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ブラック企業で過労死した32歳の僕、幼女に転生して魔法少女になりました!?~前世では叶わなかった有給休暇、絶対に勝ち取ります!!!~

作者: しろ
掲載日:2026/07/26

 僕こと佐藤優、享 年32歳。死因は過労!


 正確には「月間残業時間187時間、有給消化率0%、上司の一言『気合が足りない』」による突然死である。


 ブラック企業に骨の髄まで搾り取られた末路として、なかなかに教科書通りの死に方だったと思う。


 目を覚ますと、見知らぬ天井があった。次に見えたのは、鏡に映る自分の姿――どう見ても五、六歳の幼女である。


 傍らに置かれていた身分証らしき紙には、「ルナ」という舌っ足らずな響きの名前が記されていた。どうやらこれが、新しい僕の名前らしい。


「……は?」


 出てきた声も、予想通りの舌足らずな子供の声。困惑している暇もなく、部屋の窓から光の粒子が舞い込んできて、目の前に見知らぬ女がふわりと降り立った。


「あなたには魔法少女としての適性があります。本日付けで、アルカディア機関に採用いたします」


「――待て。雇用契約書は? 労働条件の明示は? 試用期間の有無は?」


 幼女の口から飛び出したにしては、あまりに社会人的な質問に、女は明らかにたじろいだ。


「え、あ、その........契約書は追ってお渡しする形で.......」


「後出しは労基法的に完全にアウトなんだけど?」


「ろ、労基法……?」


 聞き慣れない単語に困惑する女を尻目に、僕は冷静に状況を分析していた。どうやら異世界に転生し、その上、幼女の姿で魔法少女とやらにスカウトされているらしい。前世で散々こき使われた経験から、こういう「とりあえず働かせてから条件を後出しする」パターンには嫌というほど覚えがある。


「――まあ、いい。とりあえず話だけ聞こうか」


 僕は諦めのため息をつきながら、変身とやらを受け入れることにした。どうせ死んだ後の人生だ、話を聞くくらいはタダである。


 ---


 アルカディア機関は、外見だけは恐ろしく立派だった。総本部は水晶のように輝く塔、制服はきらびやかなフリル付き、変身シーンには専属の演出班までいるという豪華さである。


「素晴らしいでしょう? 歴代最高の福利厚生を誇る機関ですのよ!!」


 案内係の先輩魔法少女がそう胸を張るので、僕は一応礼儀として頷いておいた。だが、資料室でこっそり過去の在籍者名簿を確認した瞬間、全てを察してしまった。


(――離職率、九割超えてんじゃん!!)


 入団翌日に半数が辞め、一ヶ月後にはさらに半分。福利厚生と謳う制度の実態は、有給消化不可、残業代の概念なし、そして「聖なる使命ですから」という精神論による無限労働.......


「これ、完全にうちの前の会社と同じ構造だ……」


 思わず呟いた僕の隣で、同期の魔法少女が涙目になっている。


「わ、私、もう無理です……。一昨日から寝てなくて.......」


「大丈夫、落ち着いて? まず、これまでの労働時間、全部記録してる?」


「記録.......ですか?」


「証拠がないと戦えないからね。あと、団体交渉って言葉、知ってる?」


「だんたい……こうしょう?」


「みんなでまとまって、待遇改善を要求するってこと。一人で戦うより、数を集めた方が絶対に強い」


 きょとんとする同僚に、僕は前世で身につけた知識をかいつまんで説明した。就業規則の抜け穴の探し方、証拠の残し方、上に物を言うときの資料の作り方――どれもこれも、ブラック企業で心を殺して働いた三年間の副産物である。役に立つ日が来るとは........当時の自分グッジョブ!!


