89.末路
「だから何だ?」
「……え?」
マイヤードの言葉に対して、ジェイドはバッサリと切った。
その反応を見たマイヤードは、理解できないのか――呆然としていて。
「何か都合のいいことを吹き込まれたのかもしれないが――お前は、ただの罪人だ」
「そ、そんな……」
「妖精の力が使えようが――誰かが後ろ盾にいようが……変わらない」
マイヤードの言葉を一蹴したジェイドは、手元に水球をつくり――中に向かって、「ここに来い」と声を吹き込むと、扉の外へその球を放った。
(妖精の力は……そんなこともできるのね……)
はじめて見る魔法のような芸当に、私はじっと見つめていた。
そんな中。
うなだれるマイヤードが口を開いた。
「嘘よ……うそ、うそようそ!」
「……」
「だって、あのお方だって、私が妖精を使えるのがなによりも尊いことだって! そこの能無しよりはるかに大切にされるべきだって!」
感情が決壊したのか、マイヤードの口は止まらずに声をあげていた。
そんなマイヤードの態度に、セインは諫めるように。
「無礼な物言いは看過できません。今からあなたの口を閉じさせます――妖精の力で」
「何よ! お前みたいな半端な騎士なんて! 私は高貴な身なの! 優遇されて当然なの!」
セインの言葉は全く耳に入らないのか――反発する言葉を出している。
そしてセインの妖精の力によるものなのか――。
マイヤードの手足を拘束するツタが、彼女の口を覆おうとした時。
「私はっ! 認められた存在なの! だって、上皇ご……っ」
口が塞がりきる前に、彼女が言葉を出そうとしたのと同時に。
――ピシャン。
「え……?」
私はマイヤードから目が離せなくなった。
それに、今見ている光景も――信じられなかった。
だって、マイヤードが目の前で「水」になったのだ。
液体の水――透明な液体に瞬時に変わって……。
マイヤードがいたところに、水たまりをつくっていた。
「なっ……これは……」
「――母上の力、だな」
思わず驚きの声を上げていたセインに、ジェイドが忌々しそうに言葉を呟いた。
(ど、どういうことなの……!? ジェイドの言葉通りなら、上皇后様の力ってことなのだろうけど……)
あまりに非現実的で、たとえここがファンタジーを舞台にした世界だとしても。
到底、「はい、そうですか」と受け入れられない事態があった。
私は言葉を失ってしまう。
「……ここに、母上はいないようだから――妖精の誓いを立てていたのか。バカなことを」
ジェイドが眉間に皺をつくりながら、そう言葉を紡いだその時。
――ダダダダダッ!
「アタシの愛しのノエルがっ、ノエルが、大変だって聞いたんだけどっ! 大丈夫!? ノエル!?」
扉越しからも分かるほどの、大きな足音と共に――部屋の扉が豪快に開け放たれる。
そしてそれをした人物を見やると。
ジェイドがため息を吐きながら……。
「……レイヴン」
「あら? なぁに、この惨状……しかもセインちゃんは、いったい何をして……って、ノエルっ! 大丈夫っ!?」
部屋の中をぐるっと見渡したレイヴンは、どこか疑問が残りながらも。
ベッドでぐったりしているノエルを見つけると、一目散に駆け寄ってきた。
そんな中。
――ダダダダダッ!
またもや、大きな足音が聞こえたかと思えば。
「殿下っ! お医者様をお呼びいたしましたっ!」
次に豪快に扉を開け放って入ってきたのは、セスだった。
彼の後ろには、急いでここまで向かってきただろう――初老の医者がいて。
「……ぜぇ、はぁ……」
「さぁ、お医者様! 殿下を……! 殿下を診てくださいっ!」
「は、はぃぃ……」
息切れしながらも、セスに促される医師の姿があった。
ノエルの部屋の中は、混沌を極めるのであった――。
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