91.あらためて
「本当に……すまなかった」
「!」
私の方へ近づいたジェイドは、謝罪を口にした。
そして続けて。
「だから――お前がこのことを気を病む必要はない」
「……っ」
彼にそう告げられて、私は返事に窮してしまう。
確かに「知らなかった」から、ノエルの部屋を開けた時にはびっくりしてしまった。
マイヤードが上皇后様によって、牢から解放されていたこと。
上皇后様がノエルに会った時に――妙薬と称して、怪しい薬を処方したこと。
全部……王宮で嫌われ者――そして上皇后様に対して何の権力もない私は知る術がなかった。
ジェイドの言う通り、私が知らなかったのは仕方なかったし……ノエルがこうなったことも、私は何も悪くない――。
(いえ、そんなわけないわ)
確かに上皇后様を調べる権限や、彼女をどうにかする術はなかったのかもしれない。
しかし――それ以外の方法だってあったはずだ。
(……そうよ。私は……)
ノエルに会うべきだと思いつつも、会おうと踏ん切りがつかなかった。
上皇后様についても――ジェイドが言いにくそうにしていても、彼を説得して聞こうと……しなかった。
どちらも「二人の気持ちを尊重するがあまり」という部分があったと言えば、聞こえはいいが――。
(嫌われる勇気がなかった……だけね)
きっと、この行動を起こしたら……ノエルに、ジェイドに嫌われてしまう――そう思ってしまった。
だから「何も聞かないし、距離を置く方法」をとってしまったのだ。
こうしてノエルが苦しむ可能性を起こしたくないのなら、何が何でも――嫌われようとも……ノエルに会うべきだったし、ジェイドに聞くべきだったのだ。
二人から温かい言葉をもらった――この関係を壊したくなくて、温かい家族関係を壊したくなくて……。
(逃げてしまった……のよね)
ジェイドから言われた「レイラは悪くない」――という言葉を聞いた時。
ようやっと、自分のこれまでの行動の意味が分かった。
家族という関係構築を望んでいながら……良い顔をした自分を見せることしかできていなかったのだ。
私は――無意識のうちに口が開いて。
「ジェイド……やっぱり、私も悪いわ」
「っ! だから、お前は悪くないと――」
「何もしなかったのよ」
私がそう言葉を紡ぐと、彼はキョトンとした顔になった。
そんな彼に、私は続けて。
「家族なら――相手が苦しんでしまうのなら……遠慮でやめてしまうのではなく、行動を起こすべきじゃない?」
「っ!」
「あなただって、私が落ち込んでいたら――声をかけてくれたでしょう? 私はそれをノエルにできなかった……それにあなたにも、上皇后様のことを聞けなかった」
私がそう言うと――ジェイドは目を見開いてこちらを凝視していた。
そんな彼を私は見つめ返して。
「だから、私にも――今回のことは責任を持ちたいの」
「レイラ……」
「あなたに後悔を多くかけさせてしまって……私の方こそごめんなさい」
そう私が言えば、ジェイドはどこか迷いがあるのか――眉間に力を入れて、眉を八の字にしていた。
後悔や罪悪感が表れた……ここまで素直に不安げな彼の表情を見たのは初めてで、ついじっとさらに見つめてしまう。
しかしそうした彼の表情を見てから――。
(ジェイドが……ノエルの父親で、そして今は……私のもとへ来てくれて――良かったわ)
彼が真剣に思う気持ちが――あるからこその表情なのだと、思えたのだ。
だから彼の目を真っすぐと見つめて。
「あなただけが悪くはないわ――二人で、今回のことは向き合いましょう?」
「……」
「嫌……かしら……?」
先ほどからずっと無言のジェイドに、不安を覚え――ついそう、彼への確認を取れば。
「嫌じゃない」
「――よ、よかった……!」
「レイラ……ありがとう」
彼は感謝の言葉を言ったのち。
優しく微笑みを浮かべて、私を見つめた。
その笑みを見た私は、なぜだか――少しだけ不安が和らぐような気持ちになった。
「そうだな……二人で考えるべきことは――俺だけではなく、レイラも頼りにするべき、だな」
「ええ、忘れないでね?」
「ああ」
ジェイドの笑みを見て、ホッとしたのもつかの間。
「いつの間に、王妃様との仲が良くなったのかしら?」
「!」
ノエルの容態を――妖精の力の方から見ていたレイヴンが、私たちに声をかけてきた。
その声を聞いて、ハッと彼の方を見ると。
驚いたように目を見開いたレイヴンの顔が一瞬見えたかと思うと――彼はすぐに意識を切り替えて。
「ま、いいわ――それよりも、ノエルのことだけれども……原因が分かったわ」
レイヴンはそう――話した。
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