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67.なんていい日




(ふふっ、今日はなんていい日なのかしら……!)


大切にしたい二人と一緒にご飯を食べれている。

しかも美味しいジュースも飲めて、とってもハッピーだわ!


「お母様……そのお酒を何杯、お飲みに……?」

「え~? 二杯くらいかなぁ?」

「……執事よ、レイラは何杯飲んでいた?」

「え、えっと……七杯ほど……です……」

「はぁ……」


ジェイドは、彼の側に居た執事に声をかけているようだった。

もしかしたら、美味しいご飯をおかわりするのかもしれない。


(私もあのジュースを、おかわりしよう……!)


そう思った私は、近くの給仕をする使用人に。


「ねぇ、そこのあなた……このジュースをもう一杯……」

「お母様……! なんだかお顔が赤いですから、もうお控えになったほうが……」

「え~? そうかなぁ……? 私を心配してくれるノエル……」

「え……?」


私はノエルの両頬に手を置いて。


「私を想ってくれてありがとう。ふふ、ノエルの側にいるとどうしてこんなに……幸せなんだろう?」

「っ!」

「しかもノエルは私以上に頼りがいがあるし……でも、もっと私に頼ってきてほしいの……我慢はなしよ?」

「お母様……」

「あ! あの美味しいジュース、飲むの忘れてた……!」


ノエルの両頬を支えていた手を引き――自分の目の前のテーブルに置いてある……飲みかけのジュースのグラスに手を伸ばそうとしたら……。


「酒は、もう終わりだ」

「え?」

「どうみても――お前は酔っている」


グラスを持とうとした私の手を、いつの間にか側に来たジェイドが掴んでいた。

私の手より逞しく、大きいそれを見て。


「ジェイドだ~! 手がひんやりとして心地いい」

「!?」

「あれ……? どうしてひんひゃりが、ここち、いい……?」

「お、おい……」

「めが、もうあけられ……」

「レイラ……!」

「お母様……!」


ジェイドのひんやりとした手の心地よさに気を取られながら。

私は抗えない睡魔をすごく感じた。


(なんだろう……気分がるんるんで、眠く……)


気分が良いまま――私は、意識を手放し……。

ジェイドの手を枕にして、私は寝てしまうのであった。



■ジェイド視点■



まさかレイラが酒に弱いなんて知らなかった。

それも、いつもは見せない――気をゆるした笑顔を見せてくるなんて。


(俺は何を考えて……)


目の前のレイラが、自分の手にこうまではしゃぎながら――笑みを見せてきたことに動揺してしまったのだろうか。


食堂内の雰囲気も……どうすればいいのかという使用人たちの不安そうな思いで溢れているようだった。


そんな彼らの気持ちを払拭するべく――。


「王妃のことは何も問題ない。今日のことは、他言無用だ――いいな?」

「は、はいっ!」


そう、今日はレイラのために開催した晩餐会と言っても……過言ではなかった。


たとえ、酒を飲み過ぎて羽目を外していようとも――彼女を困らせたくはないと思ったのだ。


(格式張った会でもないのだから……まぁ……いいだろう)


しかし彼女には、今後の飲酒について注意が必要だろう。

酒に酔った彼女の雰囲気によって、こうも自分の気持ちが乱されてしまうとは思わなかった。


そんな雰囲気にした当の本人の方を見つめれば。


「すぅ――……」

「はぁ……」

「お母様は、もしかして……」

「ああ、寝た……ようだ」


人の気も知らないで、すやすやと呑気に寝ているレイラを見て――毒気が抜かれる気持ちだった。


こうまで明るい様子を見ると、呆れよりも……なんだか、仕方がないと許してしまうような……。


(許してしまう……?)


