第29話 愛と命
地獄。
18日 AM4:27 墓地
貴音は早朝に1人こっそり祖父母の寺の中にある墓に空から降りて来ている。
「..................」
無言で日本酒を墓石にかける貴音。火をつけたタバコ、線香と羊羹を供えて手を合わせた。ルールをあまり知らない貴音はやりたい様にやった、そもそも神も仏も信じていないと言うのもあるが祖父母や友人達は天国に行ってほしいと言う矛盾した気持ちを持っている。
「地獄に堕ちるのは、この俺1人で良い。だから............あの世があるなら来世があるなら幸せになってくれ......も、もう俺は耐えれないっ、ううっ......なんで狙いが俺以外なんだよぉ......みんなごめんよ、俺がヒーローなんかやるから............」
膝をつき墓にもたれて大泣きする貴音、あまりにも溜まっていた物が爆発し悲しんでいた為に後ろから来る人に気づかなかった。
「......阿弥陀如来の救いは全員を救います、あなたの祖父母様の浄土真宗は信仰していなくても、例え悪人でも極楽浄土に導いてくださり仏となります。今も極楽浄土から必ずあなた様方を見守ってくださっています............」
住職が後ろから部屋着姿で話しかけてきた事にびっくりして更に空に浮く貴音。
「危険性を考えてめ、迷惑になる時間を避けて来たのですが......勝手に入ってすみません」
「大丈夫ですよ。住職の朝は早いですから」
「ありがとうございます、それとこれは菓子折りなどです。置いて立ち去るつもりでしたが、どうぞ」
「わざわざありがとうございます。......これは住職と言うよりは年寄りの助言ですが、いつでも何があっても自分を見失わず、辛い時は辛いとはっきり言う事が大切です」
老いた住職の眼差しには力があった。
「......助言ありがとうございます、では失礼します」
(よく似た様なアドバイス受けるけど暴走しそうに見えるのかな......)
そう言いながら飛び去っていった。
「......可哀想に、己の祖父母を弔うのさえ自由に出来ないとは......。南無阿弥陀仏......南無阿弥陀仏............」
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AM9:59 自宅の自室
線香の香を消してから静かに自室の窓から帰宅後に残されたエネルギーブレードと変身スーツの改造と仕組みの理解を進めている貴音。
「やっぱりダメだぁ......スーツの原理はナノマシンだ、このケースの中のケースに入っているんだろうけども、そんなモンイジれる機材は一般家庭にねぇ......てか、パンピーになんて高級なモンくれたんだ............ナイフはやっぱり出力変えれる改造が限界だな」
そもそも一般人は仕組みを少しも理解できない。
「......ここの邪魔なのなんだ......?これラズベリーパイか!??」
スーツの収納された手のひらサイズの箱型の物体を無理やり開けると中のプログラムを保管する機械は市販の物であった。つまり、貴音はプログラムの書き換えが可能であった。まあ問題は扱える言語で書かれている事ですね。
(※ラズベリーパイは実在する小型のパソコンでプログラミング学習に使われたり、機器を制御する頭として使われます。これで小型ロボットやドローンなども作成可能です)
「よし、pcと接続したぞ。Pythonとかは知らないからC++とかであってくれ............うへー、見た感じC++だけど、どこがどうなってんだ......」
そう、他人が書いたプログラム程面倒なものは無い。会社でもまともに引き継ぎ出来ていないと書き直しの方が早い場合もある。それに我流で動くから良いやとめちゃくちゃなコードで書かれることもありそれをスパゲッティコードと言う(※本当)
「こりゃあ納期に追われてだいぶ焦って書いたぞ......取り敢えず全文コピーして保存......AIに読み取ってもらうか」
そして数分後に書き直されたコードをAIが吐いたので調整して置き換えて装着する事に。この時に声のデータを変えて装着から変身という事でスーツを着れる様にした。理由は単純明快で貴音が特撮ヒーローオタクだから。
「変身ッ......おおっ!多少は強度も上がったんじゃないか?」
デザインは大きく変更せず腰に変身ベルトの様にケースが変形してバックルの部分に来る様にした。黒いケースにはブラックホールのマークが銀色のエンブレムで施されてある。
「......仮面も欲しいがそれは世間の私のヒーロー像らしくないな、使わないけど念の為に生成出来るようにはするか。............よく考えたら箱にコントロールパネルを増設すればナノマシンの形状変化で多少の武器や道具が即席で出来るのではっ」
興奮気味にいつもなら書かない設計図と回路図を書いて秋葉原に飛び立ち必要な物を揃えると制作を始めた。
「なんだか妙に頭が冴えるぞ!最近の英語学習もネイティヴな発音を聞き取れるし、英検1級の過去問もテキストパラパラ見ただけで全部9割正解!もうアメリカやイギリス行っても会話できる気がするし趣味で覚えたかったドイツ語とか学ぼうかなぁーシュヴァルの名前もドイツ語の黒のシュヴァルツから来てるし......でもフランス語でシュヴァルは馬なんだよね......」
躁鬱の躁状態なのか独り言が大きい貴音。そして名前を呼ばれたと思ってシュヴァルが貴音の部屋に入ってくる。
「呼んだぁ?なんか色々やっているけど程々にね」
忙しなく動き回り作業している貴音を見て心配する彼女はそろりそろりと近づき不意打ちに抱きつく。
「わっ!?わ、悪いけど呼んでないし急に抱きつかれると驚くよ」
と言いつつもよくあるので引き剥がさないが彼女の様子がおかしい、明らかにあまりない胸を押し付けてくる上に猫の時みたく頭を擦り付ける。
「お、おい?どうしたんだ?」
(発情期が人間の状態でもあるのか?)
