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41.心配




私が口を開けながら、夜空を見つめていれば。



「お母様――!」

「! ノエル!?」


訓練場の室内から、愛するノエルの声が聞こえてハッと我に返った。


(花火を信じられずに、ボーッとしてしまったわ……いえ、あれが花火だったのかも、本当なのか、分からないわよね……)


ひとまず自分が見たものを、深く考えずに――声がした方へ視線を向ければ。


「ノ……ノエル……!?」


再び私は驚愕してしまう。だって……目の前のノエルが……。


「お母様……お戻りになったのですね! 父上とは大丈夫でした……か?」

「え、ええ……どうにか話してきたけれど……も……それよりもっ!」

「え?」


キョトンとするノエルに、私はずいっと近づいて――。


「ほっぺたに……しかも全身あちこち……泥だらけじゃない……!」

「あっ……汚いのに……お母様に近づいてしまって……」

「そんなこと問題じゃないわ……! ノエル、怪我はない? もしかして傷口にばい菌が……」

「……!」


自分の服が汚れることなんて、全く重要じゃない。

大切なのは、ノエルが痛い思いをしていないかで……。


土や泥が付いている――彼の衣服、そして衣服から見えていた肌部分に、怪我がないかを満遍なく……目に力を入れて探しまくっていれば。


「王妃様……申し訳ございません」

「! セイン……!」

「殿下が土まみれになってしまったのは……私のせいなのです」

「え……セ、セインのせい……?」


ノエルの後ろから、申し訳なさそうに現れたのはセインだった。


しかし土まみれになったのがセインのせいというのは――どういうことで……。


そんな疑問が、私の顔に出ていたのだろう。

すぐにノエルとセイン、ともに顔を見合わせてから……ノエルがおずおずと口を開いた。


「その……お母様を待っている間に……セインに剣の鍛錬をお願いしたんです」

「! そうだったの……?」

「うん。それで……その……剣と共に――妖精での鍛錬もしてて……」

「よ、妖精……」


ノエルから「妖精」と聞き、私は頭を抱える。

今日は妖精のスピリチュアルな側面に何度驚かされたことだろうか。


大きな狼から子犬に変化するだけでなく――あれか、審問会で見た摩訶不思議な能力を出す……ああいった行いをしていた……ということなのだろうか。


(妖精……すごいのね……)


私の頭では理解しきれない話のような気がして、気が遠くなってしまう。


そんな私に、分かりやすく教えてくれようとしたのか……セインが口を開いて。


「私の妖精が土を司っておりまして……殿下に、土を浴びせてしまう結果になったのです」

「ツチヲ……ツカサドル……」

「セインのおかげで、たくさん鍛錬ができて……本当に充実した時間だったんです」

「……はわ、そ、そうだったの」


セインの優しい説明があったとしても、一体全体どういうことなのか――私にはまだ早い知識のようだ。


(つまり……あの土壁は妖精の力で作ったってこと? それであの勢いのいい花火は……)


ノエルの守護妖精が作った――ということなのだろうか。


自分の中でイメージしている剣の鍛錬とは、全く違ったことを今になって知った。


レイヴンと行っていた剣道のような、剣を打ち合う練習ではなく――火を扱う中での……危険な練習を彼らは行っていたのだろう。


そこまで考えると――火傷のリスクや、目に土が入ってしまうリスクなど、嫌な不安がぐるぐるといっぱいになってしまう……が。


「――お母様をご不快にして……しまったでしょうか?」

「!」

「土で殿下を汚してしまったのは私の妖精の力ゆえに、です。そのため、殿下は何も悪くございません。罰するのでしたら、私を……」

「セイン……」


私の反応を見たノエルとセインが、だいぶんしょんぼりとした表情を浮かべている。


きっと二人からすれば、当たり前な鍛錬だったのだろう。

むしろこうして、私が来るまでは白熱していたほどの。


(だめね……OL時代を基本にしてしまって……この国は――前世と違う価値観があるっていうのに……)


つい、「子どもには危ないことをさせないために」という考えが、浮かんでしまっていたが――ユクーシル国は妖精がいて、その力を強みにしている国だ。


しかもここは王宮であり、権力闘争や王族規範など――前世の知識ではあてはめられない「常識」がある。


この前の審問会で嫌になるほど分かったはずなのに、まだまだ理解しきれていなかった。

悲しそうな二人の様子に、申し訳なさが生まれる。


二人の気持ちを考えれば――私が一方的に非難をするのはお門違いだろう。

だから……。


「ノエル、セイン……ごめんなさいね。私の想いが先行してしまったわ」

「お母様……?」

「王妃様……?」


二人に言葉をかけると、キョトンとした顔でこちらを見つめてくる。


「二人には……特に、ノエルには危ない目に遭ってほしくなくて……土まみれになったのを見てビックリしてしまったの」

「……!」

「私は妖精の力っていうのをまだ分かっていないけれど……きっと、こうして白熱した鍛錬ができたのは――大きな成長だとも思うの」


ノエルを想う気持ちと、彼らの常識から見える部分も兼ねていかなければならない。


私はノエルの頭にもかかっている土ぼこりを、慎重に払いながら――。

彼の頭をゆっくりと撫でて。


「ノエル、すごく頑張ったのね。今度は妖精の……鍛錬も、見させてね?」

「……っ! は、はい……!」

「でも、無理のしすぎはダメだからね。ノエルが大怪我をしたら……私は悲しいの」

「はいっ! け、怪我をしないように……気を付けます!」


過保護にノエルを守りすぎるのは――妖精という摩訶不思議な存在がいるこの世界では良くないように思った。


それは自分自身が妖精を知らないというのもそうだが――万が一、ノエルが危険な目に遭った際に頼れるのは……悲しい気持ちにはなるが、妖精の方が力が強い気もして。


あらゆることからノエルを守る――彼自身の選択肢を増やす……そのためにも、今生きている「ユクーシル国」をもっと知る必要がある。


「セイン、私がいない間……ノエルの剣の鍛錬に付き合ってくれてありがとう」

「いいえ。私も殿下のおかげで、強くなれましたので」

「そ、そうなの? セインが教えたのではなくて?」

「ええ、私よりも――妖精については、殿下の方がはるかにお強いですよ」

「!」


セインからそう聞いて、ノエルのすごさを褒められて――嬉しいと思った。


(そういえば、セインも――もう妖精が見えるのね。しかも力も使えるように……)


以前は、セインが妖精を見えない状況に……どうにかしたいという気持ちがいっぱいだったために、勝手な私の気持ちにはなるが――ホッとした。


そして、ノエルの前でしゃがみ――彼と視線を合わせながら。


「ノエルは剣だけでなくて、妖精の力を扱うのもすごいのね……! 私、自分のことのように嬉しいわ」

「お、お母様……! 褒めてくださり、ありがとうございます……!」


私がそう言いながら、ノエルの頭をゆっくりと再び撫でれば――彼は嬉しそうにニコッと笑った。


それに耳の先が赤くもなっていて――。


(か、可愛い……! 照れているのかしら? 確かにレイラは訓練場へはこないから……)


ノエルにとって――いい思い出になってくれたら、すごく嬉しいと思った。

ノエルとセインと……和気あいあいに過ごしていれば。


私の後ろから――訓練場まで案内をしてくれた騎士の……震え声が聞こえて来た。


「お、おわ……レイヴン様がかけた……屋根の……風の妖精の加護が……えあ……」

「?」


何やら驚きながら独り言をブツブツ言っている様子に、私は彼の方に視線を向けて。


(ど、どうかしたのかしら?)


頭の中に疑問が浮かんでいた。




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