 ーーー気づけば僕は、同僚たちの労働環境改善に奔走する謎の幼女になっていた。


「――待遇改善案です。有給の取得義務化、残業の上限規制、そして戦闘に応じた正当な報酬体系を要求します」


 上層部への直談判の場で、僕は淡々と資料を突きつけた。並み居る幹部たちが、幼女の口から飛び出す横文字だらけの要求に絶句している。


「な、なぜ入団間もない君が、こんなことを……」


「.....”前世“で散々見てきましたから。この手の組織が最終的にどうなるかをね?」


「その、前世とは......?」


「あ、これはまずったなー、絶対口に出すべきじゃなかった。まあ、説明はするが、聞かない方が精神衛生上いいと思うぞ」


 半ば脅しのつもりで放った一言に、幹部たちは顔を見合わせた。誰も彼もが、目の前の幼女の放つ妙な圧力に気圧されているようだった。


「し、しかし予算というものがだな……」


「離職率九割の組織を維持する方が、よほど無駄な予算を垂れ流していると思いますが? 新人を一人育てるのに、いくらかかっているかご存知で?」


 数字を突きつけると、幹部たちは一斉に押し黙った。どうやら誰も計算したことがなかったらしい。結果として、僕の要求はほぼ全て通ることになった。


「これは前世の数倍ホワイトかもしれないな……。もしや、天職なのでは?」


 思わず漏らした本音に、周囲の魔法少女たちが引き気味に拍手をしていたのを、僕は見なかったことにした。


 ---


 待遇改善に成功したことで、僕は組織内で妙な人望を集めることになった。もっとも、それを快く思わない者もいる。


「小娘が生意気に、上層部に口出しをするとは....」


 そう吐き捨てたのは、機関の運営に深く食い込む幹部の一人、主格の男だった。待遇改善によって都合の悪い予算が動かされたことを、根に持っているらしい。


「目障りだ。適当な任務にでも放り込んで、消してしまえ」


 そうして僕に割り振られたのが、通常任務とは名ばかりの、歴代最強クラスの魔獣討伐だった。誰がどう見ても体のいい厄介払いである。


「これ、完全に僕を殺す気だよね.....?」


 送り出される直前、資料に目を通しながら僕は乾いた笑いを漏らした。


 だが、不思議と恐怖はなかった。むしろ、ブラック企業で理不尽な激務に耐え抜いた経験からすれば、この程度の敵など可愛いものである。


 戦場に立った僕の前に現れたのは、山ほどもある巨躯の魔獣だった。周囲の魔法少女たちが悲鳴を上げて後退る中、僕は一歩前に出た。


「――さて。前世で鍛えたのは残業への耐性だけじゃないんだよね」


 いかにも魔法少女と言ったステッキを構え、僕は静かに技名を口にした。


 


「こういう技名は、たしか自分で決めてよかったはずだよな? ならば......僕に適しているのはこんなものだろうか。有給休暇・強制発動――『定時退勤斬』」


 光の斬撃が奔り、巨躯の魔獣が真っ二つに割れて崩れ落ちる。呆然とする周囲を尻目に、僕は淡々と次の敵に向き直った。群れをなす小型の魔獣たちが一斉に襲いかかってくるのを見て、僕はもう一つの技を放つ。


「未払い残業代、耳を揃えて返してもらおうか――『満額請求撃』」


 放たれた光の弾幕が、群れごと魔獣を薙ぎ払っていく。二体、三体、五体――倒しても倒しても、次々と現れる魔獣を、僕は表情ひとつ変えずに片付け続けた。


「な、なぜ、こんな……」


 現場を偵察していた宰相の部下が、震える声を漏らす。それもそのはずだ。彼らが用意したのは本来なら精鋭部隊でも壊滅しかねない数の刺客だった。


 だが、理不尽な労働環境に磨かれた僕の忍耐力とポテンシャルの前では、大した障害にすらならなかった。


「正直、月末の請求書処理の方がよっぽど怖かったよ.....」


 誰にともなく呟いた本音に、離れて見ていた同僚たちがなぜか揃って涙目になっていた。数字と戦う恐怖は、魔獣よりも根深いものらしい。


 追加で送り込まれた増援部隊も、僕にかかれば大した時間もかからなかった。


 次々と沈んでいく魔獣の山を前に、最初は悲鳴を上げていた仲間たちもいつしか呆れたような拍手を送るようになっていた。


「終わり、っと」


 最後の一体を沈め、僕は小さく息をついた。振り返れば、任務失敗を確信していたらしい主格が、顔面蒼白でこちらを見つめている。


 ---


 事後、機関の評議会に呼び出された宰相は、証拠を突きつけられて完全に言い逃れができない状態になっていた。


 刺客の手配記録、僕を陥れるための不正な予算流用、その全てが僕の地道に集めていた資料によって明るみに出たのである。


「馬鹿な…..たかが新人一人に、なぜここまで……」


「たかが新人が組織の膿を出しただけですよ。むしろ、これだけ杜撰な証拠を残していた方が驚きです」


「待遇改善のついでに、こっちの証拠集めもしておいたので」


 淡々と告げる僕に、評議会は静まり返った。宰相は椅子から崩れ落ち、これまでの横暴を数え上げられる形で、機関からの追放が言い渡された。


 取り巻きだった幹部たちも次々と関与を疑われ、居心地悪そうに視線を逸らしている。


「――ここまで容赦なく追い詰めるとは。恐ろしい子だ」


 評議会の長がそう呟いたが、僕としては至って普通の対応をしたつもりである。理不尽な要求には証拠で対抗する。前世で骨身に染みた処世術が、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。


 かくして僕は、待遇改善の立役者にして、機関史上最速で幹部候補に名を連ねる魔法少女となった。


 見た目は相変わらず舌足らずな幼女のままだが、中身は疲れきった社畜のまま、今日も淡々と職務をこなしている。


 一度は音を上げて辞めていった同期たちも、改善された待遇の噂を聞きつけて、ぽつぽつと機関に戻ってきた。


「今度こそ無理しないでね......? 倒れる前に相談すること、いいね」


 上司らしいことを言っている自覚はあるが、面映ゆさよりも、素直に嬉しさの方が勝った。前世では誰も守ってくれなかった立場を、今度は自分が守れているのだから、悪くない人生である。


「――さて.......次は有給の完全消化を実現しないとね」


 新たな目標を胸に、僕は今日も小さな一歩を踏み出すのだった。


 もっとも、上層部の椅子はまだ空きだらけで、僕を次期評議員にと担ぎ上げようとする声も出始めている。断りたいのはやまやまだが、こういう時に限って、周りは妙に押しが強いものである。


「ホワイト企業はここにあり、ってか?」


 そんな僕の独り言が虚空へと静かに響くのであった。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


 今回は今まで書いてきたものとはまた一風違ったものに仕上がったとおもうのですが、どうでしょうか?


 もし少しでもニヤッとしたり、続きが気になったりしていただけましたら、評価ポイントとブックマークをいただけると次の話を書く一番の励みになります。


 感想コメントもお待ちしております!!よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!!


 それでは、また次のお話でお会いしましょう!!

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