第2話:異常な適応
第2話:教えるはずだった魔法使い
森は、まだ静かだった。
だが――空気が違う。
「……回復してる……?」
ゆっくりと身体を起こした女性は、自分の手を見つめていた。
本来なら、立てる状態ではない。
致命傷に近いダメージだったはずだ。
それが今は――
「ヒール……? でも、こんな精度……」
視線が、目の前の少年へと向く。
血まみれ。
ボロボロの装備。
だが、その目だけは――異様に澄んでいる。
「……あなたがやったの?」
「ああ」
レオンはあっさり頷いた。
「さっき覚えたばっかだけどな」
一瞬、沈黙。
そして――
「……は?」
セレスは固まった。
「ちょっと待って。今なんて言った?」
「ヒール? さっき覚えた」
「違う!!そこじゃない!!」
頭が追いつかない。
ヒールは上位魔法だ。
才能がある者でも習得に年単位かかる。
それを――
「さっき?」
「うん」
「ありえない……」
セレスは震える声で呟いた。
だが、その違和感はそれだけではない。
(この魔力……)
目の前の少年から感じる圧。
底が見えない。
まるで――
「……化け物……」
思わず漏れた本音に、レオンは首をかしげる。
「失礼じゃないか?」
「いや違う意味でよ!!」
セレスは額を押さえた。
整理する。
・無詠唱
・杖なし
・初見でヒール成功
・魔力量が異常
(何これ……)
「……あなた、名前は?」
「レオン」
「私はセレス。魔法使いよ」
「見ればわかる」
セレスは咳払いをした。
「いい? さっきのヒールは偶然よ。魔法はちゃんと基礎があって――」
「こうか?」
レオンの手に、光が灯る。
ヒール。
しかも――
さっきより明らかに安定している。
「……は?」
「さっきよりうまくなった気がする」
セレスは言葉を失った。
(ありえない……ありえないありえない)
魔法は感覚だけじゃない。
理論、制御、詠唱――積み重ねが必要だ。
それをこの少年は。
「……一回見て再現した……?」
レオンは少し考えてから答えた。
「なんか、使うたびに分かる」
「は?」
「あと強くなる」
さらに意味不明なことを言う。
「敵倒しても強くなるし、負けても強くなるし、魔法使っても強くなるし」
一拍。
「人助けすると、めっちゃ強くなる」
「…………」
セレスは完全に沈黙した。
(何それ)
そんな成長法則、聞いたことがない。
いや、もし本当なら――
「……無限に強くなるってこと?」
「多分な」
あまりにも軽い。
だが、その目は嘘を言っていない。
「……ちょっといい?」
セレスは杖を構えた。
「軽く撃つわよ」
「おう」
ファイアボルト。
初級攻撃魔法。
だが、セレスのそれは熟練の一撃だ。
炎が一直線にレオンへ飛ぶ。
レオンは剣を振った。
そこに――魔力を纏わせる。
斬撃。
炎が、両断された。
「……は?」
ありえない。
魔法を剣で斬る?
しかも初級じゃない威力を?
「今の、いいな」
レオンは呟く。
「もっと速くできそうだ」
その瞬間。
身体に魔力が流れる。
加速。
「……なにそれ」
「わからん。できた」
セレスは確信した。
(私が教える側じゃない)
むしろ――
「……レオン」
「なんだ?」
セレスは、深く頭を下げた。
「私に、魔法を教えてください」
沈黙。
「いや、お前魔法使いだろ」
「あなたのそれは“別物”よ!!」
顔を上げたセレスの目は、真剣だった。
プライドなど、捨てている。
「……頼む」
レオンは少しだけ考えて――
ため息をついた。
「……畏まるなよ」
「え?」
レオンは笑う。
「仲間だろ?」
その一言で。
セレスの世界は、完全に変わった。




