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50.それぞれの



■ノエル視点■



「にゃあ! にゃあ~~!」

「わ! もう、僕の髪で遊ばないでよ~~!」


勢いよくジャンプして、僕に飛び込んできた子ライオンは――絶賛、僕の髪を遊び道具として、わしゃわしゃとじゃれているようだった。


突然、こうした遊びに巻き込まれてビックリはするものの。

同年代の友達も少ない僕としては――。


「お前に……すごく救われているよ」

「にゃ?」

「僕も……いつか――お母様と……父上と……遊べる日がくるのかな」

「にゃあ……」


物心ついた日から、両親ともに遠い存在だった。

だから「遊びたい」と言っても、まともに受け取ってもらえたことが無くて。


気づけば、叶わないことゆえに――「遊んで、一緒に団欒を過ごす」というのが、眩しくてしたくて仕方なくなってしまっているのかもしれない。


(やっぱり僕は――甘いな)


王族だから仕方ない――もう8歳になったのだから、自立しないといけない。

それに父親は自分の壁でもある……だから安易なことを言うべきではない。

そうだとしても……。


「もし、もしも……叶うのなら……そう思うのは、悪くないよね?」

「にゃあ~!」

「お前もそう思うかい? ふふっ」


まるで人間の言葉を返すかのように、鳴いた子ライオンに――僕は、思わず微笑む。


「あ、そういえば――お前、今日は……水が怖くなかったのかい?」

「みっ?」

「途中から、嫌な気持ちがずいぶん、軽くなったんだけど……」


ふと思い返したのは、今日のお風呂の時のこと。

お母様に握られながらも、恐怖を落ち着かせようと呼吸を整えていれば。


(急に呼吸が……楽になった時があった……)


いつもとは違う感覚に驚いて目を開けたら、大好きなお母様がそこにいて。


(お母様の励ましのおかげなの……かな?)


明確な理由は分からないものの、お母様のことを思い返すと――心がポカポカと温かくなった。


(お母様のために最善を尽くす。そのためには、力を持たないと――)


あらためて自分の気持ちを再確認したのち。

セスがおずおずと、話しかけてきた。


「殿下……先ほど、お医者様を見送る際に言伝を頂きまして……」

「言伝……?」


どうやらセスは、僕の気持ちが切り替わったタイミングを見計らっていたようだった。


そんなセスが話した内容が気になり、彼の方へ姿勢を正して視線を向けると。


「上皇后様の侍女から……上皇后様が殿下にお会いしたいというお気持ちがあると――預かっております」

「おばあ様が……僕に……?」

「はい……。後日、正式に招待状を送るとのことでして……」


セスから話を聞き、僕は無意識のうちに眉間に力が入った。


(おばあ様……年に一度、僕に会う時間をつくってくれる……が)


あくまで王宮の行事のついでに、僕に会いにくる――といった方だった。

そんなおばあ様が、なぜ……わざわざ僕に会いに来ようとするのか。


父上もおばあ様も、一筋縄ではいかない人柄だ。


(しかし二人とも、妖精の力はもちろん――権力を上手く掌握している……)


僕の望みはお母様を守れる力――この王宮でお母様がずっと笑顔でいられるのを叶えること。


ならば権力や力を持つ者こそ、自分が目指すところへのヒントがあるはず。


「……セス、招待状が届いたら――また知らせるように」

「はっ、かしこまりました」


僕はベッドに腰かけながら、僕の膝の上でうとうとと眠たそうにする子ライオンの頭を撫でる。


そして部屋の窓から覗く月を見つめながら――自分の気持ちをあらためて確認した。



■レイラ視点■



「いっぱい、寝たわ……」


お風呂で足がしびれた事件から、今日で一週間ほど経った。

あの事件以降、私の周りの世話を担当する侍女たちの意識が変わったのか――以前とは違い、異常に私を丁寧に世話するようになったのだ。


なにより――。


「王妃様、おはようございます」

「ええ、おはよう」


以前なら呼び鈴を鳴らさなければ、やってこなかった侍女が……私の起床時間に合わせて部屋にやってくるようになったのだ。


しかも一人だけではなく、ドアの側には数人ほどおり。


「あの……陛下の心をつなぎとめてるって……本当なの?」

「ええ、間違いないわ。てっきり冷え切っているかと思ったのに……突然のお見舞いを陛下がされたのよ」

「まぁ……! 王妃様に目をかけてもらえたら……陛下にも認められちゃったりして……!」


私が寝ぼけていると思ってか――侍女たちは、コソコソ話の声量よりも大きめで会話していた。


そう、侍女たちが今までよりも増えた理由……それは、「先日のジェイドの見舞い訪問」によるものだった。


(ジェイドがここに来たのは、あくまで異常事態が起きてないかの確認だったり――王妃としての責務を全うしろという圧をかけにきた――だけのような……)


侍女たちはきゃあきゃあと、楽し気に会話をしていることから――完全に勘違いされてしまっている気がする。


(というか、私の部屋付きの侍女ってこんなにいたの?)


最初は三人くらいかと思っていたが、あの日以降五人以上はこの部屋で私の世話をしてくれている。


(もしかして、何人かは私を軽んじて――サボりを……?)


嫌な想像が頭によぎったが――最近の健康的な暮らしから、私は広い心で気にしないことにした。


というのも――理由は不純だが、彼女たちの熱心なお世話のおかげで、早寝早起きが板についてきた。


王妃の健康を守るために、食事、就寝、休息……すべてのタイムスケジュールが完璧な状態で、彼女たちは私に声掛けをしてくれた。


そのためここ最近は、ブラック企業で働いていたOLの時とは比べ物にならないくらい――健康そのものなのだ。しかし、問題が一つあった。


それは……。


(……ノエルに全然――会えていないわっ!)


そう……あの無様な私の姿をさらした日以降、ノエルからは「しっかりお休みを取れたのちに、またお母様にお会いしたいです」と手紙をもらっていた。


そのため、ノエルにガッカリされないように――健康体かつ日にちも念には念を入れて、一週間経つまで静養に力を入れたのだ。


(すぐに会いに行って、ノエルに嫌われたら……もう私は生きていけないわ……)


身体は確かに健康になった――けれど。


(ノエルの写真一枚でもあれば、もう少しましだったのかもだけど……こんなに近くにいて会いに行けないなんて……)


私は深刻なノエル欠乏症(?)になってしまっていた。




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