第1条
「静粛に。これより、被告人――ええと、誰でもいいや、その辺のモブAの公判を開始する」
俺は、最高裁判事(最高権力者の遊び)の真っ黒な法衣に身を包み、高座から見下ろした。
被告人席でガタガタと震えているのは、街で見かけた際に俺と0.5秒ほど視線が重なっただけの不運な男だ。
「さ、裁判長! お願いです、私はただ道を歩いていただけです! 目が合っただけで死刑なんて、そんな法律、聞いたことが……!」
「黙りなさい、無知なモブ。君が触れているのは、今朝午前4時に俺が独断で起草し、5分後に俺が承認した『公衆衛生維持に関する緊急特別法・第1条』だ」
俺は分厚い六法全書(※俺の落書き帳)をパラパラとめくり、冷徹に告げる。
「いいか。法学における『期待可能性の欠如』を盾にするつもりなら無駄だ。俺という高貴な存在の視界に、君のような不潔な視神経を侵入させた行為は、俺の精神的平穏を侵害する『不法行為(民法709条)』に該当する。さらに、その視線の鋭さは、俺に対する『未必の故意』による殺人未遂と解釈するのが一般的だ」
「殺意なんてありません! 偶然です!」
「偶然? ほう。では君は、俺の存在を、因果関係の鎖から切り離された『不可抗力』だと主張するのか? それは俺の存在そのものを否定する『尊厳毀損罪』にもあたるな。……検察官、起訴状の訂正を。罪状に『不敬罪的解釈に基づく公序良俗違反』と、『視線による物理的接触を伴わない暴行致死予備』を追加だ」
検察席に座っているのは、俺に完全に洗脳され、法律マシーンと化した元聖女だ。彼女は虚ろな目で、高速で書類を書き換えていく。
裁判長。被告の行為は、『罪刑法定主義』の観点からも、俺様の機嫌に照らして死刑が妥当と判断します」
「よし、採択する。……さて、被告。君に『黙秘権』は与えるが、黙秘した場合は『罪を認めたもの』とみなして即決裁判を行う。逆に弁明した場合は、その一言一句を『虚偽公文書作成幇助』として加算する。好きな方を選びたまえ」
「そんな……! どっちにしろ死ぬじゃないですか!」
「おや、理解が早いね。法学的思考の基礎ができているじゃないか。だから君をこの法廷に呼んだんだが」
俺は満足げに頷き、傍らに置いてある特注の「死刑判決専用」の巨大な木槌を手に取った。
「被告の行為は、俺の網膜という聖域に対する『不可侵特権の侵害』であり、かつ、俺の機嫌を著しく損ねたことによる『法益の喪失』は計り知れない。よって、**刑法第0条:『俺が不快に思ったなら死ね』に基づき、主文を言い渡す」




