70.向かう中で
ノエルに自分の酔った姿を見せた――失態を謝ること。
ジェイドに、大変無礼すぎる振る舞いをかましたことを……謝ること。
晩餐会の翌日に起きた私は、盛大に自分の行動を後悔していた。
すぐに行動を起こそうにも……なんて言葉で謝ればいいのか分からず――。
結局――晩餐会の翌日は、一日中……謝罪の内容をいかに礼節を尽くして話すかについてを考えるので、いっぱいいっぱいになってしまった。
(だって、扉の外で控えてくれるセインすらも……なんだか……)
私と視線が合うや否や――眉尻を下げて、複雑そうな表情をしていた。
まるで見てはいけないものを――見てしまったかのような反応を取っていたのだ。
それもそうだ。
ノエルの頬をさわるだけにとどまらず、晩餐会で失神。
そして陛下にお姫様抱っこをさせてしまったのだから。
お姫様抱っこに関しては、私は頼んではいなかったため無実だと言いたい気持ちもあったが――。
(いえ、すべて私の失態のせいよ……うう……穴があったら入りたい……)
ジェイドはあくまで、私を気遣ってくれたがために起こしてくれた行動なのだ。
彼の行動を非難するなんて以ての外だし……。
そもそもの大きな問題を起こした私に非があるのだ。
こうして自分の行いを後悔し、謝罪文を考えていれば……一日はあっという間だった。
しかしその翌日になった今でも――。
「今日は……今日は、ジェイドの宮に……約束を……」
「陛下とのお時間を楽しみにお過ごしくださいね、王妃様」
「! え、ええ……」
現在、ジェイドの宮に向かうべく――支度を準備していた私は、侍女に明るく声をかけられ……。
ひきつった笑みを返すので精いっぱいになった。
(会ったら、すぐに謝らなきゃ……! それと、ジェイド……怒ってないかしら……?)
気持ち的には、昨日の今日というくらいに――やらかした日からの時間があまり経っていないように感じる。そのせいで、ずっと心臓は嫌な焦りのためか、バクバクと鼓動がおかしい。
「……王妃様、向かいましょう……か」
「セ、セイン……ええ、行く……わ」
セインのぎこちない言葉に、私はぎこちない笑みで返事をする。
そして私は、ジェイドと結んだ約束のため――彼の宮へと向かうのだった。
◆◇◆
ジェイドの宮に到着する前。
セインと二人で、廊下を歩いていた際に――私は彼に声をかけた。
「セイン……!」
「王妃様……?」
「一昨日は私がみっともない姿を出してしまって……本当にごめんなさい……!」
(迷惑をかけたのは、ノエルやジェイドだけじゃなくて――側に仕えるセインにもだわ……)
間違いなく情けない姿を一昨日は晒してしまったことで、私だけでなく……私に仕えてくれているセインにも迷惑がかかっているはずだ。
彼の場合は、私の専属騎士であり……私の評判が下がれば、一番肩身が狭くなってしまうのは彼だ。
昨日は自分の醜態と向き合うので、精一杯だったのだが。
今日こそは行動や自分の反省を言葉に出すべきと思った私は――。
「きっとセインをがっかりさせてしまったし――示しがつかない態度だったし……本当に申し訳ないわ……!」
彼に頭を下げて、そう言葉を紡いだ。
するとセインは、すぐに側に近寄ってきて――「頭をあげてください」と声をかけてきて。
「……王妃様、お気に病まないでください」
「セイン……?」
おずおずと頭をあげれば、優しく眉尻を下げるセインがそこにいた。
「私の方こそ――王妃様の気分が優れなさそうなことに……うまく対処ができなくて、変な態度をとってしまいました」
「……!」
「だから、真に謝るべきなのは私なのです――申し訳ございません、王妃様……」
「そんなことないわ……! むしろ、私の態度のせいでセインの評判にも……」
「いいえ、たとえ評判が下がったとしても――王妃様のせいではありません」
セインの言葉を聞いて、私は彼に無理をさせてしまっていると思った。
間違いなく、私の醜態によってセインには迷惑をかけてしまっているのに……そう彼に言おうとした時。
「専属騎士というのは――主君の災厄を振り払うのが責務です。王宮の評判が一番ではありません」
「……!」
「だから、一昨日は……王妃様がお酒で体調を崩されてしまっていたのに……何もできなかった私に落ち度があるのです」
「で、でもそれは……」
「それくらい、私にとっては――王妃様が元気に過ごされていることの方が大事なのです」
真っ直ぐと視線を交わしながら、セインからそう言われて。
私は言葉が途切れてしまった。
最初に会った時は、セインを専属騎士にしたのちのことなど――きちんと考え切れていなかったが。
こうして彼が私のために、深く心を砕いてくれていたことを改めて知り……セインには頭が上がらない気持ちでいっぱいになった。
「……セイン、ありがとう」
私がそう言葉を紡ぐと彼は、優しく笑みを浮かべて。
「その言葉の方が……私にとってすごく嬉しいです。ですから、もう私に謝らないでください」
「……うぅ……。本当にありがとう……セイン」
「ふふ、これからも王妃様の騎士として、一生懸命……力を入れますので」
セインから言われた言葉に、私は胸がいっぱいになる。
そんな私にセインは――。
「それに今からは……陛下とお会いになる予定ですよね? 詳しくは知りませんが、今日の王妃様を見るに緊張されていらっしゃるように、見えました」
「うっ……そ、そうね……」
「ならば――」
セインは私の前に跪き――。
「王妃様は……周囲から大切に想われていると思います。だから緊張なさっているような……怖いことは起きないと――私は思うのです」
「え、そ、そうかしら……?」
「はい、王妃様の専属騎士である私がここで、責任をもって断言致します」
セインは言葉を紡いでから、私の瞳をしっかりと見つめた。
そんな彼を疑うなんてことはできなくて――その言葉を真に受けると、自分を過信してしまいそうで照れてしまうが……。
(けど……彼のおかげで、ちゃんと向き合えそうだわ……!)
こうして励ましてくれたセインのおかげで、やらかしてしまった後悔による大きな緊張が――少し和らいだ気がした。
これから謝る際に、ちゃんと――向き合って、言葉を言えそうな……そんな前向きな気持ちが生まれたのだ。
(セインには、感謝ばかりだわ……)
私の醜態で引くどころか、思いやりのある言葉をかけてくれる。
だからこそ、セインに恥じないような行動をこれからもとろうと――そうあらためて、思った。
「さて、それでは……陛下の宮まで、ご案内致しますね」
「ありがとう……! セイン」
「いえ、王妃様の気持ちが少しでも良くなったのなら……私も嬉しいです」
セインは再び立ち上がって、前へと歩きはじめる。
そんな彼の側を歩きながら――私は、ジェイドの宮の……入り口の前へ無事に辿り着くことができた。
近くに着くと、ジェイドが命じていたのか……一人の騎士が「陛下のもとまで案内します」と声をかけてきた。
「それでは……私はここでお待ちしておりますので」
「うん、行ってくるわね!」
「行ってらっしゃいませ、王妃様」
セインに見送られながら、私は気持ちを決めてジェイドの宮へと向かっていく。
ジェイドの宮への入り口前には――セイン一人だけが残っており。
「王妃様の幸せのため――私も気を引き締めるべき……だな」
そう、どこか決意を胸にするセインの言葉がぽつりと……こぼれた。
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