99.協力を
ライオンから見れば、突然目を開けたら――私が目の前にいて。
しかも他にも二人、人間がいた。
そのうえ、ジェイドからは力で押さえつけようとする姿勢を見る。
そして――私たちの後ろのベッドには、ノエルがぐったりとした様子でいるのも見えただろう。
はじめは驚いて、唸り声をあげていたのが――徐々に、状況を理解して。
(きっと私たちがノエルを苦しめているのだと、そう思ったのかもしれない)
ノエルと自分との間に立ちはだかるようにいたら――勘ぐってしまうのも無理はないと感じたのだ。
なにより、私だって……大切なノエルが自分から離れたところでぐったりとしていたら。
(すぐに無事を確認したいし――元気になるためにどうすればいいか、考えるわ)
妖精のことは何も知らないので――あくまで自分が見たライオンの様子から、そう思っただけなのかもしれない……が。
それでも、見えない気持ちが……妖精の行動や仕草に出ていたと、そう思った。
そんなライオンの気持ちは――ノエルを大切だと思う私にも通じていて。
(だから……ノエルの妖精と敵対するよりも、どうか……協力したいと思ったのよね)
ライオンは相変わらず、ベッドの側で大人しくノエルを見つめている。
その様子を確認してから、私は――ゆっくりとライオンの方へ近づいた。
そんな私の後ろには、見守ってくれているのか……ジェイドが付いてきていた。
私が近づいたことで、一瞬ライオンはこちらに視線を向けたものの。
(やっぱり……ノエルの方が心配よね)
私が危害を加えないことを分かったのか、ただ視線をやっただけで。
すぐにまたノエルを心配そうに、ライオンは見つめていた。
そんなライオンの近くに来た私は、ライオンの側でしゃがみこみ――。
「……私は、ノエルが苦しそうになっているのは――嫌なの」
「……」
ライオンに、話しかけた。
するとライオンの耳がピクッと動く。
たとえ言葉が通じなくても、自分の意思を……気持ちを言葉に乗せることはできると。
そう、思うから。
「ノエルの苦しみをどうにかしたいと思ってる。そのためには……」
「グ……ヴゥ」
「あなたの協力が必要なの」
私が言葉を紡ぐと――はじめは、ノエルに視線を向けていたライオンが私の方に視線を向けた。
「あなたの毛並みが、薬の影響で黒色になっていて――それを治す必要があるの」
「……」
「黒くなった毛色を治すために……私が、あなたに触れてもいいかしら?」
ライオンの視線から目を逸らさずに、私も真っすぐに見つめる。
そして――お風呂場で子ライオンにした時と同じく、ライオンの前に手を差し出す。
本来なら、目の前にいるのは――猛獣で、とてもじゃないが手を差し出すなんて以ての外だ。
(でも……ノエルの妖精を信じたい)
ずっとノエルを心配して寄り添ってきた――ライオンを信じたいからこそ。
私は恐怖ではなく、真っすぐな思いで……手を差し出した。
するとライオンは私の手をじっと見つめてから。
――スン、スン。
私の手の匂いを確認すると。
――スリッ。
ライオンは、立派な鬣がある頭部を私の手に押し当ててきた。
そして安心したように、頭を私の手に押し当ててくる。
そんなライオンの行動を見てから、私はゆっくりと手を動かして――撫でていく。
「……分かってくれて、ありがとう」
「グ、ルル……」
ライオンからは敵意はなく、穏やかな鳴き声が出ていた。
「ほ、本当に……アタシ……今日は、本当に……これは夢じゃないのよね……?」
「……夢じゃない、現実だ」
私の背後からは、驚くレイヴンの声と――。
そんなレイヴンに言葉を告げる、ジェイドの声が聞こえてくるのであった。
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