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69.しっかりと



(レイラがお酒に弱かったなんて……! いえ、言い訳なんて苦しいわ……)


侍女が来るよりも朝早くに起きた私は――ベッドで起き上がり。


頭を抱えていた。


どうせなら、酔っていた時の記憶が全てまるっとなければ――救われたのに……。


悲しいことに、全てばっちり覚えている。


(現実だとは思いたくないけれど……もしかして、昨日見た……ジェイドの夢も……?)


なんだかいやな予感がする。

現在覚えているのは、晩餐会で大変な姿を見せてしまったこと。


そこから一旦記憶がなくなり――。

気づけば、自分の部屋に戻っていて――。


(そう、側にジェイドがいるような夢を見たのよね……)


しかし食堂で起こした行動よりも、夢の中の記憶が少し曖昧なことが……ちょっと救いなのかもしれない。


(だって、夢だもの……そんな、ジェイドが近くにいて……小指に触れた……そんな私の妄想の夢よ……)


現実逃避で、自分を守るべく――安全な方へ、安全な方へ考えをまとめていく。


(きっと部屋に戻ってきたのは、セインが肩を貸してくれたから……とか? いえ、それよりも……)


部屋に戻って来た時の方法を考えるよりも先に。

食堂で意識を失う前のことに気が向く。


(私は、ノエルに……なんて残念な姿を見せてしまったの……!?)


私の中での一大事件はノエルに、自分の失態を見せてしまったことだった。


しかも酔っていたのをいいことに、ふわふわのほっぺまで触ってしまったような……。


(せっかく……最近あったノエルと距離を感じた時よりも……もっと仲良くなれると思ったのに……これじゃあ――)


上皇后様と会っていたノエルを見て、複雑な感情を抱いたからこその――ジェイドのおかげもあって、開催された晩餐会だったのだ。


それなのに、いつも以上にしまりのない私の姿を見せつけて……。


あまつさえ、ベタベタと触れてしまったのは……。


(アウトよね……ノエルに謝っても謝り切れないわ……)


いろんな不祥事に、もう脳内はパンクしそうだった。

お酒の力で、気がいつもよりも大きくなり――したかったけど、勝手にするのは憚られたノエルの頬へのタッチなど……。


もう何も考えない方が救いなのでは……と気が遠くなっていた時。


――コンコンコン。


「王妃様、入ってもよろしいでしょうか?」

「ええ……いいわ……」


朝の支度を手伝ってくれる――侍女たちの声が聞こえてきたので、返事を返せば。

扉を開ける音と、数多くの足音。


(え? 数多くの足音……?)


最近多くなった侍女の数以上の足音が聞こえて、ギョッとしてそちらをみれば。

最近増えた五人……プラス五人が後ろから現れていた。


総勢二桁の侍女たちに、慄く私。


「え……っと? どうかしたの……?」


戸惑う私に、一番長くこの部屋付きになった侍女がそそっと近寄って来て。

小声で、嬉しそうな声をあげた。


「王妃様っ! 昨日は、素敵な晩餐会をお過ごしになったのですね?」

「エ……?」

「晩餐会を見守っていた侍女たちが、陛下の王妃様への寵愛を目にしたらしく……! その時のことは秘密だと陛下から命じられたため、晩餐会の事実は分からないのですが……それでも!」


侍女は興奮した様子で。


「こうして、自ら仕事を買って出る侍女が多く集まったのです……! 陛下も増える分には承諾をいただけたので――もしかしたら、現在……歴代の王妃様の中で、一番侍女の数が多いかもしれません!」

「え? えぇ……?」

「大抵は――他国から嫁がれた方と……その、夫婦仲がこじれてしまって……侍女の数が少なくなってしまうのに……あ、いえ……申し訳ございません。過ぎた発言を……」


侍女からもたらされた話に、さらに脳内がパンクしていく。


つまりは――今までユクーシル国に嫁いだ女性には、冷遇されるばかりで侍女の数が少なかった。レイラに転生したはじめの頃なんかは、まさにそんな状況だった気がする。


しかしこうして、侍女たちの勘違いや……ジェイドの気遣いもあって、ようやっと普通の王妃らしく侍女が仕えてくれている――ということなのだろうか。


(なんだか釈然としないわね……)


自分の想いとは裏腹に起きた、環境の変化には――複雑な思いを持った。


そんな私の気持ちなど知らない侍女は――。


「あ! そんなことよりも、昨日の晩餐会のことは見ておりませんが――お帰りになられた王妃様と陛下のお姿は……本当に仲睦まじかったですわね」

「!?」


侍女から出た言葉に、私は目をかっぴらく。


(ま、まさか……あれは夢なのよね?)


ざわつく心を抑えつけながら、話を振って来た侍女の方へズイッと近寄り。


「えっと……私が部屋に帰ってきたときって……もしかして……」

「? 陛下に大切に抱きかかえられながら――お部屋に入って行く所を見守りましたわ……!」

「だきか……っ!?」


侍女の言葉を聞いた私は――頭が完全に思考停止してしまった。


(うそよ……どうか、やっぱり嘘でしたっていうオチはないの……!?)


私の必死の心の訴えは侍女には届かず――キョトンとした表情で侍女はこちらを見つめている。


今日は何もせずに、いったん心の平穏を取り戻す日にしようかしら――とそう思った矢先。


「失礼いたします、王妃様」

「! 入ってちょうだい……」


扉の外から、新しい侍女の声が聞こえたので――入室を許可する。

また侍女が増えた……という事実を頭で理解する前に。


「陛下から言伝です……! 明日の夜に――陛下の宮で過ごすことのお誘いを頂きましたっ!」

「明日の夜……?」

「はい……! 伺った際に、例の約束の件だ……とおっしゃっていたのですが――」

「っ……!」


侍女から「約束」という言葉を聞いた瞬間。

夢だと思っていたあれやこれやが、一気に私の脳内で再生される。


(……酔った私のバカ~~~!)


思わず過去の自分が恨めしくなってしまうのと同時に。


「王妃様っ! こんなに陛下に気にかけられていて、すごいですわ……って、王妃様……!?」

「……」


私はもしかしたら、今も夢の可能性があると――そう考えが行きつき。


ひとまず、もう一度ベッドの中に戻ってみるのであった……。




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