81.嬉しさ
「嬉しい……?」
「ああ、お前が――俺を頼ってくれている、ということだろう?」
「!」
ジェイドにそう言われて、私は目を見開いてから。
自分の発言を思い出し――。
(そうよね、悩みを言うのは……相手に身を預けるような……そんな気持ちよね)
ジェイドの言葉には一理あると思いつつも、なぜだか照れてしまうような気持ちが出てしまうのはなぜだろう。
「お前がこうして――晩餐会のことやダンスのことなど……俺に頼ってくれるのが嬉しいと思うんだ」
ジェイドの口から出た言葉に、私は彼から目が離せなくなり。
彼の青い瞳に、無意識のうちにじっと目を合わせていれば。
「それに、そうした悩みや要求はもっと言ってほしい」
「……え?」
「頼ってくれること――いや……」
ジェイドは私の両手をぎゅっと握りながら、再び口を開いて。
「もっと甘えてほしい……そう思っている」
「っ!?」
彼の言葉を聞いた私は、脳内の処理が追い付かなくなった。
(あま……甘えてほしい……!?)
ジェイドの優しさや気遣いに最近は助けられてばかりなのだが――この発言も、その延長なのだろうか。冷酷王というよりも、慈悲深い王に変わったという感じで……。
「なぜだろうな。こうしたことは疎ましいと思うはずなのに」
「うとまし……え……!?」
「だが――お前がいうところの関係が変わると、気持ちも変わる……のかもしれない」
彼はそう口に出してから、自身で納得するように――こくりと頷き。
「だから、お前には……もっと甘えてほしいと思うんだ。言うことですっきりするのなら、それもいいし……晩餐会など解決できることがあるかもしれないだろう?」
「で、でも……」
「俺ばかりがこうして……お前の手に救われてばかりで……。いや、甘えてばかりなのが――切なく思う」
ジェイドの言葉を聞けば聞くほどに、私の脳内はエラーでいっぱいになる。
こうしたセリフを言う人物だっただろうか――これが新しい関係、距離ということなのだろうか……と一人で慌ててしまうのだ。
「ダメ……か?」
「うぅ……だめなんて……」
彼が私の両手を握って懇願するように、そう問いかける。
いつものクールさは鳴りを潜めて……子犬と同じく、どこか可愛さをもってこちらをじっと見つめる彼に……強くは言えなくて。
果たして「甘える」が、今の自分の気持ちの告白と同じ態度なのかは――まだ疑問だが。
それでもこうして、今までとは違った頼り方はいいような……いいような(?)気もして。
(これまでが遠すぎた関係値だったかゆえに、今のジェイドとの距離感にこうも戸惑ってしまうなんて……)
けれども、こうして彼なりに気にかけてくれていることは――素直に嬉しく思った。
だから私としても……。
「お言葉に甘えて……頼るわね……?」
「ああ」
私の返事を聞いたジェイドは、満足そうにほほ笑んだ。
そんな彼の笑顔を見ると、戸惑いは薄くなっていき――こうして彼と話せるようになったことに、安らぎのような感覚を持った。
「それと、ノエルに会うことができなくて……お前が困っていることだが――この後にでも、ノエルの部屋に行けばいい」
「え?」
「お前は、王妃であり――母なのだから。何も遠慮することはない。それに……」
ジェイドは少し思案したかと思うと。
「ノエルはきっと――お前の訪問を嫌うことなどしない」
「!」
「この前の晩餐会で、話した際にも……お前のことを深く思っていた。だから今の悩みは、レイラの杞憂な気もするがな」
私の目を見つめて、そう話してくれた。
(そういえば、晩餐会では――ノエルとジェイドが二人でたくさん話していたわね……私は途中酔ってしまって記憶があいまいだけれど……もしかしたら、二人でもっと多く話していたのかも……?)
いつも自分の悩み100%で、ノエルにどうしようと思っていたところだったのもあって。
ジェイドの励ましが、自分の背中を強く押してくれる感覚だった。
この励ましをもらった今こそ、ノエルに会うチャンスのために行動しよう……とそう、思う一方で。
「でも今からだと、ノエルに迷惑をかけないかしら……結構、時間も遅くて……」
「きっと起きているとは思うが……もし寝ていたとしても、寝顔を確認して戻ってくればいい」
「! マナー違反になったり、だとか……」
私が心配になってそう問いかければ。
「大丈夫だ。マナー違反ではないし……それに」
「それに……?」
「お前の想いとして――親が子に会うのは……自然なことなのだろう?」
「!」
彼から出た言葉に、私は目を見開いた。
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