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46.ホッとしたら



(え!? 本当に……えっ?)


私はノエルの手をギュッとしながら、自分の足元にいる存在に目を奪われていた。


まさかそんな、ライオンの子どもがいるなんて……そんな……と現実に理解が追いつかなかった。


子犬ならまだしも、ライオン――猛獣をここでノエルが飼っているのだろうか?


(物語でノエルがライオンを飼っていたなんて、読んだことないもの……)


しかしぷるぷると震えている小動物は、間違いなく自分の足元にいて。


ノエルに事情を確認しようと思い、彼の方を向けば。


「……っ」


ノエルはお湯に慣れることに精一杯なようで……ここで子ライオンのことを聞いて、頭の中に情報を増やさせるのも憚られてしまう。


(どうすれば、いいの……?)


今日一日で、だいぶ小動物と触れ合っている気がする。

もしかしたらこの子ライオンも、妖精の類なのかもしれない……が。


(ライオンなんて、非日常すぎて……)


なんだか自分が見たものの確信がもてない。

そんな中、浴槽から――。


――ぴちゃん。


ノエルが姿勢を少し変えたようで、浴槽内からお湯が少し外へ溢れた。

そして湯が床で跳ねると。


「にゃっ!」


ビクッと驚いたように、子ライオンは驚き――恐怖しているようだった。

震えはさらに酷くなり、まるで威嚇する猫のように毛を逆立てている。


(このライオンちゃんも……もしかして……お湯が怖いのかしら?)


ノエルの怯えようと、側に居る子ライオンの反応が似ている気がした。

前世の記憶では、ライオンがお風呂に入る習慣など聞いたことがないので――見たことがないものゆえに、驚いているだけなのかもしれないが。


(ライオンといえば猛獣だから、危険な動物な気がしていたけれど……)


側でプルプルと震える子ライオンの見ていると、危険さよりも――助けてあげたい気持ちが大きくなる。


子ライオンのことで人を呼ぼうにも……ノエルから、お風呂に向き合うことを伝えられており――現に彼は進行形で頑張っているのだ。


そんなノエルの気持ちを無視してしまうことは、なるべく避けたいし――側に居る子ライオンも、震える状態ではなく落ち着かせられたら……ベストだと思った。


(ずっと震えたままなんて……あまりにも、可哀想に思ってしまうわ)


ただライオンの知識などほぼゼロに等しいので――まずは、猫を触る時と同じように……子ライオンに声をかけながら。


「……怖くないわ、私はあなたの敵じゃないからね」

「にゃ……」


そっと、自分の空いている片手を子ライオンの方へ近づけてみた。

すると子ライオンは、震えながらも――じっと私の手を見つめる。


――スンスン。


子ライオンは、私の手の匂いを確認するように鼻を近づけてきて――。


――スリッ。


匂いを嗅いで何かが分かったのか、私の手のひらに子ライオンは自分の頭をすりつけた。


「大丈夫、大丈夫よ」

「にゃあ……」


片手はノエルの手を握りながら、もう片手で子ライオンをゆっくりと頭から腰にかけて撫でる。


(ライオンの触り方は全く分からないけれど……猫を触るイメージで……いいのかしら……?)


こうして子ライオンに声をかけていながらも、湯船につかっているノエルはこちらの声に反応する余裕はないようだった。


だから子ライオンを落ち着かせたのち、両手でノエルの手をギュッと握ることを決意する。


そもそも子ライオンが落ち着かず、ノエルの呼吸がこれ以上荒くなるようだったら――すぐにセスを大声で呼ぼう。セインは部屋の外にいるから、きっと室内で待機しているセスならば、すぐに来るはずだから。


ひとまずノエルには引き続き、手を握り――子ライオンはさすさすと、全身をなだめるように撫でた。


(あれ……なんだか、今日の私は――両手を活用しまくっているような……)


ふと庭園での出来事が頭をよぎってくるも――。


(いえ! 今は考えるよりも、手を使うのみよ……!)


一瞬、自分が王妃ではなく違う職業になったのではと考えが浮かんだが……今の状況をなんとかするのが先決なため、今に集中することにした。


状況が先に変わったのは――子ライオンの方だった。


子ライオンの身体を撫でていれば、次第に逆立つ毛が収まっていき……震えが段々となくなってきたのだ。


「どう? もう落ち着いた?」

「にゃ!」


私が子ライオンに声をかけると、子ライオンは鳴き声で返事をした。


(ライオン語は分からないけれど……きっと大丈夫って言っているのよね……?)


私の言葉に身体全体でも返事をするように、子ライオンは目を細めながら私の手にスリッと身体を押し付けたのち、縮こまっていた身体を直すかのように、伏せながら伸びをしていた。


「良かったわ……」


子ライオンの様子にホッとした矢先。


「お母様……」

「! ノエル?」


ノエルから声をかけられ、すぐに彼の方へ視線を向けると。


「ノエル……! 目を開けられ……!」

「はい! お母様が側にいてくださったおかげで、開けられました!」


浴槽に足を入れてから、どこか切羽詰まった様子だったノエルが……目を開いて嬉しそうにほほ笑んでいた。


「なんだか、今まで怖かったのもウソみたいに……お湯に入ると身体がポカポカするんですね」


そしてノエルは、私が握っていない片方の手でお湯を掬い――お風呂を楽しんでいるようだった。


そんなノエルの姿を見られたことに私は感無量になりながらも……。


「ええ……! お風呂って気持ちいいでしょう?」

「はい!」


ノエルに返事をして、笑顔になった。


(呼吸も乱れていないようだし……今なら子ライオンのことを……)


ノエルに聞くことができそうだと思った。

もし見間違いでも、今日はノエルがお風呂に入れたという感動が勝るので、怖くない気がして。


「ねぇ、ノエル――」


早速聞こうとした瞬間。


――ピリッ。


私の足が限界を迎えた。


「ヴッ……!」

「お、お母様……!?」


そう、ずっと中腰で膝を集中的に使う状態で――ノエルと子ライオンに触れていたのだ。

そのため、足がひどくしびれてしまっているようで……これ以上、体勢をたもてなくなり――。


私は、浴室の床に片手をついて……倒れ伏すような姿勢になった。




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