数里ばかり離れた村の、外れにある通りに立つ一人の少女に向かい、地面から彼女の身長分だけ離れた位置で二つ並んで空に向けられている瞳めがけて突っ込んでくる……
が、衝突の寸前、彼女の瞳に宿る魂は光よりもうんと素早い速度でその場を抜け出し、一瞬のうちに宇宙の果ての果てを超え、別の宇宙の外れにあるちっぽけな惑星の……の……の……の学生寮の個室にある寝台の上で安らかな寝息を立てている少女のもとへ帰っていった。
彰子は目覚めると、まずうーんと伸びをして、時計に目をやる前に久々に見た夢について考えた。別に面白いわけではないが、異世界というのはそれだけで魅惑に満ちたものだ。しかし目覚ましが鳴ったので、睡眠と起床の間にある微妙な休息時間はすぐに打ち切られてしまった。
仕方なく、彼女はこれから始まる一日について思いを馳せた。ついでに、昨日も同じことを考えたことに思いを馳せ、そのついでに遠と日も同じことを考えていたことを思い出したことに思いを馳せた自分が、また明日も、同じことを考えるであろうと思ったことに思い至った。いずれにしても、最後に出るのは決まって早朝一番のため息だった。
いくら思考回路を無限ループ様に張り巡らせてみたところで、時間の矢はそんなのブッチギリで明日へと、そして最後は死にまで続く風穴を時間の壁に開けてしまう。その向こうに見える光景は、とりあえず後になって起きてくる寮の先輩のために眠い目をこすりながら朝食の味噌汁と肴を焼いている自分自身の姿だった。
かくて、単調かつ億劫な、はずの、彼女の休日が始まったのだ。