85.知る
■レイラ視点■
「あら? 返事がないわね……も、もう、寝たのかしら?」
「……いえ、そんなことは――。それに部屋の中から、照明の明かりが床下に漏れておりますので……起きておられるように思いますが……」
セインに連れられて、ノエルの部屋に到着したので。
勇気を出して、扉をノックした。
しかし肝心のノエルから返事が返ってこないので。
またもや、「ノエルに本格的に嫌われてしまったかも」と嫌な想像が頭をよぎってしまう。
そんな中、セインがノエルの部屋の扉――その下の隙間から漏れる光について、指摘してきたのもあって。
余計に――。
(本当に……嫌われていて……もう私とは話すのも、嫌……という可能性……も?)
グサッと嫌な想像が、自分の心を刺してくる。
(いえ! まだ断定するのは早計よ……! ノックが聞こえなかった可能性だってあるじゃない……!)
自分に言い訳するように、そう心の中で言葉を言い募ってから。
再びノエルの部屋の扉にノックをしようとした時。
「殿下っ!!!」
「!?」
私がノックをする前に、部屋の中からセスの叫び声が聞こえたのだ。
その瞬間、私は……考えるよりも先に手が動き。
――ガチャ!
「ノエルッ!」
すぐさま、ノエルの部屋のドアノブに手をかけて開けた。
基本的に貴族の部屋は、付き人や使用人がいるので――錠がかけられていないことが多いので。
ノエルの場合も、同じく――私がドアノブを引けば、すんなりと開いた。
それと同時に、目の前に広がる光景に……私は目を見開く。
ベッドでぐったりと倒れているノエル。
焦りながら、パニックになっているセス。
そして――。
(この使用人……いえ、侍女は誰?)
見慣れない――城内でも見たことのない黒いベールを被った侍女がそこにいた。
明らかにおかしい侍女が目の前におり、ノエルに駆け寄るよりも早く……この侍女を訝しんで睨みを向ければ。
「っ!」
「ちょっと!」
私の視線を向けられた侍女は、脱兎のごとく――急に私を押しのけて、廊下へ出て行こうとする。
(ノエルの容態を見ないといけないのは、もちろんだけれど……)
こんなに不審な行動をする侍女をそのままにするのも――できなかった。
この時の私は、火事場の馬鹿力のように……いつも以上に、脳をフル回転して。
すぐさま、背後にいたセインに声をかける。
「セイン! その侍女を拘束してっ!」
「はっ!」
私の声を聞いたセインはすぐさま、逃げようとする侍女を鮮やかな動きで拘束した。
「ぐっ……はな、はなしなさいっ!」
「……私の主は王妃様だけです。あなたの命令は聞きません」
「!」
「抵抗してもいいですが……私の妖精は土の性質を持つため――」
セインは拘束した侍女を、彼の周囲から生やした植物で――ツタを手元に生み出すと。
侍女の腕と足を頑丈に拘束する。
「あなたが現在、風の妖精でなそうとすることは――意味がないかもしれませんね」
「ぐ……ぅ」
セインによって逃げ場がなくなったことを理解した侍女は、その場でぐったりと身体の力を抜いていた。
その様子をチラッと窺ったのち、私はすぐにノエルのもとへ駆け寄り。
「ノエルッ! どうしたの?」
「う……ぅう……」
私がノエルが倒れているベッドに近づいて、彼に呼びかけても返事はなく――苦しそうに呻くだけだった。
どうにかして意識を確認したかった私は、ノエルの身体をトントンと触れば……。
(熱い……! 高熱……?)
ノエルの身体は平常の体温以上に、熱くなっていた。
それに――。
「これは……黒い痣?」
ノエルに触れた際に、衣服の隙間から――主に手首に黒い痣ができていることに気が付く。
どう考えても、普通ではないこの光景を見て。
脳内がパニックに陥りそうになるも――。
「……ふぅ――」
一度深く呼吸をして、思考を整える。
(私までパニックなっても、何も解決はしないわ……それよりも……)
「セスッ! どうしてこうなったのか……教えてくれる?」
「っ! そ、それが……」
私がノエルの執事であるセスに呼びかけると、彼はビクッと反応してから――背筋を伸ばし。
少しずつ冷静さを取り戻した目で、私を見ながら言葉を紡いだ。
「じょ、上皇后様から頂いた……処方薬を――いつものように飲みましたら、お倒れになりました……っ!」
「じょう、こうごうさま……?」
その言葉を聞いた私は、目を見開き――理解するために、自分の口にも出していた。
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