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今日はきっと、こういう日

作者: りな
掲載日:2025/12/20

彼女は突然の雷雨に、自転車のペダルをこぐ力を込めた。

前が見えなくなるほどの豪雨で、空と地面の境目が溶けたみたいだった。雨粒が顔に叩きつけられ、息をするたびに水の匂いが肺に入り込む。


鞄は、いつも持ち歩いているゴミ袋で覆った。用心深い自分を少しだけ誇らしく思ったけれど、そんな工夫も焼け石に水だった。制服はすっかり水を吸い込み、気づけば下着までずぶ濡れだ。


「はー……雨宿りの場所まで、間に合わなかった」


独り言が雨音に消える。

彼女は睫毛から滴る水を腕で拭った。その仕草は少し乱暴で、少し投げやりだった。


思い返せば、今日は朝からついていなかった。

ホームルームで名前を呼ばれた時、返事が小さいと注意され、提出した課題は「ここ、雑」と赤ペンで突き返された。昼休みには、仲がいいと思っていた子たちが、自分抜きで笑っているのを見てしまった。放課後、勇気を出して声をかけたら、忙しいからと軽く流されて、それ以上踏み込めなかった。


胸の奥に、小さな石がいくつも積み重なっていくみたいだった。


それでも彼女は、ふっと息を吐いた。


「まあ、仕方ないか」


靴の中はぐちゃぐちゃで、踏み込むたびに気持ち悪い音がする。髪は濡れ鼠で、きっと鏡を見たらひどい顔をしているだろう。それなのに、なぜか笑みがこぼれた。


「たまには、濡れるのもいいんじゃない?」


誰に言うでもなく、そう呟く。

完璧な日なんて、そうそうない。嫌なことが重なる日は、理由もなく続く。だったら今日は、そういう日だったと認めてしまえばいい。


「今日は、濡れる日だったのさ」


そう思えた瞬間、胸の重さが少しだけ軽くなった。

困難は消えない。でも、笑えば、前に進む力は残る。


彼女はペダルを踏み続ける。

雨の中を、顔を上げて。

明日がどうなるかは分からないけれど、今日を越えた自分は、きっと少しだけ強い。


雷鳴の向こうで、彼女は静かに、確かに笑っていた。

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― 新着の感想 ―
空気感が伝わってくる感じがしました。 なんだろう、雨の、土砂降りの、空は暗いんだけど、雰囲気ですかね、からりとさわやかでした。 良かったです。
めっちゃいいです! 素敵な掌編を読ませていただき感謝です。 心理描写と情景描写がしっかりと混じり合い、読後感も前向きで気持ち良いです。 雨を含む空気が肺に入るあたり描写のうまさに唸りました。 とこ…
早く帰っておいで〜 お風呂沸かして待ってるよ。 こんな日は、ごはん食べて歯磨きして、もう寝てね。
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