第20話 ミラーワールド
絶対に加勢のないタイマン。
九条はハゲと睨み合いを続けている、ハゲも彼女の経歴は知っている為に体格差があるとは言え迂闊に攻めれない。
「あら?来ないのかしら?こんなおチビちゃんが怖い?それとも髪がないから頭の打撃を和らげないのが不安?」
「うるせぇっ!お前とメテオブレイカーが一般人の頃から俺らみたいな奴を相手に殴り倒して今尚生存し活動している。俺は反グレの馬鹿出身だが相手を舐めて負ける程では無い」
(本当に昔の俺は馬鹿だったからな......こいつが何の武術か格闘技を使うのか知らないんだよなぁ......新聞やネットニュースもっと見ときゃ良かった......)
ハゲはかなり警戒して詰めて来ない。だが九条から仕掛けてもあまりメリットが無い為に無意味な時間が過ぎるなかハゲだけ冷や汗かいている、体格差で力のゴリ押しで勝てそうな相手だが中途半端な戦歴の情報が己に足枷をつける。はっきり判断ができる、もしくは無知ならば即座に攻撃に移れたであろう。
「ねぇ?もう戦うのやめて自首したら?あの人は寛大だから、どうせアンタは死刑にも無期懲役にもならないし昔の自分がバカと自覚しているなら、今のアンタもバカだって自覚しなよ?何人殺してんのよ、一生反省しなさい。あと今の会長は誰?ミーティアン?アーキアン?」
死刑、無期懲役が無い代わりに社会復帰+更生プログラムというモノが刑期とは別に何年かプラスされる社会になった日本。貴音は世界が終わるからヤケになって犯罪をする人が増えたから、世界が救われた時に無期懲役や死刑になるのは少しだけ同情するという理由で活動家の様に働き国を動かし無くし作られたが、そのせいで日本では治安の悪化を招いている。この事についても貴音の悩みの種、自分はただの害悪活動家であったのではないかと精神に悪影響を及ぼす物となっている。
「多弁だな、メテオブレイカーがお喋りなのは知っていたがバディをやっていると似るんだな、小娘め。いいか?俺は人殺しに罪悪感はほぼ抱いていないが俺ら3人は好きではやってない、好きでは所属した訳では無い。メテオブレイカーを挑発したのは演技だ、実際は昔の会の人間がどうなったかなんて知らん。ここは盗聴されていないだろうから言うがな。お前の知りたがっている現会長......会長と言えるかわからないが慈日会のトップの命令だ、そしてそれが誰なのかは盗聴されていないとはいえそれを保証する奴がいねぇからそれは絶対に言えない。お前らを始末したらやっと枷が取り外され自由になれるんだよッ!!」
そう言うと遂に殴りかかりに走り寄って来る多弁なハゲ。
「......それ、優しいあの人にさっさと助けを求めたら良かったのに、そうすれば自衛隊もSATも誰も死ななかったのにッ!!!」
そう言うとその場で背筋を伸ばして手を2本前に出し構えて動かない九条。
「クソガキが1発で脳震盪で失神しやがれぇー!!」
拳を振り下ろす様に殴りかかったハゲ、だが九条はその勢いを活かして前のめりになる様に手を引き転ばせ、耳に向かって思い切り蹴り上げた。
「ぐぅあッ......こ、鼓膜が......!!ち、畜生!............あ!?た、倒れるっ!!」
「鼓膜が破けると平衡感覚を失う事もあるのよ、終わりよッ!!」
そう言うと股間を金玉が破裂しない程度に蹴り上げ、悶絶して蹲った所を脛を蹴りよろめかせてヘッドシザーズ・ホイップをかまして転倒させる。その後、何度も蹴ると服が捲れ上がってデブ腹が見える。そして九条は相手に足を掴まれない様に距離を取ってから言う。
「そのお腹......運動してる?能力に頼り切っているでしょ?アナタ、普通の人間の時の貴音(鍛えた後)でもステゴロで戦ったら身長差30センチも無意味に秒殺されるわよ」
九条にとっては貴音が全てなので過大評価なのかわからない事をハゲに言う。
