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96.妖精



(確か――閣下の話では、ぼんやりとしたオーラの状態でって……)


レイヴンは先ほどそう言っていた。

しかし目の前に現れたのは、ちゃんと実体のある――黒いライオンだったのだ。

私が驚きでいっぱいになっていれば。


「そ、そんな……アタシの妖精の力は間違いなく――オーラの状態で出していたのに……」


ライオンが現れたことに、レイヴンもまた驚いているようだった。


「グルル……」


ライオンの目つきは鋭く、どうみても友好的な様子ではなくて……。


その眼光に――思わず私は足がすくんでしまう。


「レイラ!」

「!」


背後で見守っていたジェイドがすかさず、私とライオンの間に割って入った。


私を自分の身体で隠すように、ライオンと対峙し――。


ジェイドは手のひらのうえで、妖精の力を出しているようで――青く、光を放っていた。


その光を見たライオンは、嫌がっているのか……それ以上こちらへは来なかった。


「ヴ……ゥ」

「……想定外のことが、起きたな」

「申し訳ないわ……アタシのせいね」

「謝罪は不要だ。今は――俺の妖精の力で距離が取れているが……」


ジェイドは、目の前のライオンをじっと見つめて。


「ノエルの妖精は――ノエルのほうに……戻る気はないようだな」


ジェイドの言葉を聞いた私は、再度ライオンの方へ視線を向けた。


確かにライオンはその場に立ち続けており……ジェイドの光を見て嫌がっているものの。


逃げようとする様子は全くない――むしろ。


「ヴ……グルルッ……」


ジェイドに対して、立ち向かうような素振りを見せている。


「ほう……敵意があるようだな? その場で動けないようにするべきか……」

「グル……ッ」

「ちょ、ちょっとジェイド! 主のノエルがいないのに……妖精を攻撃したら、何が起きるか分からないわ!」

「なら――この妖精が攻撃を仕掛けてきたとき、他の方法はあるのか? レイヴン」

「そ、それは……」


目の前のライオンに、ジェイドは睨みを利かせながら――レイヴンと話す。


最初はジェイドの行動にストップをかけようとしたレイヴンだったが……現状の打開策がないためか、それ以上のことを言えないようだった。


レイヴンが言うには、妖精の主が不在の中――その妖精を攻撃するのは良くない……ということなのだが。


(つまり、このまま――ライオンの行動を制限すると……ノエルに何かしら悪影響があるってこと……?)


私の頭の中に――起きてほしくない懸念が生まれる。


しかし妖精について詳しくないため、どれほどの影響が出るのかは分からない。


だからもしかしたら、そんなに問題がないことなのかもしれない。


(現に、ジェイドが言う通り――ライオンを大人しくさせないと……こちらが危険な状態よね)


ジェイドの妖精の力を見ても、唸り声をあげている姿をみると――何が起きてもおかしくない状況だ。


なにより、ライオンは猛獣で……もしこちらへ攻撃を仕掛けて来られたら――大怪我は必至で。


(ライオンを大人しくさせる必要はあるわ……でも……)


目の前のライオンの主は――ノエルなのだ。

以前、ジェイドが言っていたように……妖精とその加護を受けている人間は密接な関係を持っている。


ジェイドは妖精の力がうまく制御できないゆえに、不眠になってしまうこと。


レイヴンが妖精越しに、感情が分かったと言っていたこと。


そして――。


(ノエルは今……妖精を引きはがした状態でも……)


私は、ベッドで寝ているノエルの方を見た。

すると、先ほどよりかは――幾分か呼吸が穏やかになっている様子が見えた……が。


(まだ……苦しそうに額から汗が……)


根本的な解決ができていないため、ノエルの苦しみはまだ続いている。


だから――本当は、あのライオンの妖精から黒いのを取り除けたらいいのだけれど……。


再び私は、ライオンの方に視線を戻した……その時。


(あれ……?)


未だにジェイドと、にらみ合っているライオンの様子を見た際に。

ライオンが、ジェイドというよりも……ジェイドの奥――ベッドで寝ているノエルの方を気にしているように見えたのだ。


(やっぱり、閣下の言う通り……ノエルの方へ戻りたがっている……? でも、それにしては……)


ノエルを気にしているだけではなく――ジェイドには威嚇をしていて。


まるでノエルを想って戦いの姿勢を見せているような……。


(本当にすぐにノエルのもとに戻りたかったのなら、私と見つめあった時に――すぐに一目散に向かうことだってできたのに……)


この場にいる人間の中では、弱く――自分で言うのもなんだが、ライオンにとっては脅威でもなんでもない人間を前にして……ノエルの方へはいかなかった。


(もしかして、この妖精は……私たちがノエルを――害する敵だと思っている……?)


妖精から見たら、ノエルとの間に障害のように現れている人間が――私たちだ。


だから、妖精の視点から見ると……私たちが敵に見えてしまうのだろう。


となれば、ライオンの妖精に見せるべきは――敵意ではなく無害な姿であり……。


(でも……本当にそれで……いいのかしら?)


正直、自分の――今の感覚ですべてを決めるのは怖い。

だって相手は猛獣で……隙を見せたら、襲われる可能性だってある。


けれど……目の前のライオンを見ているうちに、変な感覚だが――。

恐怖よりもノエルを想う行動の方に目がいって……ある姿を思い出す。


――にゃ……。


(どうして子ライオンのことを……思い出しちゃうんだろう)


ライオンをじっと見つめているうちに、ノエルが風呂を克服する時に……偶然会った――あの子ライオンの姿を思い出していた。


目の前のライオンとは、全く大きさが違うし――毛の色だって全然違うのに。


どうしても……風呂に対して恐怖するノエルと同じく、水にびっくりしていた……素直な反応をしていた子ライオンと重なって見えていた。


子ライオンのあの反応が――真っ直ぐだったからこそ……今のライオンもまた同じように、素直な反応をしているように思えてしまって。


(このままずっと睨みあっているだけでは、何も解決しないわ。それに――早くノエルには……元気になってほしい……だから……)


全ての責任を背負ってまでも……自分が見たライオンの想いを信じたいと思った。


そして私は、奥歯をキュッと噛んで……自分に覚悟を決めるように、活を入れ――。

おもむろに、口を開いて。


「ジェイド、ここは私にまかせてくれないかしら?」


そうジェイドに、声をかけた。




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