ステータスを操る〜働かないで奴隷に稼がせる生活〜
トリップしたものの、戦闘力皆無なステータスが反映され、経験値なんて貯められるわけもなく、レベルアップ出来ない。
肉の壁、または肉の武器が必要だ。
エンフィルドは、すごくゲスい思考を垂れ流しながら今現在、奴隷市場と呼ばれるまんま、奴隷がバーゲンセールされているところへ来ていた。
現代思考ゆえに最初は奴隷なんて~と非常にシビアな反応をしていたが、今となってはそのせいで己のスケジュールに、大きく穴が空いているので絶賛後悔中だ。
「むう。問題は予算だな」
全然稼げていない。
つまりはお金が足りない可能性が高い。
そこら辺に捨てられていまいか、と期待したがなかった。
市場を回っていると、一際ボロい露天があった。
そこは幼児が売り出されていて、値段も破格な程安い。
死にやすいからだろう。
「買いだなこれは」
キュピーンと自身の頭に天命が降りた。
この幼児をセットで買うべし。
セットで買うことによって、値切れたのだ。
我が天命はさすがだなとウキウキする。
「ふーん」
うなる。
すごく格好があれだが、今から食い扶持を稼ぎにいかなければなにかを与えてやれそうにない。
エンフィルドのご飯だって、もう食べられないのだ。
主のはずの、自分さえヒモジイ事態になっているのだから。
奴隷だから雑な扱いなんだな、と思われても仕方ないが、今だけの辛抱でしょと一人で頷く。
取り敢えず、モンスターを倒せと指令を出しておけばいい。
幼児達をお買い上げした後、各自簡潔に自己紹介する。
「じゃあ、わたしから名乗るね。名前はエンフィルド」
名乗るように足すものの、いっこうに名乗らず三者はこちらを鬼のように睨み付けている。
真に怒りをぶつけるべきは奴隷商人か、この子達を売った誰かであると思うのだが。
「名乗らないならべつにいいや。んじゃ、今からダンジョンに行って、モンスターを狩ってきて稼いできて。その稼ぎが、あなた達の生活費になるから」
面倒なので、お腹が空く前に終わらせてきてくれ。
って、自分も潜らなきゃステータスが上がらなかったな。
すごく面倒だと思いながらも、行かねばご飯すら食べられない世知辛さに、三人へ付いてくるように言う。
三人はきりがないからと判断したのか、ついてきた。
ダンジョンに潜る前に、小手調べで彼らを外の草原へ連れていき小型モンスターへの攻撃を指示する。
武器も買えないから素手になる。
「まず、先に知らせておくけど。あなた達には、防御の加護と攻撃を上げる加護があるから、怪我もしない。だから慣れたら、ガンガン攻撃をしてね」
なーんて言ったとしても、相手がそれを信じるなぞあり得ないので経験をしてもらって肉体に刻んでくれりゃ、あとは勝手にもりもりやってくれるだろうさと他力本願である。
なげやりに説明して行くが、思った通り納得してないので無理矢理戦闘に投入。
ダンジョンへ入って、涙目逃げ腰な彼らへ指示を飛ばす。
怪我もしないし、攻撃しとけば勝手に倒されていく。
彼らは、必死な状況でがむしゃらに拳を振るう。
それは拙く、とても攻撃と呼べるようなものではない。
──ブンブン
──ガッガッ
手を振り回していると表現するのが、正しいだろう。
しかし、それが当たれば瞬間的に敵がはぜれば3人は、少しずつ自分達の攻撃が通る事を理解していく。
そうすれば攻撃に入り、撃破するまでの動きがぎこちなさはまだまだあるが、積極的になっていった。
計画通りだ。
満足に彼らの後ろで頷いていた。
「おれ達……」
呟いたのはトム。
後から判明するかもしれないが、奴隷屋経営の主から書類で渡されたので当然知っている。
「ああ。爆発的にステータスが上がってるな」
鋭い目をした子はテロイナ。
この子を中心に、3人目のアーノルドが指示を仰いでいるみたい。
確かにしっかりしてそうだ。
ダンジョン初日は小手調べて済んだ。
外へ出ると、もう朝日が上っていて結構長い間潜ってたのだと知る。
ダンジョンの中は時間経過を感じとり難い。
そのころには、3人はへとへとな顔をしていた。
いくら攻撃して負け知らずだとしても、初めてだろう戦いに精神的な部分が消耗したらしい。
それなりに稼げたのではないか。
分配は、落ち着いたところでしようとさっさと家となる場所へ。
