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30.訪問の理由



突然のジェイドの訪問に、場には緊張感が漂う。


そんな中、ジェイドが口を開いて。


「……剣の稽古をしていたのだな」

「は、はい……」


(当たり前なことを聞くのね……!?)


柱で見ていたから、きっとジェイドはノエルの授業を見ていたはずで――。


(それとも、今来たばかりの体を……?)


確かに私と目が合っただけで、ノエルには柱に隠れるようにジェイドがいたことはバレていない。


だからそんな風に、堂々と言えるのかもしれない。


「……レイヴンは、この国でも随一の剣の使い手だ。存分に技を教えてもらえばいい」

「はい、分かりました」


ジェイドがノエルに声をかける――その言葉を聞いて。


(ちょっと――! もっと優しく応援するだとか……! 励ますとか! 言い方があるでしょう!?)


どこかよそよそしい物言いに、私はなんとも言えない気持ちになってしまう。


せっかく、父と子が会話をしているのになんとも味気ない。


「へ、陛下~。ノエルは、閣下に褒められるほど剣が上達しているのですよ」

「そうか」

「……っ! 将来が頼もしくて、本当にすごいでしょう?」

「ああ、精進するように」


ジェイドから出る言葉に、私はピキピキッと来るものがあったが――ここで、声を荒げてジェイドに反抗しても、ノエルのためにはならず……むしろ私がお縄になる未来が見えたため……。


(が、我慢よ! もっとかけるべき言葉があるように思うけれど、ここは我慢するのよ……私!)


奥歯をキュッと噛みしめて、怒りを押し殺した。


そんな私を見て、ジェイドは首を傾げて不思議そうに見つめてくるので。


「……はぁ……」

「王妃様、どうかしましたか?」

「セイン……だ、大丈夫よ……」


自分の夫であるジェイドの鈍さに、思わずため息が出てしまった。


(二人の間には、ノエルしか子どもがいないから――子育てが初めてなのかもしれないけれど……)


例えそうだとしても、王族ゆえにだとしても、こうも薄い言葉の応酬だけが普通なのだろうか。


ノエルが親に認められようとして、涙ぐましい努力をしているのを小説で知っているので……どうにかジェイドには温かみのある会話をしてほしいと願ってしまう。


(淡白な対応をするのが……ジェイドのポリシーだとしても――)


そんな彼のやり方には賛同できないので、ジェイドに言いたいことがあると……彼をじっと見つめていれば。


「今日は、王妃……レイラに用があって来た」

「……えっ?」

「お、お母様に……ですか?」

「ああ、俺の宮にある庭で――花でも見ようかと」

「……えぇっ!?」


てっきり、ノエルの成長を見に来たのだとばかりに思っていたが……。


ジェイドの発言で、私の頭は混乱してしまう。


花を見る――この前の彼の態度を見るに、そんなロマンチックなことをするような人物には思えない。


ただ会話をする時間が必要……という部分だけで見れば、そうした時間を作ってくれたのか――と思わなくもない、彼からの誘い。


というか、私よりもノエルとの親子の時間を大切にしてほしいのに。


「……なんだ、不満か?」


ええ、もちろんです――なんて、言えないため……。


「ノエルも一緒に行くことはできないでしょうか?」

「……ノエルは来たいのか?」

「――いえ、僕は大丈夫です。今日習った……剣技の復習をしたいですし、父上の時間の邪魔はしたくありませんので」

「そうか」

「ノ、ノエル……無理はしてない?」


私はもし不敬罪という規則がなければ、ジェイドに「聞き方をもっと優しくして」と勢いよく突っ込みを入れるのに。


私が、ジェイドの問いかけに納得できず――ノエルにそう聞いてみれば。


「僕としては、父上と……お母様が仲良くしてくださることが嬉しいです」

「ノエル……」


ノエルの言葉を聞き、ハッとなる。

確かに、これまでのジェイドとレイラは夫婦と呼ぶには、あまりにも冷え込み過ぎた関係だった。


そんな二人の関係を我が子であるノエルがひしひしと感じるまでに、現れていたのならば――子育てに間違いなく悪影響が出るだろう。


いがみ合う夫婦に振り回される子ども……そんなことを、ノエルにはさせたくない。


(ノエルのためにも、穏やかな夫婦関係……子育ての協力関係が必要ね)


