表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/151

49.気遣い…?



ジェイドが言う「無理をするな」というのは、気遣いの言葉で合っているのだろうか。


他の人に言われたら、私の身体を心配してくれたと思うのだが――こと、ジェイドが言うと、勘ぐってしまう。例えば、「健康管理も王妃としての責務だ」という叱りの表れみたいな。


(いえ、で、でも……ひとまずは、言葉を返さないと……)


ジェイドの言葉に虚を衝かれてしまったが、すぐに返事をしようと口を開いて。


「温かいお言葉、ありがとうございますわ」

「……ああ」


そう声をかければ、ジェイドは淡々とした様子で言葉を返してきた。

そしてそのまま――。


「……それだけだ。失礼する」


ジェイドは扉の方へ向き直るとスタスタと、私の部屋から出て行った。

そんな彼の様子を見ると……。


(心配じゃないわね……社会人としての健康管理を言われていたのね……)


ジェイドの態度から、私はそう理解した。

というか、本当に今更だが――未だに、自室で言い合った時のため口のことを謝れていない。


もしかしたら、もうジェイドは気にしていないんじゃないかと……そう思っていたのだが。


(あんなにも周囲を冷静に見ている人だもの、早めに謝ったほうが……のちに気づかれて追及されるよりもマシなはず……)


ジェイドにはちゃんと謝るぞ……という気持ちを持ちながら。


「でも、今日は……もう……動けないかも……」


ノエルの剣の稽古見学から……庭園でジェイドとの話し合い、そしてノエルのお風呂克服。


(色々あったわね……あ、そういえば、どうしてジェイドはあんなにも焦ってここに……?)


いつも冷静沈着なイメージがあるため、珍しく思う。

しかしそうした疑問を、考え続けるよりも早く。


(いえ、今日は――早く、寝たほうがいいわね。もう脳も身体も動かせないわ)


自分の身体にあった疲労を休ませることに、頭がいっぱいになった。


最後にかけられたジェイドの言葉通りに、今日は無理をせず――ゆっくり休もうと思った私は――伸び伸びとベッドで身体を休ませるのであった。


一方で――レイラの自室から出たジェイドはというと。

ドアを閉めた後、数歩歩いて……廊下の中央で立ち尽くしていた。


「……」

「陛下?」


まだレイラの自室近くであったため――部屋の前で護衛をしているセインに、不思議そうな目で見られている。


そんな中――ジェイドは、片手で自分の顔を覆いながら。


「俺は……レイラに、何を言って……」

「へ、陛下……?」

「!」


セインの声がようやっと届いたのか、ジェイドはすぐさまセインの方を向いてから。


「……失礼する」

「は、はい……」


ジェイドの奇妙な行動に――セインは怪訝な視線を送った。

そんなジェイドの耳先が、ほんのりと赤くなっていたことに……レイラはもちろん、セインも知る由もなかった。



■ノエル視点■



「で、殿下……?」

「……大丈夫」


セスが心配そうに声をかけてくる。

そんな彼の声に、なんとか返事をするものの――内心は全く大丈夫ではなかった。


お母様の部屋から出て行き、レイヴン様に見送られたのち。

僕は自室に戻ってきていた。


レイヴン様に見送られているうちは、きっと“ちゃんと”した姿で接することができたはず。

今はというと――帰ってすぐさま、髪を乾かし夜着に着替えて。


ベッドの中央で、僕は――うつ伏せで寝転がっていた。


「う~~~! どうして、僕はお母様にカッコいい姿を見せられないんだっ!」

「……」

「セインとの剣の訓練だって、終わりがけの時だったし……風呂の時なんて……」


セスが側に控えている中。

お母様が側にいながら、自分の――長年使っていなかった浴室に入った……先ほどのことを思い出す。


僕は、風呂が嫌いだ。

というより、お湯――水が苦手なのだ。

僕個人がどうこうというより……。


「にゃあ~!」

「はぁ……お前のせいなんだからな?」

「にゃ?」

「まぁ、いいけども……」


ベッドでゴロゴロと悶えている僕の側に、小さなライオンがやって来る。

いつもは逞しい獅子の姿で現れるのだが――こうして、何気ない時は小さい子ライオンの姿なのだ。


(そうでもしないと、妖精の力で身体が高熱になってしまう)


火の妖精である守護妖精のライオンは、ずっと力を込め続けると――自分も高温になってしまうようなのだ。だから、火力を制限するように……普段は子ライオンの姿にとどめて、隠している。


そんな自分の妖精なのだが、大の水嫌いだった。


火と水は相性が悪い……というだけでなく、この妖精は水を見ると本能的に嫌がる傾向なのだ。


(だから、僕も引きずられて……いや、これは甘えだな。もっと僕が――制御できるほど、力が強ければ……)


シャワーくらいの短時間であれば、自分を騙して耐えられるのだが――風呂につかるとなると……生理的な嫌悪感と、言い知れぬ恐怖が湧いてくる。


しかしそうした部分も含めて、強くならなければ……。

悲しい顔じゃなくて、お母様の喜ぶ顔が見たいから……。


「だから、お前も僕に協力してくれよ?」

「にゃあ?」


僕の側で、ゴロゴロと身体を預けている子ライオンの頭を優しく――そっと撫でれば。

キョトンとした顔で、こちらをじっと見つめてくる。


(それに水への恐怖は……もう一つある)


きっと越えなければならない壁は、お風呂だけではない。

先ほど、お母様の部屋へ突如やって来た父上。


今日の剣の稽古だって――なぜわざわざ見学にきたのか……。


今まで一度たりとも、僕の授業に顔を出したことはなかった。

でもそれが逆にありがたかった。


(父上を目の前にすると……)


親としてというより――圧倒的な強者の存在感に気圧されるのだ。

そして父上の妖精の力から感じる……恐怖心。


(……父上は水の妖精だから……苦手意識をもってしまう、そう、それだけ……)


普通に話す分には、なんとか自分の気持ちを落ち着かせられるが――いざ、父上の瞳に射抜かれるとゾッとした……本能的に自分が負けているという、恐ろしさが湧くのだ。


だから、あまり考えすぎず――「苦手」という理由で自分を納得させている。


(――だけど悔しい……父上は、お母様を守れるほどの権力を、妖精の力を持っている、だから……)


その壁を乗り越えなければならないのだ。

つい、ベッドの布団をぎゅっと握りしめた時。


ベッドのスプリングが、ギシッと音を立てる。


「ん?」


思わず音があった方に顔を向ければ。


「にゃー!」

「え……わ……!」


――モフンッ!


子ライオンが、僕の顔にジャンプをしてから……勢いよく身体をスリスリと押し付けてきたのだ。



お読みくださりありがとうございます!

⭐︎の評価を下さると、励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