68.ふわふわ
■レイラ視点■
(ふわふわ……まるで雲の上にいるような……)
居心地のいい浮遊感を持ったのち。
自分の身体を包み込む、綿のような触り心地を感じて――。
多幸感に包まれながら、私は目をそっと開けた。
(あれ……? ベッドの上? 部屋の天井? 部屋にいる夢なのかなぁ?)
さっきまで食堂にいたような気もするが、視界に映る天井を見て――不思議だなぁと他人事な感想を持っていた。しかも、ベッドの上で寝転がっているようだ。
そんな私の視界に、ジェイドが映った。
(わぁ……夢でジェイドに会うなんて)
とってもリアルに、しかもこんなにも詳細に見える夢はすごいなぁと感心していれば。
「ん? 起きたのか?」
「え~? 夢の中のジェイドが喋ったぁ」
「……まだ酔いがさめていないようだな」
「ほあ?」
身体がポカポカしているだけでなく、程よく力が抜けていて。
心地が良すぎる状態に、私の意識は曖昧になっていた。
「まぁいい……早く寝て、体調を良くし……」
「あ!」
「……なんだ?」
ジェイドの顔を見つめていたら、「あのこと」を思い出す。
舞踏会でダンスが必要で……。
「ジェイド、あのね」
「……」
「私、ダンス……踊れないの……舞踏会、どうしよう……」
「ん?」
そう、目下の悩みはダンスが踊れないこと。
この悩みを解決しないと、安眠なんてできなさそうだ。
「去年は俺と――少しだが踊っていただろう?」
「ん~? 踊った経験なんてないに等しいもの……」
「ふむ……まぁ、いつも舞踏会が始まって……俺たちが踊ったのは一、二分くらいだったか……?」
ジェイドの顔を見て、もしかしてジェイドもダンスについて思うところがあるのかな……と感じた。
(勉強もそうだけど、こういうのって一人で抱え込んでちゃ、いけないわよね)
なんだかいつもより、自分の頭が冴えていると思いながら。
「あ! そうだわ!」
「?」
「ジェイドは、踊るのは久しぶりなのよね?」
「まぁ……一年ぶり……か?」
「ふふん! 分かったの!」
「んん?」
「ジェイドは勘を取り戻すために、私はダンスを学ぶために……一緒に練習をするのはどう?」
「……ん?」
私がそう言うと、ジェイドは不思議そうな顔をしていた。
これは私の想いが届いていないのだと思い……。
「というか……ダンスを踊れるように、教えてほしいの……」
「? お前はもう踊れると認識して……」
「お願い、ジェイド……ダメかしら?」
「!」
そうダメ押しで伝えてみれば。
ジェイドの表情は、今まで見たことのない顔になっていて。
ちょっと頬が赤いような……?
(あ! というか、ジェイドは政務がいっぱいで、仕事が大変だわ、無理を言っちゃいけないわ……)
いろんなアイデアや考えが、頭の中にぽんぽんと浮かんでくる。
本当に今日は、頭が冴えているようだ。
「あ……でも、お仕事が忙しいから、時間を作りにくいわよね……ごめんなさい」
「……いや」
「え?」
やっぱりジェイドに無理を言って、願いを聞いてもらうよりも。
正々堂々、ダンスの先生を雇おうと思った矢先。
「いいだろう、お前が言うのなら……ダンスを練習しよう」
「……!」
「ダンスの練習くらいの時間なら、何も問題ない。それに、ずっと座り続けてばかりの生活だからな……身体を動かした方がいい」
「え……! いいの……?」
「ああ」
仕事が忙しい中でも、こうして時間をとってくれたジェイドに。
私は、嬉しさでいっぱいになる。
(いつもは冷たそうなオーラがあるけれど、ジェイドは……本当は優しいのだわ)
彼の優しさにあらためて気づいて、無意識のうちに笑みがこぼれた。
「ふふっ」
「なんだ?」
「ジェイド、ありがとうっ」
「!」
「あ! それとちゃんと約束しましょお」
「約束……?」
「もちろん、ダンスの練習をしてくれるっていう……約束!」
私は、彼の方に片手の小指を差し出す。
すると、ジェイドはキョトンとした表情を浮かべていて。
「ほら! 約束の指切り!」
「ゆびきり……?」
「も~! ほら、ジェイドも小指を出して」
「こうか……?」
「うん!」
どうやら、ジェイドは指切りが初めてみたいで。
慣れない彼に、私が小指を絡めるのだと指導をする(?)。
「ゆびきりげんまん、うそついたら、はりせんぼん、のーます!」
「はり、千本?」
「ゆびきった!」
「……これで、約束なのか?」
「うん! 嘘ついちゃだめだからね!」
小学校のころ、よくやったなぁと思い出しながら。
私は、ジェイドにそう伝えれば。
「ふっ……ああ、分かった。破ったら、恐ろしいことになりそうだから、な」
「えへへ……約束できたの、よかったぁ」
「そうしたら、日程は……政務が落ち着いた夜時間帯に……ん?」
「すぅ―――……」
「はぁ……」
約束ができて達成感に包まれた私は、安心して目を閉じていた。
耳元に彼の――聞きなれた低い声があって。
意味は理解できなくとも、子守歌のような心地で聞いていた。
「俺をここまで振り回すなんて……お前だけだ」
「すぅ……」
「またな、レイラ。良い夢を」
なんだか、その日はずっとふわふわな雲の上で、快適にゴロゴロ過ごせる――そんな素晴らしい夢を見た気がした。
◆◇◆
そして十二分に、寝て――起きたあと。
私は、一番のいい目覚めで起きることができ――。
「……やっちゃった……ど、どうしよう……」
昨日の自分の失態が次々と頭の中で、再生されていき――。
すぐさま、ベッドの上で青ざめる事態になったのであった。
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