「最近シュヴァルが熱烈に諦めきれない愛をアピールしているんだけど......せめてノーくらい言ってよ」
九条がいなくなってからスキンシップが異常に増えていた彼女は我儘に貴音に少し怒る。
「......正直、私は変態のろくでなしだから範囲外では無い............が世間の倫理的にダメだ、日本トップクラスのヒーローが小学校中学年くらいの女性と付き合うなんて......それにシュヴァルはまだ世間を知らないんだよ、私より素晴らしい人間は星の数程いるさ」
と言うといつもゆるいシュヴァルが激昂する。
「なんでっ!!シュヴァルは人間換算だともう大人の猫だよ?ねぇ?姿形が人間になれたからって寿命が人間と同じかなんてわからないんだよ!!!それにこの姿になってから1ミリ足りと背は伸びてないっ、シュヴァルの成長はこれで終わりなの。......人外と人間のラブロマンスは悲劇で終わるの?それにシュヴァルは貴音しか見えないよ」
「............困ったな、反論出来ないな......だが自分で言うのもアレだが九条さんも私の事が好きな可能性が高い」
(子供は数ヶ月で身長はそれなりに伸びる。伸びないという事はもう成熟したという事だ、子供の姿で。それに寿命問題は確かに研究が進められているが、今どうなっているのか一切合切わからない......)
「ならちょっと勝手に言うのは悪いけどフギンも貴音を愛しているよ。貴音は沢山愛されて本っ当に幸せ者だね............あっ。っごっ、ごめん。さ、最後のは嫌味としてタイミングが最低だったね。本当にごめんっ............」
自己嫌悪、己の醜悪さに嫌気がさして部屋を出ていってしまう。
「待てよ!んなの気にしねえからどこ行くんだよ!」
移動速度は貴音が圧倒的に優っていたが相手は猫、玄関から出てすぐに見失ってしまった。
「............ああ、クソッ。......だが確かに今は重婚は合法だったよな、みんながokなら負けヒロインはいないから............」
なんて話していると騒ぎでフギンも部屋に来る。事情を説明すると彼女らしく無い暗い顔になる。
「......そうだ。私達の寿命はわからない、成長するタイプの人になった人もいるらしいし、まだ寿命で生き絶えたなんて話も聞かないから希望はそこそこある。でもボロ雑巾みたいに意地で生きた私の余命はおそらく長くない......かもね。でも息を引き取る瞬間まであなたを想うよ、この恋が悲恋で終わっても......ね」
聞いたこともない悲しい声色で心情を吐露すると貴音の言葉を聞かず出て行った。
「............また1人と失っていく、私は心を殺した?......私の全ての選択は間違っていたのか、誰が答えを知り得る?クソが。イレギュラー続きの人生。なりたかった超能力者がまさかの不幸の連鎖の始まり。こんな物語誰が読むんだよ、フラストレーションの解放はいつだよっ......って言っても仕方ない、シュヴァルは帰ってくる、そして九条さんも......都合が良いが信じている」
その日は作業する気分になれなかったので中断した。やる事も無いので最近買った黒色のアメリカンバイクのロケット3R(※実在)で軽くツーリングに出た。
「デカいバイクに乗る色々デカい女か......この力を得てから良い事と言ったらかなりの収入があってバイクやら趣味に使えることくらいか。あとヘルメットの着用が免除されているのは大きいかぁ............」
ミーティアンで交通事故でほぼ確実に死なない人達は、それを証明するとヘルメットの着用が努力義務まで落ちる。他にも子供の姿だが臓器は大人なので飲酒可能な場合は飲酒のライセンスが発行されたり、アルコールで酔わない体質の者は飲酒運転が可能にと、薬師寺は反ミーティアンだが支持率をキープしたいのでミーティアン関連の政策を進めている。まあ不要になった最後はEシリーズの兵器で皆殺しにすれば良いというクソッタレな思想が脳みその中の大半だ。
「都内はすぐ信号に詰まる......奥多摩に行こうかな............ん?」
ぼやいているとファンが道路から手を振ってジャンプしているのが見えた。爆音の排気音に煌めく青い髪の女、目立つに決まっている。貴音は顔だけニコニコ手をふにゃりふにゃり振って応じる。
「BB最高!!俺はあんたの味方だー!!」
「もう全てがメロい」
とファンも満足の様で通り過ぎ東京の秘境、奥多摩に来た。
「ここの道の駅温泉あるのかぁ......行くか」
実はかなり温泉が好きな貴音は店に入ってから気づく。
(あ......今の私ってどっち入れば良いんだ?............冷静に考えてどちらもダメか......も)
「はぁ......ツイてねぇ............いや、色々付いてるからダメなんだよ......」
肩を落として出ていくと駅の販売店で好物の椎茸とシュヴァルの好きなチョコを買って帰る。梶原家全員は椎茸のバター焼きが好きなのだ。
「......もう外では足湯にしか浸かれないのかなぁ............帰るか」
行きが楽しいタイプの貴音はバイクを壊れない様に持って爆走飛行で帰宅。
シュヴァルの靴はまだ無かった。
だが挫けずにヒーロースーツの装置の改良に成功する。前に進む貴音。
仏教に関しては知人から聞いた話なので違いがあれば申し訳ありません。プログラミングとか機器の話はほぼ体験談です。