「う......うるせぇ!今戦っているのはテメェだろっ!チビがッ!!......っ!痛え............」
そう威勢良く言うが立とうとしても痛みでモゾモゾするだけ。
「もう決着はついたわよ、早く現実に戻してくれない?アナタ、ここの世界について自分でも良くわかっていないんでしょ?変な事が起きて自滅したら馬鹿でしょ?」
「クソッ!どう考えても俺が勝って凌辱する流れだろッ!!なんで一撃も与えられねぇんだあ!!」
「うるさっ......AVの見過ぎよ。それより鼓膜が破けたから自分の声の大きさがわからないのかしら?そんなに叫べるなら鼓膜以外は大した怪我じゃないわね」
「チキショー!!だ、だがな、俺がお前をここに閉じ込めておき続ければ、あいつらに少しは楽させれるんだ、だから解除はしねぇっ!!」
「仲間意識はちゃんとあるのね、殺戮ゲスハゲにも」
「いいか?もう俺らは後がない、最初にミーティアンの幹部は3人と言ったが4人だった。だがあいつは会長が誰かを酒の勢いで友人たちに言っちまった、その場では誰も信じないで笑い話で済んだ。だが、その後何が起きたかわかるか?そいつと友人達の家族や親戚は全員殺されて家も燃えちまった............俺の様な行き場のない反グレや天涯孤独のミーティアンを必死にかき集めて慈日会の幹部に置いた。俺は両親も親戚もいる、縁は切れている様な物だがここで俺が死んで殺されるのだけは勘弁だ。俺が悪いから縁を切られたが俺は親を親とまだ思っている、親が殺されるくらいならいくらでも殺人をしてやるよ............その意気込みだったが年下のチビ女にボコボコにされちまうなんてなぁ......」
「............それこそ、本当に貴音に助けを乞うべきだったわね」
何とも言えない表情の彼女はそう告げると瓦礫の上に座った。
「アナタは私達とアナタ達、どちらが最終的に勝つと思う?」
「............知らねーよ、考えたくもねえ......」
そう言いながら頭に手を置いて起き上がるのを諦めたハゲ。この世界には2人しかいない筈、それにも関わらず遠くから歩く音が聞こえ焦るハゲ。
「なっ、なんだ?俺は非武装のお前しか入る事を許可していないぞっ!何が来ているっ?女!」
「女呼びはやめなさいよ、私には九条って名前があるんだから。............えーっと2人いるわね......アレ?あれって私?それとアナタ?......ちょっとっ!......もう私を攻撃しないでよね?上体を起こすから自分の目で確認しなさい」
そう言われて起こされて壊れた車を背もたれにして横を向きハゲは確認した。
「............鏡の中の俺らだ......入る時に映っている自分はどこに行ったのかと思ったがまさかちゃんと居るとは......」
「アレに自我は?性格は鏡の様に反転しているの?ねぇ!早く答えなさいっ!走り始めたわよッ!」
「し、知らん!だから初めて見たって!」
「じゃあもう何でもいいから早く外に出るのよっ!早くッ!!」
男の身体を揺さぶり言う。
「鏡はどこだ......俺らが入れるサイズのそこそこ明確に姿を反射する物に触れないと外に出れない......今武器を外の世界に弾く感覚で自分らに試したがダメだ............」
「じゃあ、もう立って!武器の侵入を許可して!」
「それも触れないとダメみたいだ......」
「こんの馬鹿ッ!もっと私達と戦う前に研究しなさいよっ!ほらもう来たわッ立ちなさい!多分殺されるわよ!!」
「うぅ......それなりに痛みは引いたか......」
「そりゃあ鼓膜以外は怪我しない様にしたからねっ!......うわっ!無表情の私が殴ってきた!気持ち悪っ......オラァ!」
鏡像の九条の拳を横に流したその腕で顔面を殴り飛ばした。
