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43.思い出



(お、溺れ……溺れる……!?)


私はノエルの言葉を聞いて、衝撃を受けていた。

もちろん、ノエルのことを思うゆえに――ノエルの一大事として。


きっと身近にサポートをするセスも、あらためてノエルの想いを知ったようで……目を大きく見開いていた。そして、何かを確認するように。


「アッ……王妃様の願いを、かどが、たたないように……な、なるほど……」


セスは小声で喋っていたが、その内容よりも目の前で可愛く……真剣に言っているノエルが大事だ。


よくよく考えたら、ゆっくりと練習していけばいい話ではあるのだが……。

天使のノエルが辛そうにして――なにより、罪悪感で謝罪もしてきたのだ。


すると、セスがノエルの言葉を補うように。


「その……殿下は、お風呂が嫌いではなく――お一人でなんでもできるようになる……独立心ゆえに、私たち使用人にも協力を出さずに、過ごされていたのです」

「そう、なのよね……」

「え?」

「あ、いえ、そうだったのね」


つい、物語を知っている身として――セスから言われたことに同意してしまったが、すぐに返事を訂正する。


セスから聞いた「独立心」ゆえに、という言葉を聞いて……やはりノエルは早く大人になろうと健気に頑張っているんだと、認識をあらためる。


その割には……セスに服の汚れを拭いてもらっているようだが――それは、きっと貴族のマナーなんだろうと、解釈することにした。


(なるほど、つまり……お風呂は入りたいけど……慣れていない。そういうことね!)


私の中で一つの結論を出している中。

セスはなぜかノエルの気持ちをもっと代弁したいのか……口を開いて。


「ですから、王妃様から言われたことを――殿下は否定しておられるのではなく……ええ、風呂嫌いではけっしてなく……そう……」

「独立心よね!」

「え、ええ……! そのため、私たちがお手伝いするのも憚られまして……なので、今日は泣く泣くにはなりますが……シャワーだけ――」

「私が、ノエルの側で補助をするわ!」

「そう、王妃様が補助を……えっ」


キリッとした顔で私がそう言えば、セスはギョッとした顔をする。

側にいるノエルもまた、理解が追い付いていないようだった。


「あ、もちろん。互いに湯あみ服を着て……溺れないように補助をしようと思うの」


さすがに一度もお風呂を共にしたことがない同士で、一緒に全裸でお風呂に入るのはハードルが高い。


だが、このユクーシル国――ことに、この国の貴族文化では風呂に入るときも湯あみ服を着ることが多い。全身を隠してくれるこの服を着れば、布面積が大きい水着のようなものだ。


すなわち、お風呂――ではなく、プールのような感覚でいけるのでは、と思ったのだ。


私が真っすぐとそう言えば、セスはたじたじになりながら口を開く。


「え……あ、それは……ええと……」

「王妃様……恐れながらですが、そこまで身を削らずとも――きっと殿下は、遠慮をしているのでは……?」

「セイン……。ノエルのことを思ってくれてありがとう。あなたの言う通り、ノエルは遠慮をしているように私も思ったわ。けれど……」


セインから意見を言われて、私は同意をしてから。


「……ノエルは今まで、お風呂に入るきっかけがなかったから――遠慮してしまうようにも思ったの」


前世での知識では、小さい子どもと一緒に両親がお風呂を共にしていく――または赤ちゃんの頃は、両親がお世話をすることが多い。


間違いなくノエルにはそうした「お風呂」の思い出がない。

そして先ほど、ノエルが言っていた「お風呂に入りたいけど入れない」言葉を思い返せば。


「お風呂に入りたいのに、溺れそうで入れない――そんな辛い思いをしている我が子に……してあげられることは、全てしたいの」

「あ――、確かに殿下は入りたいとおっしゃっておりましたね……」


セインが、一瞬ノエルに視線をやったあと、納得したように言葉を紡いだ。

そしてセインは再び、ノエルの方へ向くと。


「だそうです、殿下。いい機会で、良かったですね」

「……っ!」


セインは今日一と言っていいほどの爽やかな笑みを、ノエルに向けていた。

その笑みを見たノエルは、「君は、いい性格のようだね。セイン……」と口をひくひくさせながら言った。


「ノエル……私はノエルにしてあげられることはしてあげたいけれど……もし、本当は嫌だったら無理しなくていいのよ?」


ノエルの役に立つことはしてあげたいが――彼はとても優しく、いい子なのだ。


今更、お風呂の思い出など求めていないのに……といった可能性も――考えたくはないがなくはない。


だから私はノエルに、そう話を切り出せば――。

ノエルは、目を見開いてから……眉尻を下げたかと思うと。


「無理はしておりませんっ!」

「ノエル……」

「お母様のお気持ちが嬉しいです。ぜひ、よろしくお願いします」

「……っ! ええ! 補助は任せて!」


ノエルの瞳はどこか、決意をしたように遠くを見つめていたようにも見えたが――。


そんなノエルも可愛いので、私はいろんな表情をするノエルに目を奪われていた。


側から見守っていたセスは――。


「ああ……健気な殿下……さすがです。ご武運を……」


そうエール(?)のような言葉を、ノエルにかけているのであった。




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