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84.力のために



■ノエル視点■



おばあ様から――「ユクーシル国の王族に伝わる妙薬」を飲むことを勧められて一か月が経った。


この妙薬は、王族内でも、おばあ様しかその生成方法……そして保管場所を知らないらしく。


薬はおばあ様の専属の侍女が、毎夜持ってきてくれることになっている。


話を持ち掛けられたときは、疑わしく思っていたが……。


『現在の陛下……私の息子も、この妙薬は飲んでいたのだけれど――途中で挫折してしまったの』

『!』

『もしこの薬を飲み続けられたのなら……あなたの父をも超える力を手に入れられるでしょうね』


その話を聞いた時、僕に必要な――「父上を越える力」のきっかけがそこにあると、そう思った。


『けれど、この薬を飲むということに……あなたの父親は良い顔をしないはずだわ』

『そ、それは……』

『だって、自分の負い目を認めるなんて……頂点に立つ者には難しすぎるもの。だから、秘密に……誰にもバレずに飲み続けられれば――必ず、ノエルの希望は叶うわ』

『おばあ様……』


悩みはあった。

本当に確証があるのか分からないし、いったいどんな薬なのか不明だし……。


けれど――相手は現在、国王と同じく権力を持つ……祖母。

その立場は、自分が欲しい「権力の証」同然のもので。


加えて、おばあ様は薬の効果を証明するように――目の前で、小さな瓶を取り出したかと思うと。


そのまま瓶の中身を一飲みして。


『今はもう……すべて効能ができってしまったから、もう意味のないものだけれども――こうして私が飲んでも無害なのだから、薬の証明はできたかしら?』

『え、ええ……』

『別に、強制して飲まなくてもいいわ。あくまで……ノエルの希望を叶える――祖母からのお節介だとでも、思ってちょうだい……ただ、ノエルが不要なら、そうねぇ――他に力を欲する者に手を貸そうと思っているわ』

『!』

『例えば、最近は王妃を守る専属騎士が――頭角を現しているそうね。セイン……だったかしら?』


その言葉を聞いて、僕は――迷ってはいられなかった。


『おばあ様、僕がその妙薬をのみます』


そうおばあ様に答えた日以降、おばあ様の言う通りに薬を飲み続けていたところ。


痣が出始めたのは――ちょうど、お母様と父上との晩餐会が終わった頃だった。


加えて激しい痛みも伴い、短時間の授業でも思わず顔が歪んでしまいそうになることも。


その痛みや痣について、おばあ様に連絡してみれば――「問題なく、もう少しの辛抱だ」という返事のみが侍女から伝えられたのだ。


だから今の自分にできることは、「もう少し」を耐え忍ばないといけない――ということで。


(こんな無様な姿を……お母様に見せられない……)


気づけばおばあ様の言いつけを、自然と守っており――日中は授業に勤しみ、夜は秘密裏に薬を飲む日々が続いていた。


――コンコンコン。


ドアがノックされ、セスが先に扉の方へ向かう。

すると、セスが。


「……上皇后様の侍女がいらっしゃいました」

「そうか……入れろ」

「はい……」


セスが扉を開けると――黒いベールを顔にかけた侍女がそこにいた。


「殿下、いつものお薬をお持ちいたしました」

「ああ……」


侍女の手にはお盆が持たれ、小さな小瓶が一つおいてあった。


現在続けている状況ではあるが――あの小瓶を飲むと発症する症状に、憂鬱な気分になる。


(……いや、これも……今後のため。ひいてはお母様を守れるように……)


そんな僕の気持ちは知らない――おばあ様の侍女が、お盆の小瓶を僕に持ってくる。


(この薬を持って来た当初から……顔の半面にベールをかぶっているようだが……)


はじめに会った当初――セスが侍女になぜベールを被るのか、問いかけたのだが。


『上皇后様に命じられて……被っております』


返って来た答えはそれだけで――。


おばあ様の侍女ということもあって、ベールをなぜずっと着用しているのか――再度、問うのも憚られてしまったのだ。


(そう、おばあ様の意志に反する行いをして……ベールを外せなんて言ったら、今までの行いが――水の泡だ)


だから、今必要なのは……薬を飲むことであって――ベールの有無なんて問題は無い。


そう、早く薬を飲まないと。


(あれ……そういえば久しく……僕の妖精の姿を見ていないな……)


水嫌いで、僕の友達の――獅子の妖精。


(いや、そんなことよりも今は――)


ずいと近づけられた、お盆の上にある薬をじっと見る。


自分が今すべきことを思い出し――ゆっくりと手を近づけて。


小瓶を取り上げ――蓋を開けてから、中身を飲み干す。


――ゴクン……。


「……はぁ、これでぜん……ぶ……うっ……」

「殿下……っ!」

「ぐぅ……う、あ……」


いつよりも、身体に走る痛みが激しい。

焼けるような熱に、四肢がちぎれてしまいそうな酷い痛み。


セスが慌てながら、僕に近づいてくるも――どうすればいいのか、慌てている。


「……それでは、私はこれで……」


小瓶を持って来た侍女が、出て行こうと――言葉を発した時。


――コンコンコン。


再び僕の部屋にノックが響いた。


「……ノエル? いるかしら……?」


(お母様……?)


扉の外から聞こえた声に、僕はなんとか目を開いていようと頑張るも――。


(もう、身体を支えるのも……)


ベッドの上に、身体を投げ出すので――精一杯になってしまった。




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