51.見つけた先に
(一週間経てば……! もう会いに行っても、大丈夫よね……!?)
ノエルに会いたいという気持ちでいっぱいの私は、そのことしか考えられなかった。
起きて身支度をしてから――ソワソワとした動きが抑えきれずにいる。
(で、でも……もしかして、一週間は貴族マナー的に短いのかしら……もし知らずして、やらかしちゃったら……)
頭の中でノエルの嫌そうな顔がよぎり――胸の奥にダメージを生じる。
そんな一人で……色んな表情をしていた私に。
「……王妃様。侍女がビックリしておりますよ」
「えっ……嘘……。教えてくれてありがとう、セイン」
「いえ……」
側で控えていたらしいセインが、私にコソッと状況を教えてくれた。
チラッと部屋の様子を窺えば、確かに侍女たちが……「王妃様が……陛下のことを思ってご乱心に!?」といらぬ勘違いをしていた。
すぐさま、取り繕うように――私は、表情筋をキュッと引き締めながら。
ヨグド国から持って来た鞄に近づく。
あくまで何も失態は犯していない装いをした。
そしてセインの方へ声をかけて。
「ねぇ……セイン。もうノエルに会いに行っても、いいわよね?」
「ええ、何も問題ないと思いますが……」
そうしたセインの言葉を聞いて、ホッとしつつ……。
私は鞄の中にある――あるものを取り出す。
そしてセインの方へ振り向いてから。
「そうよね、もういいわよね」
「はい、十分に静養なされておりましたし……むしろ今の百面相の方が重症のようにも……」
「ん?」
「いえ、何も……」
何かセインから、煽るような言葉が聞こえが――私は広い心を持つ王妃なので、気にしないことにした(二度目)。
「それとね……今回、よく分かったこととしてね……」
「は、はい……?」
「ノエルを目にする機会がないと……あまりにも心が死んでしまう、ということなの!」
「は、はぁ……」
私が熱心に語り掛けるも……セインは、どこかよくわからない様子。
そんな彼に、こうした寂しさを打開する画期的な方法を伝えるべく――先ほど鞄から取り出した、機器を手で持ち上げて――。
「私には、ノエルの写真が必要だわ!」
「しゃ、写真……?」
「ええ! このカメラで写真――姿画のようなものが、できるの!」
「なるほど……? そういえば、それは……審問会の時にも使ってらっしゃいましたね?」
セインに言われた内容に、私はコクリと頷いた。
セインの言う通り、このカメラは審問会の時に――動画撮影機能を使って、その場で映像を映し出した。
(けれど……この世界ではあまり受け入れられないもの……だったわね)
そう、マイヤードの暴挙を映し出したのだが――審問会での証拠としては、受理されない雰囲気になってしまったのだ。
けれど、このカメラをそれだけで無駄なものにするのはもったいない。
特に――ノエル欠乏症を味わった私からすると、ノエルさえ許してくれるのなら、愛らしい彼の姿をいつでも見えるようにしておきたい。
もちろん彼自身が一番なのだが、こうして――会えない日があったとしても、ノエルを近くに感じられるというのは、とても素晴らしいことなのだ(?)。
「姿画ができるなんて、ヨグドのものは面白いものがありますね」
「あ、気になるのなら――セインを撮ってあげましょうか?」
「え?」
――パシャ!
カメラを起動して、セインに向けてボタンを押す。
すると機械音が鳴ったかと思えば――カメラの画面に、撮れた画像が表示される。
「ほら――ふふ、少し気の抜けた表情ね?」
「っ! 王妃様が突然なことをするからですよ……っ!」
「ごめんなさいね」
「まったく……」
撮れた画像をセインに見せれば、彼は驚きを表したのち――すぐにムッとした顔になった。
セインをからかうつもりはなかったが、彼の隙をついてシャッターを切ってしまったので、そのことを謝れば――少し納得してなさそうなセインだったが、カメラの機能の方に興味がいったみたいで。
「その道具の操作方法を教えてくださるのなら……許しましょう」
「え? それならお安い御用だわ……ここのボタンを押してね……」
なんだか、どっちが仕えている身分なのか分からなくなってしまうが――こうして気安く話せることに、少し安心感を覚えた。
そしてカメラの起動や――ヨグドの荷物の中に、このカメラで撮った画像を写真にできる方法を伝えれば……セインは興味深そうに、聞いていた。
(あれ……? 今日ってカメラの操作方法を教える日じゃなくて……あ!)
つい、楽しくなってしまい――当初の目的がぶれてしまったが。
今日はノエルに会いに行こうとしていたのだ。
「セイン! カメラは伝えた通りだからっ! それよりも、ノエルに会いに行かなくちゃ……!」
「はい、同行いたしますね」
「今だったら――剣のお稽古が終わって、帰る途中に会えそうよね……!」
「ええ、その時間くらいかと……」
セインはどこかやれやれとした雰囲気だったが、私はノエルに会える一心でるんるんになる。
カメラに付いている紐を首にかけてから、自室のドアを開けて――セインと共に、ノエルがいる訓練場へと向かうのであった。
◆◇◆
意気揚々と、ノエルに会えると思いながら訓練場までの道を歩いていれば……。
「セイン! ちょっと……!」
「は、はい……?」
私は視界にノエルを見つけた瞬間と同時に――。
セインの袖をひっぱって、建物の物陰へと身を隠す。
「ど、どうされたんですか?」
「し――……!」
セインが私の突然の行動に困惑する中。
私はセインに人差し指でサインを作って、示していれば。
「おばあ様! わざわざ迎えに来てくださったんですか?」
「ふふ、大切な孫のためだもの。当然だわ」
私の視線の先にある訓練場の出口には――。
ノエルと上皇后様がいた。
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