私は当面の目標が決まり、心の中でガッツポーズを作り――自分に活を入れた。


「ノエル……気遣ってくれて、ありがとう。じゃあ、私は陛下とお話をしてくるわね」

「はい! いってらっしゃいませ!」


ニコッと明るくほほ笑むノエルに、私はその場で倒れそうになるのを必死に耐えるのに尽力した。


あくまで、普通を装いながらジェイドの方に歩こうとしていた際――セインがその場から、動かないのに気が付く。


「あれ? セイン……?」

「王妃様、私は共に行けません」

「え?」

「陛下の王宮に立ち入ることができるのは――陛下に招待された者、もしくは王族だけ……というのが決まりなのです」

「!」


セインの言葉を聞いて、私は驚く。


(えっ……! そんな規則がこの王宮にあったの!? 専属騎士だから、一緒に来れるものだとばかり……)


驚きを表したまま、ついジェイドを見つめれば――彼は否定はせず。


「……王に忠義を尽くすための決まりだな。王が許可したもの以外をつれて行くのは、不信感の表れ――ということらしい」

「……!」

「だが、強制はしない。もしつれて行きたいのなら……俺は構わない」


ジェイドにそう言われ、私は迷ってしまう。


きっと彼は、私を脅す気なんてさらさらなく――ただ事実を言ったまでなのだろう。


しかしここでセインをつれて行く……となると、今の話からの流れで……「あなたを信用してません」ともとれるメッセージ性がある。


しかし本音としては、私の味方として心を砕いてくれる人が側に居てくれた方が……安心だ。


(でもせっかく、ジェイドが歩み寄ってくれたっぽいタイミングで、それを崩すのは……ノエルの将来を考えると良くないわ)


今の目標は、子育てを協力できる夫婦関係。


気持ちが決まった私は、セインの方を向いて。


「セイン、その……私一人で行くことにするわ。少し時間が空いてしまうけれど――またここに戻ってくるから、ノエルの側に居てくれるかしら?」

「王妃様の御心通りに――私を気遣ってくださってありがとうございます」

「わぁ! セインがこの場にいてくれるんだね! セスだけじゃあ、見守ってくれるだけだったから……剣の修練に付き合ってくれる?」

「私でよければ、ぜひ」


セインから返事を聞いて――そしてノエルの言葉も聞き、私はホッとする。


もちろん訓練場内には、遠くにセスが控えているが……こうしてセインがこの場に残ってくれることに心強さを感じたのだ。


(マイヤードはどうにか講師から外されたけど……ノエルや私に反感を抱く者が、ここに来る可能性だってあるものね)


王妃の専属騎士であるセインがここにいることで、子どもだけだというだけで侮られる状況は回避できそうだ。


「お父様! お母様とお話が終わったら、きっと護衛をつけて――ここまで送ってくださるんですよね?」

「――もちろんだ」


(帰りの護衛……! すっかり頭から抜けていたわ……!)


今に集中していたがために、ジェイドと会話後のことを気にしていなかった。


専属騎士がいるというだけで、王宮内では私に無体な態度をとる者はめっきり減ったものの、相変わらず冷淡な応対をする者は少なくない。


ノエルは私の心配までしてくれたことに、思わず――目頭が熱くなった。


そしてジェイドと早速――向かおうとしたところ、彼がノエルの方へ姿勢を向け。


「聡すぎるのも、問題だな」

「?」

「まぁいい。王妃と話が終われば――お前が心配していることなど起きぬように、王妃を送り届けよう」

「ありがとうございます! お父様!」


ジェイドが言った言葉の意味が分からず、頭にハテナマークが浮かぶ。


(聡すぎる……つまり、褒めるところが多すぎてってこと!? これがジェイドのほめ方なのかしら……!?)


彼の意図が全く読めず、じっと見つめるものの――答えは出ない。


(けれど、ジェイドが発言した時――少しピリッとした空気だったような……?)




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