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98.責任




「で、でもそれは――」

「大切な人を差し置いて、自分だけ楽をするのは――俺が自分を許せない」

「!」

「さきほども――お前を守ると言っただろう?」

「ジェイド……」

「お前を信じるし――もし何かあれば、俺もお前の責任を……一緒に背負いたい」


ジェイドの言葉を聞いて、私は彼から目が離せなくなった。


それに……。


(大切な人……)


ジェイドの口から出た――その言葉に、心がぎゅっと掴まれるような感覚があった。


そして彼は、さらに続けて。


「だから一人で責任を持とうとするな」

「……っ」

「話してくれて、嬉しく思う。お前に――この場はまかせよう」

「ありがとう……ジェイド」

「ただ……すぐにお前のところへ行けるように、側――少し後ろにいるからな」

「ええ、分かったわ」


ジェイドが言った――責任を一緒に背負ってくれるという言葉は、なによりも心強く感じた。


(OL時代は、一人でなんでもかんでも責任を持つのが当たり前に感じていたけれど……)


それはあくまでブラック企業から強いられていたような――そんな「慣れ」にも近い。


ダンスの練習後にも、彼からは――頼ってほしいと言われていたが、しみついた感覚ゆえに自分でなんとかしようとしてしまっていたのだ。


けれどこうして――ジェイドからの……思いを聞いて、肩の荷がスッと軽くなったような。


そんな気持ちでいっぱいになった。

ジェイドに対して、感謝と――温かい気持ちでいっぱいになる中。


(ノエルのために――私ができることを……!)


意識を再度、目の前のライオンに集中する。

私の少し後ろにずれた、ジェイドは。


「では、力は――使わなくする……いいな?」

「うん、お願い」

「分かった」


そして彼は掲げていた手から、光を消して――手を下げた。

すると、目の前のライオンは。


「グル……ヴゥ……」


まだ警戒は解かないものの、ジェイドの手が下がったのをじっと見つめていた。


そして手が下がったのを見終わったあとでも――。


(こちらにとびかかっては――こないわ……!)


私の知っている……テレビやネットで見た野生の世界なら、間違いなく襲われていたはずだ。


しかしこの現状を見るに――そうではなかったことの証明で。


(でもそうだとしても――まだ何も現状は変わっていないわ)


未だにノエルは、苦しみ続けている状況だ。だから私ができることを……そして感じたものを確かめなければならない。


ライオンを見つめながら私は、少し後ろへ下がって――空いている手を見せる。


加えて、ゆっくりと……極力相手を刺激しないように、を心がけて口を開いた。


「私たちは、あなたの敵ではないわ」

「グ……ヴゥ……」


そう私がライオンに言えば。

ライオンは私の空いている手をしきりに見つめて、何もないこと――そして後ろのジェイドも力を使っていないことを確認すると。


「……」

「ね? 何も持っていないし、あなたを害する気はないわ」


唸り声をあげるのをやめて、逆立っていた毛も徐々に落ち着いてきているようだった。


代わりに――じっと私の方に視線を向けてくる。先ほどから思っていた、ライオン……ノエルの妖精に感じていたことを、確かめるべく。


(そう、この子は――牽制じゃなくて、今したいことは……)


あらためて、私は口を開いて。


「あなたも……ノエルが心配なのよね?」

「……!」


ゆっくりと私は、ノエルが寝ているベッドの方へ視線を向けて。


ライオンに意図を確かめるように聞いた。

すると――ライオンは「そうだ」とでも言うように。


私やジェイドではなく、ノエルの方をじっと見つめて。柔らかい足取りで、トテトテとノエルが眠るベッドの隣に行くと。


床に大人しく、ストンと――お座りをするように座って。ノエルの顔の近くに、ライオンは鼻先を近づけていく。


「お、おい……あれは……」

「大丈夫、大丈夫よ」


ライオンの行動にビクッとしたジェイドは思わず声を漏らしていたが――すかさず私は、彼を落ち着かせるように声を出す。


(絶対に、この妖精は――ノエルに攻撃をしたりしないわ……だって)


――スンスン。


ライオンはノエルの近くで、匂いを嗅ぐ仕草を見せる。まるで、どうしてノエルはこんなにも苦しんでいるんだろう――という疑問を出しているような。


そしてノエルを見つめながらライオンは。


「ク、クゥ……」


悲しそうに、寂しそうに――そう鳴いた。


加えて、ライオンはノエルの体内に戻るような動きもない。


ただ、どうすれば――ノエルが元気になるのか……悩んでいるように感じた。


私の中にある……ライオンに感じていた想いは確信に変わる。


ライオンはノエルに攻撃なんてしない――もちろん、ノエルの妖精だからということもあるのだが。


それ以上に。


(ノエルの妖精は――威嚇していたときからずっと、ノエルの無事を確認したかった……)


人間とは違う存在である――妖精でも、私はライオンの行動から……そう思ったのだ。




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