狭いけど、詰めれば寝られるだろうし。
狭い中での生活は、慣れているのか文句を言うこともなく、寧ろエンフィルドまで雑魚寝をするところになにか言いたげな三つの視線。
気にするまい。
でも、これで予算を使いきったことを察してくれたのでは。
むにむにと笑って、ああ、勿論ばれぬようにね。
初めての四人の日は、この日を境に始まった。
毎日が忙しいけれど、二日休みという体勢をとって、きっちり自由を与えている。
首輪があるので、逃亡の可能性は一ミリも気にならない。
便利な道具もあるものだな。
道具様様。
それからこつこつと、レベリングとステータスの向上を目指して冒険者として腕を上げていく。
加護の力により、他を引き離す四人にやがて人々は注目していく。
勿論、テロイナ達の祖国も。
三年が過ぎるころには、名前も知れてきて食いぶちに困ることもない。
正直に言えば働きっぱなしにならなくてもよくなったので、週に2日の活動を宣言してエンフィルドは引きこもった。
三年経つと彼らも大人に近づき、それでも契約で自由になることも逃げ出すことも出来ないが、彼らは殊更逃げる気はない。
満足していた。
祖国からの接触が何度かあり、本人にお金を払って取り戻すことを言われたが、博識の彼らは祖国が自分達を戦力として、取り込もうと考えているのをしっかり見透かしていた。
彼らに使われるよりも、この引きこもりと暮らす方が平穏なのだと理解していた。
それを三人は一致して、認識にしている。
「おい、起きろ」
「むっぐ」
きゅう、とお腹を摘ままれて起こされて寝ぼけた脳をちかちかさせる。
まだ起ききれてないので、ふらふらする。
というか、主の腹をむにむにするなど奴隷としてどうなのだろう。
「飯食わねェのか」
話しかけているのはテロイナだ。
いつも朝は起こしにくる担当。
誰が決めた訳でもない。
「食べる」
席にふらついた足で着く。
皆平等に同じ量、男達は専用の大盛りで朝食を始める。
戦うにはエネルギーが必要なので、ケチケチしてはいけないと初っぱなからこうだ。
食べ終わり、町に出る日なのでタルいやと服を着替える。
「卵買ってきてくれよ」
アーノルドに言われて頷く。
「はー、女の視線が年々尖ってきてるから、出たくない」
彼はかっこいいし、強いしで女の子、女の人から黄色い眼差しを受けていて、奴隷と皆知っているので妬みとか酷い。
自分達の横に居る、その奴隷をどうにかしてから責めたらいいのに。
最近、見目のいい男ではなく見目の普通な男を奴隷として買うのは、どうだろうと思い始めた。
そしたら負担も軽減される。
ここ半年で、コピーしたステータスを他の人物に写せる能力が開花した。
コピーされたら、本人のステータスは元々のステータスに戻るので放逐しても大丈夫との検証も、済ませている。
「最近、あなた達の親族らしき人達がうるさいんだけど、どうしてくれるの」
色々煩わしい。
今まで、うんともすんとも反応しなかったくせして、彼らが活躍して有名になると国のお偉いさんが、口出ししてくるようになった。
使者は寄越すし、手紙も寄越すし。
うるさい。
「おれ達も構うなと言っているが向こうが、無視して勝手に言うんだ」
トムが歩きながら言い訳する。
そんなことを聞きたいが為に、聞いたんじゃないと不機嫌になる。
滅多に不機嫌にならないのに、家族らしき声が聞こえるようになって気分が最悪になるのだ。
いい加減完全に引きこもろうかな。
「祖国を黙らせられる権力もないんだ」
言われても、どうにかせいと溜め息を吐く。
引っ越せばいいのだろうか。
結構お金貯まったしなぁ。
「いいこと考えた」
家に帰ったらそうしようと、秘密にしておいた。
ギルドに寄ってお金を引き出そうと中に入れば、ギルドマスターと言う人に呼び出されて辟易した。
卵買って帰りたい。
「君が彼らの主なのは有名だ。相談なのだが、彼らをわたしたちに譲渡して欲しい」
「…………?」
ギルドマスターは訳のわからないことを言う。
この国の法律では、彼らを譲渡するのは主の意思でしか出来ないのに。
イエスなどと言うわけがない。
「無理ですけど」
「彼らは貴重な戦力となっている。君も、この国で肩身の狭い想いをしたくないだろう」
遠回しに脅されたので、くだらなさで俯く。