いったい自分は何を考えたのかと――驚きを感じた時。


「父上、お母様を……」

「……」


レイラの隣の席で、彼女を案じて見つめる――ノエルに、自分の意識がハッと戻る。


このまま彼女を放置しても、レイラは一人で部屋へ帰れないだろう。


「俺がつれて行く」

「え? 父上……?」


椅子に座っているレイラの上体に、腕を差し込んで。

俺は彼女を横抱きに、持ち上げた。


そんな俺にノエルが、驚いたように見つめていた。


「そ、そんな……父上に苦労など掛けられません……! こうした場合は、僕が……」

「俺は――レイラを運ぶことに苦労など、思わない」

「!」

「それに、今日は――お前がレイラを迎えにいったのだろう? ならば帰りは、俺が行ってもいいはずだ」

「……」


自分でも、論理的におかしさを感じつつも――彼女のことに対して、手を引きたくない気持ちが出た。


「父上は……お変わりになられました……ね」

「――それは、お前もだろう? ノエル」

「……っ」

「しかも最近は……上皇后と、会ったようだな?」


俺がそう問えば、一瞬ノエルの瞳がゆらいだかと思えば。


「……ええ、おばあ様から連絡をいただきましたので。孫として、お会いできる機会をいただいた……だけです」

「……そうか」


幼い我が息子の様子を見ると……一見、普段となんら変わりはないのだが。

あの母上が、単なる家族関係で会っているとは到底思えなかった。


なにより最近は、地下牢の件も含めてきなくさい動きをしている。


(だが、母上が持つ大権のせいで拘束して事情聴取など……できないのが歯がゆいな)


そんな母上が自分の息子が会っていることに――違和感を持ってしまうのは、おかしくないはずだ。


「父上と同じく――僕もお母様を……僕自身の力でお支えしたいと思いまして」

「ほう?」

「だから、ご安心ください」

「……」


ノエルはニコッとした笑みを向けてくる――が。

その笑みを見て――俺は無意識のうちに眉間に力を入れてしまう。


(レイラに見せる顔と――他に見せる顔を使い分ける……か)


幼いながらも、達観しすぎている思考に頭が痛くなる。

王族として「独り立ち」というには、あまりにも大人の暗さを学んでしまっているような。


「――過ぎる行いには代償がつく」

「っ!」

「今更、父親ぶるつもりはないが――王族として、お前を保護する気持ちはあることを……伝えておこう」

「……お気持ち、感謝します」

「それと……」


俺はノエルの真意を知るために、自分と同じ目の色を持った息子に視線を合わせる。


「――俺を越えたいというのならば、いつでも手合わせしよう」

「!」

「お前の覚悟が……本気であるのならば、な」


くすぶった炎を身から出していたノエルに、自分の気持ちを告げる。


その際には、彼の炎を消火するように――自身の妖精の力を纏わせて、レイラには触れないように……冷気を漂わせた。


すると俺の妖精の力に気づいたのか、ビクッとノエルは身体を動かしていた。


(ノエル自身の力、か……)


息子が言う「力」というのは、間違いなく「権力」を示している。


もしノエルがユクーシル国の国王になりたい……と本気で思うのなら、自身の力をもってして周囲を認めさせるべきだ。


(俺もしたように……それがこの王族のやり方だ)


レイラはノエルを守るべきと、そう言うのだろうが――。

今のノエルは一人の王族として、相対してきている。


(ただ……本当に、ノエルの意思であるのなら……いいのだが、な)


ノエルの後ろに、母上がちらついているのが――。


(いや、まだ――不確定なことで断ずるのはよくない)


レイラの変化のこともしかり、自分の思い込みで相手を判断して後悔をしたのだ。


だから今は、自分が言えることをノエルに告げて――彼の行動を見定めようと決めた。


「……では、レイラを送ってくる。今日の晩餐会は終わりとしよう」

「はい、開いてくださいまして……ありがとうございました」

「ああ……」


食堂の扉の方へ近寄りながら、扉付近に控えていた――レイラの専属騎士に、部屋までの案内を頼み。


――パタンッ!


扉から出て行き、そのまま食堂をあとにする。


食堂内に残されたノエルが、吐き出すように――。


「……僕は弱い……もっと力をつけないと……」


そう言葉を紡いでいることを、レイラもジェイドも知る由はなかった。




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