94.守り手
レイヴンの妖精自らが起こした行動に、私は驚きを隠せない中。
一番驚いているのは……。
「……ほ、本当だったのね」
レイヴン本人だった。
自分の妖精と、私とを見比べて――ちゃんと現実で起こっていることを確認しているようだった。
私は目の前の鳥を驚かせないように、そっと手を放せば……。
鳥は私の行動に不機嫌にはならなかったようで、そのままゆっくりと距離を取ることができた。
(き、緊張した……)
どこかノエルのためにできることを……今この場で証明しないといけない――そんなプレッシャーを感じていたのだ。
どうにかジェイドの妖精以外の妖精にも触れたことに、少しホッとしていれば。
「……レイラは、制限なく――妖精に触れることができるようだな」
「え、ええ……そうみたい」
「お、王妃様……? こ、これは……」
「え?」
「これは本当にすごいことなのよ……!」
レイヴンが、どこか興奮気味に私の方へずいっと近づいたかと思えば。
「ずっと妖精は……その加護を受けた主のみが触れる存在だと――そう、認識されているの。子どもに聞かせるおとぎ話では、妖精を触り――近くに感じることができる……守り手がいると書かれていたりするけど……」
「ま、まもり……て?」
「まさか、本当に実在するなんて……!」
しげしげと私を見るレイヴンに、ジェイドが私と彼の間に入って。
「おい……距離が近すぎるぞ……」
「え~~~! アタシ、本当に今……夢とかじゃないの……っ!?」
「はぁ……」
レイヴンが私の方に近寄るのをどうにかジェイドが制するものの。
レイヴンは自分の感動でいっぱいなのか、気にしていなかった。
そんな中、レイヴンの動きに耐えかねたのか――彼の肩から飛んだ鳥の妖精が……。
「え?」
床に着地し、私の方をじっと見つめてきた。
「どうしたの?」
「……」
特に鳴いたりはしないが――その鳥が見つめる方向に、自分も視線を合わせると。
(私の手を……見ている……?)
どうして手を見ているのかは分からないが、じっと見つめているのだから……何か訳があるのかもしれない。
そう思った私は、しゃがみ込んでから。
手を開いて、鳥の方へ差し出せば。
ゆっくりとこちらに近づいてきた鳥はそのまま――。
「ふぇ……っ?」
全身で私の手のひらの上に乗ってきたのだ。
私の手のひらを絨毯にするような感じで、身体をこちらに預けてくる姿勢で――。
突然の出来事に、私は素っ頓狂な声をあげてしまっていた。
「まぁ……! アタシにもそんなことをしないのに……やっぱり、あなたは……いえ、王妃様は守り手なのでしょうね……」
レイヴンは私の手のひらに乗る自身の妖精を見て――「もう、甘えるなんて……この子ったら」と声を上げていた。
「その……そもそも、その守り手というのは……」
ずっと気にかかっていた言葉について、レイヴンに聞こうとすると。
「あっ! そうね! ユクーシル国の者じゃないと、馴染みがない言葉よね」
そう返事をしてきた。
(確かに馴染みはない言葉だわ……でも、もともとの小説の方でも、私は見たことのないような……)
妖精系の話は読み込みが甘かったから、もしかしたら見逃していたのかもしれない。
もちろん、小説内での裏設定だとしたのなら――私が知る由はないのだけども。
「――もちろん、王妃様にそのことをお話ししようとは思いますが……」
「!」
レイヴンは視線をベッドに横たわるノエルの方へ向ける。
未だにぐったりと、呼吸が浅いノエルの様子に私は胸がぎゅっと締め付けられた。
「大切なノエル……殿下の苦しみを失くしてから――話すわ。だからひとまずは、アタシが言う通りに……どうか王妃様、ご協力くださいませんでしょうか……?」
「は、はい……!」
「それと……あなたも――早くこっちに戻りなさい!」
レイヴンは相変わらず、私の手の中で身体をうずめていた妖精にそう声をかけた。
その声を聞いた妖精は、どこかしゅんとした顔をしたかと思うと――バサッと羽音を立てて、再びレイヴンの肩上にとまった。
そして私はその場で立ち上がったのち――方法を教えてくれるレイヴンのほうへ、向かうのであった。
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