「彼らが子供のときは見向きもしなかったのに、調子がいいですね」
それだけ言うと立ち上がって、すたすたと銀行へ行き全てのお金を引き出した。
全額なので、もうここには来ない。
卵も買って行く。
終始無言でことを進めるので、ギルドマスターに呼び出されていない三人は緊張に黙っていた。
家に帰ると、この国を出るという言葉と共に今日限りで解散だとも、告げられる。
その折、ステータスを元に戻し退職金を渡すから好きに生きろと言われる彼ら。
待て、という言葉に疲れて目を細めた女に説明を求める。
ギルドに、テロイナ達の身柄を渡すように脅されたのだと言うと、彼らは余計なことをしやがると殺気立つ。
彼らだけのせいでなくうるさくなった外野にもう嫌気が指したのだ。
それを察した三人は、引き剥がされたステータスのまま放られる。
今までで貯まったステータスを手にしたわたしは、爆走して町から離れた。
あのお金さえあれば、祖国で不自由なく過ごせるだろと息をついた。
テロイナ達は解放されたが、そこに喜びはなく憤ったまま家族のもとへ行き、説得すると次は国に話をつけた。
とは言っても、弱体化したステータスを見せたら手のひらを返した。
ここにいる意味はないと、二度と干渉してくるなと言う文面を手にいれて彼女を追った。
ステータスを持った彼女を追いかけるのには大変苦労したし、追いかけるのにかなり経過して、追い付くころには全員成人済み。
女もしっかり大人びていて、面影を探すのにも苦労した。
奴隷を持つだろうと思っていたが、人間でなくて妖精を使役している。
妖精で衣服の仕事をさせて、現代の知識をフルに使い仕事を成功させていて。
もう、テロイナ達のような肉体労働者は必要ないとすげなくされたが、ナイトのようにボディガードとして勤めた。
*
テロイナがある日、花を持ってきた。
どうしたのだろうと聞くと、花を貰ってくれと頼まれる。
ステータス向上のメリットを与えないと言ってもついてきた三人のうちの一人。
彼らはあれからずっとここに居着いている。
いや、 半同棲かな。
違う家に住んでいて今は昔と違う。
それでも今までの経験で、彼らはなかなかよいところまでいっていた。
いっていたので、生活基盤は彼らだけで築けていた。
テロイナは、顔を緊張に強張らせて漸く言えるなと笑う。
ステータスをあげられたままでは思いを告げられなかった、と言われる。
なるほど、と頷く。
多分、こちらにおんぶだっこは嫌だったのだろう。
「おれと婚姻を前提に付き合ってくれ。ステータスなんかいらない。お前に救われた日から、思わない日はなかった」
毎朝起こしていたのも義務じゃなくて、寝ている時の顔を他に見せたくて、当番制にしたくなかったという。
「本当に……その、そういうのは考えられなくて」
「だろうな。でも、それでも想いを伝えたかった。これからもそばにいたい。いてもいいか」
「それは」
相手にも悪いしと断ろうとしたが泣きそうな顔をされて、本気なのだと知る。
この世界に来て帰れないと知った。
だから、一応この世界に骨を埋める用意は考えていたが。
伴侶については考えたこともなかった。
花を受け取り、花を見つめていると段々昔のことを思い出す。
まだこの子も子供だった。
自分も若かった。
「結婚できるかは保証できないけど。恋人もいなかったし……私に恋しても思ったようなことができないかもしれないよ」
何度も確認してこくりと頷かれる。
頬が赤く熟れている。
彼はクールな子だから感情面があまり出ない。
「大事にする。いつまでも奴隷としていたかったが、解約するっていうからな。そのあとはあっという間にいなくなるし」
と、切々文句を今更言われるけども。
そこは諦めてもらうしかない。
「いいよ。うんうん。えーっと」
「抱きしめていいか?」
「だ、抱きしめて?あ……んっ。んんっ。どうぞ」
動揺し、かちんと固まったが彼もゆるりと背に手を当てて、抱きしめると言うより腕で体を覆っているという感じで。
ぬくもりをもらえるとは。
相手も慣れてないから、抱きしめるのに手間取っているのだと思えば、心臓がどくりと鳴った。
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