「うぅ!俺ってこんなに重いのかっ......それに手負の自分も倒せないほどミラーの俺も非力とは泣けるぞ......」
自分と掴み合いになり互いに転ばせようとするが、互いにデブで非力な為に全然まともに戦えていない。その一方で合気道や柔道をしている九条は自身との戦いに手を焼く。
「あ゛あっ!!いった〜......こんの!格ゲーじゃないんだからミラーマッチなんてしたくないわよ!」
鳩尾を殴られたがその腕を掴み関節の逆方向に曲げようとするが振り解かれ、ハイキックを繰り出されるがバク転して回避しハゲに質問する。
「ねぇ?ミラーの自分って殺しても大丈夫なの?」
「だから何もかも知らねえって!だ、だが殺すのは避けた方が良い気がする......なんせ一応自分なんだからな............」
ここでもしかしたら九条が自滅して勝てるかもしれないのに律儀に答えるハゲ。
「もうっ!曖昧なのよ!早く大きな鏡を探すわよ!こいつらを適度にぶちのめしながらねッ!」
そう言い終わる時に回し蹴りを鏡像のハゲの顎に当てると倒れた。
「い、一撃で......脳震盪か?漫画で顎先に振動を与える様にパンチすると起こりやすいと見たが......」
「良いから手を貸しなさい!アナタとの決着はついたし休戦......いや終戦よ、一緒に無意味に死にたいの?」
「わかったから少し動きを止めろ!唯一闘いに使えそうな体重で押しつぶす!」
「名案だけど私が死なない程度にしなさいよ」
そう言うと偽物の脛を蹴るが簡単に避けられ、接近され服を掴まれて絞め技を始める。
「ぐわあっ!私ってこんなに面倒なのねっ!」
だが、そこから振り解き投げ技をして地面に叩きつけた。
「今!」
「おらぁあ!!」
身体を縮こめて偽物の上にジャンプして乗った瞬間何かすごい数折れる音がした。
「............やっぱりアナタはさっさと私に体格さを活かして戦うべきだったのよ」
グロテスクな状態になっている自分の偽物を見て言う。
「生きていたらだけどダイエットしよう............」
2人はその辺のもので偽物を拘束した。
「正直、こんなにめちゃくちゃになった街中でデカい鏡なんて見つからない。小さいミラーから俺が頭を出して外のやつに用意してもらうしかない。入った時のミラーブロックは俺が消させちまったからなぁ......鏡さえあればワンタッチで帰れると思っていたからなぁ......まさか全身入る奴が必要とは............」
「馬鹿アホマヌケ。......もう良いわダメ元で探し回るわよ。あと本当になんでめちゃくちゃにしたの?目的は?」
「言わなかったか?慈日会のイメージ操作、メテオブレイカーやその仲間を始末する為だ、ヒーローならテロリストヤクザを見逃さないだろ?」
「......また貴音狙い............ねぇ?政府の関係者が会長じゃないの?例えば......薬師寺派閥の人間、いや薬師寺本人だとか?」
それを聞いたハゲは血の気が引いた様に真っ青な顔になった。
「あー、もう良いわ。急に興味無くなったから答えなくて良いわ。早く行くわよ」
下手な動きをすると何かしらの能力でミラーワールドでも殺されかねないと思い気を遣って同情した九条。
「は、はい......」
流石に彼女の優しさを察して思わず敬語になるハゲ。
「というかアナタ何歳よ、私の事ガキとか小娘扱いするけど......顔的に37くらい?」
「25......です............」
「私より年下かよっ!!」 (※26歳)
そう言いながら背中を引っ叩く彼女、ハゲは奇声をあげて痛がる。
こうしてわけわからない事ばかり起きた鏡の世界の戦いは九条が圧倒的な勝利をした。
まあ隕石落ちる前から治安維持戦いの前線のいた人が負ける訳ないよね。




