第3条
「『法的安定性』? 『社会契約』? あはは! 導師、君は大きな勘違いをしている。法とは『強者が弱者を管理するためのマニュアル』に過ぎない。そして今、この国で最強の暴力を持っているのは俺だ。つまり、俺の機嫌こそが唯一の『自然法』なんだよ」
「論理の飛躍だ! 貴殿が今日作った法は、既存の憲法が規定する『基本的人権の尊重』に明らかに抵触している! 憲法は国の最高法規だ。貴殿の『機嫌』ごときがそれを上書きすることは断じて許されん!」
老法学者が、震える手で憲法典を掲げた。
周囲の人間が、すがるような目で彼を見ている。ああ、いい。その「正論」が、今から粉々に砕け散る瞬間が楽しみで仕方ない。
「導師、君は『違憲審査制』を知っているかな?」
「当然だ。法の番人たる私が、今ここで貴殿の法を『違憲』と断じる!」
「残念。その『憲法』自体が、今、俺の解釈によって『公の秩序を乱す有害図書』に指定された」
俺はパチンと指を鳴らした。
すると、老人が持っていた憲法典がドロドロの黒い液体に変貌し、彼の足元を汚した。
「いいか、導師。憲法第1条を俺が今、書き換えたんだ。『第1条:裁判長(俺)の言葉は憲法に優先し、かつ、これに異議を唱える者は、存在自体が憲法違反であるとする』。……さて、導師。君は今、俺の機嫌という最高法規に対して『異議』を唱えた。これは立派な『自己矛盾による存在違憲』だ」
「なっ……何を……バカな……! 憲法を憲法で上書きするだと……!? そんな『法のパラドックス』が許されるはずが……!」
「許すのも俺、裁くのも俺だ。導師、君の罪状を読み上げよう。『あまりにも正論すぎて、俺の頭が痛くなった罪(知的財産権の侵害)』、および、『古臭い法理論による視覚的公害』だ。……主文、死刑。ただし、君は法学者だ。敬意を表して、『法の重み(物理)』による執行を許可してやる」
俺がガベルを振り下ろすと、導師の頭上に、数万冊の法律書を凝縮した巨大な岩石――「法理の塊(質量10トン)」が出現した。
「待て! まだ『適正手続き(デュー・プロセス)』が……! 弁護人の選任権が……! ぐ、あああああああッ!!」
ドォォォォォン!!
伝説の法学者は、彼が愛した「法の重み」によって、文字通りプレスされて消滅した。
床には、粉々になった六法全書と、わずかな血の跡だけが残っている。
「……ふぅ。やっぱり正論は疲れるな。国民にはいつまでも馬鹿でいてもらわなきゃ困る。貴族の不倫ゴシップでも流せば、このジジイの死なんて、単細胞な連中はみんなすぐ忘れるさ。重税で思考を奪ってもいい。しかし、これで証明されたろ? 『法は、声の大きい奴(とチート持ってる奴)が勝つためにある』ってことが」
俺は、希望が完全に死に絶え、絶望で失禁している傍聴席の面々を見渡し、爽やかに告げた。
「さて、次は誰かな? 今の刑執行の音が大きすぎて、俺の鼓膜が驚いた(公務執行妨害)んだけど……。連帯責任で、三列目より後ろは全員、『鼓膜の供出』か『財産の没収』、好きな方を選ばせてやるよ。……あ、もちろん弁護人は、さっき死んだ導師を指定していいぞ。地獄で相談してこい」
完




