71.約束
(セインのおかげで、ちゃんとジェイドに謝れそうだわ……! それにノエルにも、早く謝りにいかないと……!)
やらかしてしまった過去の自分の行いに、昨日からずっと――どんよりとした気持ちだった。
しかしセインと話をして……相変わらず、自分の過去の振る舞いに、胸が苦しくはなるものの。
してしまったことで、塞ぎこむよりも――こうして謝るときは、ちゃんと向き合おうという気持ちに意識が変わっていた。
騎士に案内されながら、ジェイドが待つ場所へ行けば……。
「ここは……!」
思わず声が出てしまうほど、芸術的な装飾が施された部屋のデザインに驚く。
部屋というよりは、少人数でコンサートを開けてしまうような……そんな場所で――。
「ちゃんと来れたようだな」
「っ!」
「案内ご苦労だった。下がっていい」
「はい、失礼いたします」
ジェイドの声によって、側に居た騎士は部屋の外へ出たようだった。
そして私は彼の方へ視線を向けると。
(くぅ……っ、月光に照らされて……いつもより倍の美しいオーラが放たれている……っ!)
彼が立っていたのは、大きな窓の前で――現在月に明るく照らされている時間ということもあり。
神秘的な美しさが――彼から放たれていたのだ。
当初の目的がうっかりと頭からこぼれ、ジェイドの美しさに圧倒されていれば。
「おい、大丈夫か?」
「えぁ……?」
窓近くにいた彼が、ズイッと私の方へ近寄って来て。
「今日は酒を飲んではいないだろうな?」
結構な近さで、私を探るように――目をじっと見つめてきた。
「ハ、ハイ! もちろん! もう飲みません!」
「……? いや、断酒をしなくとも……」
「……その……っ!」
(せっかく、気持ちを切り替えたのに……緊張が……っ)
脳内によぎる様々な自分のやらかしに、事の重大さを感じて――より緊張が加速してしまっていた。
(いえ……! 謝るって決めたのだから……!)
気を引き締めて――私は意気込んで口を、開き。
「晩餐会の日に……酔ってしまって、介護をさせてしまってごめんなひゃい!」
「……」
「あっ! ごめんなさい……っ! 本当に申し訳ございませんでした……!」
口を開いた私は――結果、ちゃんと謝ろうと思って……口が強張り。
謝罪の言葉を言う時に――噛んでしまった。
すぐに言い直し、頭を深く下げたものの。
(もう顔は、あげられないわ……)
酔った勢いとは他に、噛んでしまったやらかしに――見せる顔がなくなってしまった。
どうしよう……ここから挽回できるのだろうか……と頭をフル回転させていれば。
「レイラ」
「は、はい……え?」
頭上から名前を呼ばれたのと同時に。
私の顔にジェイドの両手が触れた。
そのまま私の顔を持ち上げ――。
「俺は怒っていない……だから謝罪は不要だ」
「え、は、はい……?」
「だが――」
持ち上げられた先には、ジェイドの顔があって……。
彼の青い瞳に私はじっと見つめられる。
「酒を飲むのは、俺が側にいる時だけにしろ」
「え……?」
「俺が求めるのは――それだけだ」
ジェイドが言っていることに、理解が追い付いていない私はポカンとしてしまう。
(え? 彼は怒っていなくて――お酒を飲む時を気を付ければいい……ということ?)
多量に飲むときにだけ……ジェイドの側で飲む――つまりこれは、私の飲酒態度への戒めなのだろう。この約束を結ぶことで、毎回――あんな醜態は犯さないように、思い出せ……そういうことなのだと、私は理解した。
(本当に飲酒は――気を付けよう……)
なにより、そのほかは気にしていないようなので。
「わ、わかったわ……! ジェイドがいる時にしか、お酒は飲まないわ……!」
私は意気込んでそう答えれば、その答えを聞いたジェイドは優しく……ふっと笑みを浮かべてから。
「なら、約束だな」
「やくそく……?」
「ほら……」
彼は私の両頬から、手を放すと――。
私の前に、自身の片手を差し出してきて。
小指を向けて来た。
「破ったら、針を千本飲ませるのだろう?」
「っ!」
「絶対に破れないな?」
昨日の夢で見た光景を思い出す。
まさかこの約束のやり方をばっちり――ジェイドが返してくるとは思わず、私は緊張なのか、恥ずかしくなったのか顔が熱くなっていく。
そして彼に促されるまま、小指を絡めて……昨日とは別の「約束」を結んだ。
(彼と約束はしたけれど――お酒を飲むのは、ちゃんと気を付けよう……)
私はそう自分に誓いながら――。
「……あらためて、以降は……飲酒を控えます」
そう彼に気持ちを伝えると、彼はため息をつきながら。
絡めた小指を解除したのち、私の手をぎゅっと握って――彼の方へ引き寄せると。
「違うだろう?」
「へ?」
「俺となんの約束をした?」
「あ……え……」
先ほどジェイドとした約束はあくまで、今後の私の飲酒態度への戒めなのかと――そう思っていたのだが。
(ほ、本気で、言った通りの内容なの……!?)
私の身体は――またもや緊張に包まれてしまった。
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