56.行き先は…
どうにか王室御用達の服屋から、出た後。
私は再び――ジェイドと、馬車に乗っていた。
服を選ばなければならない、という緊張から解き放たれたこともあり。
ホッと息をついた。
そして、馬車内では……。
私の膝の上に座ることがお気に召した――子犬を、ゆっくりと撫でて癒しを感じていた。
「……ドレスを選ぶのが、好きだと――思ったんだがな」
「え?」
ジェイドが不思議そうに、そう言葉を紡いだ。
その内容を聞き、確かに――レイラであれば、間違いなくドレス選びは大好きだっただろう。
しかし中身は、ブラック企業あがりのアラサーOL。
(そんな中身の事情までは説明しきれないけれど、ね……)
ただジェイドが勘違いしたままもよくないと思い――。
「確かにドレスは綺麗だと思いますが……私よりもノエルの服を見に来たいですわ」
「ノエルの……?」
「ええ! 陛下に似て……とっても美しさが輝いてますし、色んな服が似合うと思いませんか?」
「……」
ジェイドを褒めつつも、ノエルの服を選びたい欲を開示した。
少し、前のめりに語りすぎたためか――ジェイドが少し驚いているようだった。
「……えっと、私の気持ちを出しすぎましたわ……申し訳ございません」
「いや、別に構わない」
目の前のジェイドへの耐性がついたからといって……あまりに、はっちゃけるのは気が引ける。
今更かもしれないが、私が謙虚な姿勢を見せようとしていた時。
ジェイドが、何かを考えるように顎に手を当ててから。
「……今日は、あのドレス選びに一日かかると思っていたんだ」
「え?」
「だから――このまま帰ってもいいが……どこか行きたいところがあるのなら、向かおう」
私はジェイドの言葉を聞き、頭をフル回転させる。
(彼は……どうして、こんなことを言ってきたのかしら……!?)
外出に誘われてからというものの、ジェイドの挙動がだいぶおかしい。
いつもの彼とはまるで別人並みに――何を考えているのか、理解するのがすごく難しい。
(つ、つまり……? どこか行きたいところがあるのなら……寄ってくれる……ということかしら……?)
ジェイドからの突然の言葉に……必死に意味を理解しようとした。
まさか彼から、こうして私の希望を聞いてくれるなんて――考えている今でさえ、本当かと疑いまくっているが……。
(でもやっぱり――そういうことよね?)
目の前のジェイドをチラッと見ると――。
とてもじゃないが、冗談を言っているようには見えない。
だからこそ、混乱してしまうのだが……そう言われてしまうと、逆に悩ましい。
(本当なら、ノエルの服を買えたら……すごく楽しそうだけれども、本人不在のまま買うのは……好みも知らずに押し付けたくないわよね……)
一番の希望は間違いなく、ノエルのこと。
しかし先ほど行ったあの服屋さんに戻るのは――出てきてしまった今のことを思うと、良くないように思うし……。
行くのなら、ノエルと共に行きたいと思ったのだ。
(となると……行きたいところ……行きたいところ……このまま帰るのは……)
ジェイドから問われた「行きたいところ」を考えてみる。
そんな中、なければ帰るのもありかも――そう思った時に。
私の頭の中には、先日見た――ノエルと上皇后様が楽し気に会話をしていた姿を思い出す。
(なんだか……王城に帰るのは……)
勝手な私の気持ちにすぎないのに、帰ることに気が重くなってしまう。
未だにあの時の気持ちが――解消しきれていないのだ。
無言で考え続ける私に、ジェイドは話しかけずに……待ってくれていた。
(ただ、帰りたくない……なんていうのもあれだし……)
即答できないことに、罪悪感が芽生えていた時。
「くあ~~」
「!」
膝の上で私に身体を預けている子犬が、大きなあくびをした。
(そういえば、子犬ちゃんは……今日一日……)
思い出してみれば、馬車の中で私に撫でられて。
服屋では大人しく、ジェイドの足元に座っていて。
今日一日、インドアな生活を送っていると言っても過言ではない。
(なんだか、退屈そうだったのよね……待たせちゃって悪かったわ)
いつものレイラよりは服屋にいる時間は、だいぶん短縮されたといえども。
子犬にとっては、かなりの待ち時間だったはずだ。
(この子は妖精だけれども……やっぱり、私にとっては可愛い子犬ちゃんだから……)
私の膝の上に座る子犬を、優しく撫でれば。
まるで「なあに?」と言っているかのように、こちらに顔を向けてくる。
そんな可愛い子犬の反応を見て。
「陛下、行きたいところが決まりましたわ!」
「……どこだ?」
「この子が、いっぱい走り回れる場所は……ありますか?」
「ん?」
私は明るい気持ちで、子犬ちゃんを示しながら――ジェイドにそう問いかけた。
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