"失楽園"
頑張っても配信者にはなれなかったが、防音ルームは役に立った
人間を監禁するのに、これ以上適した空間は存在しないからだ
『 』の頭を撫でる
彼は僕の子供だ
血は繋がって居ないが、彼が赤児の時から僕が育てて居る
彼は新宿駅のロッカーに捨てられて居た子供だ
戸籍も無いし、言葉を話す事も出来ない
教えて居ないからだ
彼と過ごす時、僕は言葉を発さない
万が一にも言葉を覚えてしまわないようにだ
彼は僕が育てた、理想の少年だった
夕餉の時が来た
僕は防音ルームに入ると、『 』に袖をめくった白い腕を差し出す
『 』は獣のように僕に這い寄ると、腕を噛み裂いて、ごくごくと血液を喉に収め始めた
息を吐き出しながら、甘い痛みに耐える
なんて可愛いんだろう
僕の血を飲んでる
『 』の頭を撫でる
噛まれている腕が引き摺られ、僕は転倒した
『 』が僕を仰向けにすると、伸し掛かって肩口に噛み付く
ぱっ、と花が咲くように
視界に血の赤が飛び散って居った
愉し過ぎて
唾液を伴った舌が、引き攣りながら死んだ貝の様に、だらしなく口から溢れ出る
それを、爪の長い指が摘んだ
眼を閉じて居ても解る
僕の磨いた爪
僕の好みのネイルをした、『 』の指だった
自分の瞳孔が激しく開く音を、僕は初めて聴いた
『 』が僕の舌を、物欲しそうに視て居る
刺すような痛み
出血の、鈍い痛み
躰の一部分が喪失される感覚
舌の無い顔で僕は『 』を、眩しそうに視上げた
時刻は深夜を回っていて
この世の総てが暗闇の中だったが、僕の前頭葉からはきらきらと快楽が泉のように湧き出して居た
その源は、いま眼の前に居る少年に他ならなかった




