表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/151

86.優先すべきこと



(上皇后様がノエルに、処方薬を……? 彼女が医師だったなんて、聞いたこともないし――物語の設定で見たこともないわ)


セスから聞いた話に、私は驚きを隠せなかった。

もちろん、自分が知らないだけで――上皇后様が医療の知識があって、活躍している可能性もあるのかもしれないが。


(こんな黒い痣に、高熱を発症させるなんて――普通じゃないわ)


とてもじゃないが、「医師でした」で納得できる状況ではない。


頭の中では、上皇后様の行動に不信感を覚えつつも。

今はその疑問を解消するよりも、ノエルの状態を良くしなければならない。


今すべきことの優先順位を、頭の中で出した私は。


「セス! 今すぐに王宮所属の医師を呼んでっ!」

「は、はい!」

「それと……もう一つ」


セスは私の顔をじっと見て、言葉を聞き逃さないように――集中しているように見えた。


そんな彼に私は……。


「陛下を……ジェイドにも今の状況を知らせて! そして緊急だと、私の言葉を伝えてほしいの」

「!」


私の言葉を聞いたセスは、驚いているようだった。

そりゃあ、陛下に緊急を――あの関係が冷え込んでいた王妃からの言伝なんて、私とジェイドの会話をずっと聞いていない使用人たちからしたら……。


(自分が外れ役をしてしまうなんて、嫌、よね)


最近は、私の周りに侍女がたくさん来ているとはいっても――まだまだそれは、私の近くに控える使用人たちにおいての話で。


通常の使用人たちがどこまで、今のジェイドと私の関係を知っているのかは……不透明だ。


セスはその中でも、よく私やノエル――そしてジェイドとの会話を聞いている方だが……。


(あくまで、セスの主はノエルなのだ。緊急性があるため主を救うために、医師の手配はしてくれるだろうけど……ジェイドへの言伝は……)


現状、私の専属騎士であるセインは侍女を拘束して見張っているため――私が代わりに人一人を拘束するのを代わることは難しい。


それに妖精の力も使えない私が、妖精の力が使える侍女を拘束しきれるのかも怪しい。


だから、医師を呼びに行くセスこそが――もし可能ならジェイドに声をかけられたら……それが最善で。


(私が医師を呼ぶ手配や……走るのが速ければすぐにでもやってのけたいのに……)


非力な王妃であり、転生してからは……医者を呼ぶのはもっぱら……使用人たちに命じることで成している生活だった。


もし自分がユクーシル国における生活のすべや、王宮内での仕事を熟知していたら……。


(いえ……すべてを知りきるには……途方もない時間と知識が必要だったわ)


もし何でも一人でできるようになっていたのなら、きっと今だって俊敏に動けたのかもしれない。


しかし私が知っていた物語では、そんな細かな描写はなく――今から学ばないといけないことを悔やんでも仕方ない。


私なりに、この世界や成り立ちを――この厳しい王宮内での生き残り方を必死に考えてきたのだ。


(だから、今できる最善の方法は――セスに頼ること……)


そう思って、彼に言葉をかけた。

そしてセスは、私の言葉を聞いてから――ぼそっと。


「殿下から言われたのは……殿下と等しく王妃様を重視すること――つまり……」


何か確認するように、彼が口を開き――コクリと頷いたかと思うと。


「王妃様、このセス――医師を手配し……陛下へ王妃様からの言伝を今から伝えさせていただきます……!」

「……! セス……!」

「緊急を要するので、すぐに行ってまいります……!」

「ありがとう、セス。私はノエルの側にいて、容態を見ているわ」

「ありがとうございます……! 医師様が到着した折に、何かお気づきのことがありましたら、お伝えいただけますと幸いです」


セスはそう言葉を言い切ると――妖精の力を使ったのか、まるで風のようにその場からスッといなくなった。


(そうか……セスもまた妖精の力が使えたのね。私が足が速かろうと……セスには勝てないわね……)


妖精の力が使える、使えないの差は大きくあるのだと実感した。


(ここで落ち込んではだめよ! ノエルの側に居ながら……)


自分の不甲斐なさに、ズキッと胸が痛みだしたが――今は、それどころではないと意識を切り替えた。


そしてベッドでうなされながら、目を閉じているノエルに……声をかけながら、彼が寝やすい体勢に介助をする。


そんな折に――。


「わ、私に……こんなことをして、許されると……!? 放しなさいっ」

「……おとなしくしろ」

「私は、上皇后様がついていらっしゃるのよっ! 今すぐ放しなさいっ!」


セインが拘束している侍女から、高い叫び声が出た。

今の状況を許せないようで、怒りを露わにしている。


そんな侍女の発言を聞き、私は無意識のうちに眉間に力が入っていた。


(ノエルをこんな状況に追い込んでいて……なんでこんなにも偉そうに……)


怪しい侍女の方へ視線をやれば――ふと、この侍女の声に聞き覚えがあることに気が付く。


あれ、この声はいったい……と思っている中。


セインの拘束から、なんとかして抜け出そうとした彼女が――自身の身体を激しく揺さぶったことがきっかけで。


侍女の黒いベールが頭からずれて――コトン、と落ちる。


それで露わになった侍女の顔を見て、私は信じられない気持ちになった。


だって、そこには――。


「マイヤード……伯爵令嬢……?」


審問会で裁かれたはずの――マイヤードがそこに、いたからだ。




お読みくださりありがとうございます!

⭐︎の評価を下さると、励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