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66.雰囲気



三人で食べるには広すぎるテーブルに、豪華絢爛な室内の装飾。


扉の近くには、セインとセスが控える中……。


使用人に案内されて座った座席は――私の対面にジェイド。

そして隣にノエルが座る位置になった。


(ご、豪華な食事の数々……っ!)


ジェイドとノエル、そして私を含めた――三人の食事会にしては、輝かしい肉料理や海鮮料理など種類豊富にそろえられており、豪華な料理風景だった。


貴族の――それも王族の晩餐会なのだから、人数が少なくても……これほどまでに豪華な雰囲気なのが普通なのかもしれない。


けれど料理がこんなにもあって、どう見ても美味しそうで……間違いなく話題は尽きないこの空間は、最高なはず……そう思う、のだが……。


(もう食事が始まって、少し経ったけど……)


ノエルとジェイドは黙々と、食事を食べるのみで――。

会話がなかった。


(ジェイドは今日の晩餐会を楽しもうって言ってたわよね……!?)


話が違うじゃない……と言葉が出そうになるも、ぐっと堪える。

これがもしかしたら、貴族のマナー的な食事の作法なのかもしれないが――。


(私の意思はすでに昨日の外出で、ジェイドに伝えているのだから……)


そう、ノエルとジェイドと家族として関係を深めたいと言ったら――ジェイドが晩餐会を開いてくれるといったのだ。


言質は取っている――だから、あとは一歩を踏み出すのみ……!


そう思った私は、それとなく――。


「ノエル、このお肉……柔らかくて美味しいわね?」

「はい! とても美味しいです……! お母様の分をもっと増やしましょうか?」

「なんだ? 足りなかったのか?」

「え……あ、いや、お肉は十分で……その、美味しいという感想を……その……」

「口にあったのなら、よかった」

「え、ええ……」

「お母様の好きな料理を知れて、とっても嬉しいです!」

「……!」


ノエルの屈託のない笑顔を見て、私は胸がいっぱいになってしまう。

ひとまず会話は、私へのキャッチボールで終わってしまったし――家族の会話というか、私の感想の共有で終わってしまったように感じるのだが……。


(ノエルが、笑ってくれるのが……そう、喜び……っ)


愛おしいノエルが嬉しいと言ってくれただけで、胸の中で多幸感が広がったのだ。


どうにかジェイドとノエルが会話を広げてほしいのに、自分の単純な心でいっぱいいっぱいになっていれば……。


「――そういえば、お母様と父上は……昨日お出かけをされたのですね?」

「ああ、そうだ」


ノエルが質問を口に出した。

それに私が反応するよりも早く、ジェイドが返事をして――。


「きっと……とても楽しい時間を過ごされたのでしょうね」

「もちろん……レイラとは、親密な時間を過ごせた」

「……そうなのですか? お母様?」

「え……ま、まぁ……そうね……?」

「……そうなの、ですね」


ジェイドが良い感想を言うのも、驚きでいっぱいだったが――。

それ以上に、ノエルがジェイドの感想を聞いたのちにどこか憂い気な表情を浮かべていて……。


「僕も……お母様とお出かけがしたいです……」

「……っ」

「僕一人では、お出かけの決定ができないので……歯がゆいのですが……」


ノエルの希望を聞いて、私の胸がぎゅっと掴まれてしまう。

主に、嬉しいの感情がいっぱいで嬉しすぎて、胸が痛くなるような現象だ(?)。


すぐにノエルに、「ぜひ一緒に出掛けよう」と返事をしようと思った時。


「――ならば、三人で出かけよう」

「え……?」

「ジェイド……?」

「きっと俺とレイラと……一緒の時間を過ごしたいのだろう? ノエル」

「……も、もちろん、父上とお母様と過ごしたいとは思いますが……まずはお母さ……」

「舞踏会がまもなくの開催だからな……その後に行くのはどうだ? レイラよ」

「え? い、いいと思うわ……?」


ノエルの会話に対して、前のめりに返事をするジェイドに虚を衝かれてしまう。


(でも、こんなにもノエルの言葉に返事をして――前向きなことを言ってくれるのは……)


ジェイドとの外出をきっかけにおきた、良い変化なのではないのかと――そう思った。


二人が会話をしているのを見守りながら、普段は出されない飲み物(名前を知らないから頼めなかったもの)をごくごくと飲み続ける。


「父上にご足労をおかけするのは、申し訳なく思います。いつも執務でお疲れのようですから……やはり僕はお母様と――」

「遠慮しなくともいい。俺も……ようやっとこうして過ごす時間の良さに気づいたからな」

「……っ、そうなのですね」


ノエルとジェイドがこんなにも会話を続けている姿が珍しく――会話を邪魔するのが忍びなく思ってしまう。


(それに、今日はじめて飲んだ……このジュースは甘くて、とっても美味しいわ……! いったい何味なのかしら?)


先ほどから、使用人たちにおかわりを頼み続けている――ベリー系の飲み物に……私はハマっていた。


ノエルとジェイドがいる――嬉しい空間ということと。

美味しい料理や、美味しい飲み物に舌鼓を打つ楽しさもあって……いつも以上にるんるんした気持ちと。


そんなポジティブな気持ちから、身体もなんだかポカポカしてきて……。


(ん? 身体が……ぽか……ぽ……か……?)


そんな私の状態がある一方で。


「ですが、お母様の意見も聞かないと……僕はお母様のお気持ちを尊重したいのです」

「……ああ、かまわない」

「お母様……! そのお出かけの……」

「ふふっ、なあに?」

「お、お母様……?」


ノエルに私は、嬉しさいっぱいの笑みを向ける。

するとノエルだけでなく――ジェイドもこちらをじっと見つめてきたような気がするが……。


何も問題はないように思った――だって。


「今日ね、すごく私……嬉しいの。ジェイドとノエルと一緒にご飯を食べるの……ずっと望んでいたから」

「お母様……」

「レイラ……」

「ノエルはいつも……授業や剣のお稽古を……すっごく頑張っているの! 本当に偉いわ!」

「あ、ありがとうございます……っ!」

「ジェイドも……」

「俺か……?」


なんだか、今日の晩餐会の雰囲気のおかげか、なんでも言えるような万能感が――私を包んでいた。


「ええ! 国を守るために……いっぱい、いっぱいお仕事を頑張っているのでしょう? ほんとうにすごいし、尊敬するの」

「……そうか」

「二人とも……すっごく偉くて、すごいから、時間が足りないのは分かるのだけれど……もっと家族として、一緒の時間を……一緒に過ごしたいって私は思うの」

「お母様……」

「だから今日の晩餐会に、この三人で食べられて――今、本当に嬉しいの」


二人ににへらっと、笑みを向ける。


「それにね、このジュース! とっても甘くて美味しいの!」

「ん? レイラ……それは……」

「ノエル、このジュース知ってる?」

「お、お母様……それは……!」


今の私は、なんでもできるような万能感を持っていた。

そうこの高揚感は――前世でも体験したことがあるような……。


「それはお酒ですっ!」

「?」


ノエルが注意をするように言葉を紡いだ。

しかし私は――頭がぽやぽやと溶けていき……。


(ノエルはどうしてこんなにも……可愛いの?)


そんなことを思っていた。




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