表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/151

64.一方の気持ち



■セイン視点■



「……」


私は王宮内の廊下を歩いていた。

気づけば、窓の外は真っ暗になっており……。


(王妃様に元気になってほしいと思い、伝えたが……)


先ほど、王妃様にノエル殿下の直近の予定を伝えた。

王妃様の気分が暗くなった――あの日から。

自分ができることはないかと、そう考えた結果。


ノエル殿下の執事であるセス殿に、最近の予定を聞くことにしたのだ。


王妃様の専属騎士ということもあり、セス殿は素直に予定を教えてくれた。

その予定から――ノエル殿下が上皇后様と会ったのは、王妃様が見たあの日だけだったことを知った。


(だから、タイミングが悪かっただけだった……そのことを伝えたくて……)


王妃様の気分が晴れたら……そう思って伝えたのだが。

自分の想像以上に――彼女が優しく笑ってくれた、その笑顔を見て。


(見せる顔が無くて、すぐに出てきてしまった……)


顔に熱が集まっているような感覚もあって、そんな変な顔を王妃様に見せるわけにはいかない。


(そもそも、私の言葉は不要だった気もする)


思い出すのは今日の――陛下と王妃様の外出のこと。

今までそうした誘いがなかったがために、一緒について行きながらも……どうなることかと、少し緊張していたが。


(――とても楽しそうに……されていた)


遠くからではあったが――高原に着いた際。

陛下と地面に腰を下ろして……談笑されていたのだ。


そんな彼女の顔を見た時。

彼女の気分が晴れたことに嬉しさを感じるべきなのに……なんだか、チクリと胸を刺すような痛みが走った。


(いや、そんなわけはない――レイラ様の幸せこそが、私の使命)


専属騎士として、主の喜びに――共感できないのは以ての外だ。

だから……自分の違和感に、蓋をした。


今日は外出の護衛を終えて、明日の護衛に備えるため――早めに休みを取ることにしている。


王妃様の部屋の前にも、他の護衛のための騎士が待機しているのを確認して……今は、王宮内にある騎士宿舎へと帰る途中だ。


専属騎士になったおかげで、広々とした一人部屋が割り当てられてとても快適な空間になった。


(今までは、3人部屋で……私に対して良くない心象を持つ者と同室だったが……)


王妃様のおかげで、そうした苦しみや――そこに関わる辛さが一気に解消された。

だから……。


(これ以上のことは望むべきでは……ない)


自分でも、今の気持ちが良く分かっていないが――今以上に、いいことなんて……ほかにはないのだと再確認した。


(考えるよりも、行動をしよう。早く寝て、明日に……ん?)


意識を切り替えて、部屋へ戻ろうとした時。

廊下で一人の侍女とすれ違った。


薄暗い廊下だったからだろうか、なんだかその侍女の顔が見られなくて不審に思い――。


咄嗟に、彼女の横顔を凝視しようとしたが。


(どこかで見覚えがある……? 王宮にいれば当たり前だが……)


詳細に顔つきが見られなかったために、違和感の確信が持てなかった。

違和感があるからと言って、侍女を止めて――あらぬ疑いをかけるのはよくない。


専属騎士である私も……王妃様も、まだ繊細な立ち位置だからこそ。

荒波を立ててはいけない。


気づけば侍女は、持ち場の方へ向かったのか――廊下からは消えていた。


(王宮内であれば、また会えるはずだ。だから――)


次に会った際には、必ず違和感の正体を突き止めようと心に決める。

そして私は明日に備えて、部屋へと戻るのであった。



■レイラ視点■




「王妃様っ! 本日もお美しいですわ!」

「え、あ……ありがとう」

「いえ、お役に立てましたら、私たちの甲斐がありますわ!」


ジェイドと外出をした翌日。

私は椅子に座って、侍女たちに着替えの支度を手伝ってもらっていた。

というのも……。


「今日は……陛下とノエル殿下と……晩餐会なんですよね?」

「え、ええ……」

「まぁ! 楽しんできてくださいね!」


侍女たちは私の気持ちをよそに、きゃあきゃあとはしゃいでいる。


(私だって、晩餐会は楽しみ……楽しみにしているわよ……!)


そう、今朝――起床と同時に、朝早くやってきたジェイドの使いがやってきて。


『本日、早速ですが――陛下から、ノエル殿下とともに晩餐会を開かれるとのことです。ご参加でよろししいでしょうか?』


一瞬にして眠気を飛ばす、衝撃言伝を渡してきたのだ。

もちろん、答えはイエスと返したのだが……。


(昨日から、ずっと悩みが消えないわ……)


今日の晩餐会はすごく楽しみだ――けれど。

昨日聞いた「二か月後の舞踏会」が私の頭にずんとのしかかってくる。


眠るギリギリまで、その悩みでいっぱいだったため……今朝の目覚めは、すごくウトウトしていたのだが――。


(あの言伝のおかげで、すっかり覚醒したのよね……)


こうして頭が冴えわたるのはいいようにも思うのだが、逃げられない現実に――悩みが尽きない。


(そもそも、王妃だから――踊らなくてもいい可能性だって……)


そうした予感が頭をよぎった際。


「今日の晩餐会も素敵なことですが――舞踏会も楽しみですよね」

「……!」

「いつも陛下とは、舞踏会にダンスをされてらっしゃいますが……きっと今年はいつも以上に、素敵なダンスになりますわ……!」

「ええ! お互いの心が通じ合っているダンスになりそうですわよね」


私の予感は、侍女たちの言葉によってガラガラと崩れる。


(やっぱり、踊らないと……ダメなの……!?)


またもや大きな悩みの渦に逆戻りしてしまう。


(そんなに毎年踊っていたのなら、もしかして身体が自然と覚えている可能性もあるわよね……!)


悩みに行き詰まった私は、明るい現実逃避をすることにした。

さすがに、今から――侍女に頼んで、ダンスの先生をつけさせるのは無理がある。


だから……一縷の望みにかけて、そう考えようと――していた。


朝から、ダンスに対する悩みと今日の晩餐会のことで……考えることはいっぱいだったため、気づけば窓の外は夕日が沈む頃合いになっていて。


「王妃様……そろそろお時間です」

「セイン、伝えてくれてありがとう。行きましょうか」


部屋の外から、セインが声をかけてくれたのを合図に――私は立ち上がる。


(今は晩餐会のことに――それにノエルに会えることに、集中しなきゃ、ね!)


気持ちを切り替えて……私は部屋の扉の方へ、向かうのであった。





お読みくださりありがとうございます!

⭐︎の評価を下さると、励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