130.近くに
「も、もちろん! 撤回なんてしないわ」
ジェイドがいつもよりも、どこか真剣に……普段見ない彼を見たような気がして、慌てながらも――私がそう答えると。
「ふ……そうか。なら――お前の言葉に甘えよう」
「!」
彼は艶やかな笑みを浮かべたのち、上着を脱いでラフな格好になってから。
私がいるベッドへ――入ってきた。
いつもは一人しか寝ていないためか、ベッドのきしむ音が鳴る。
自分が言った手前、何も問題などないはずなのに……心臓が変な動きをしてしまって、鼓動が速くなった。一方で、ジェイドはすんなりと――ベッドで座る私の隣で、横になった。
(意外と……スペースはそんなにないのね)
ジェイド自身が高身長で、筋肉もついている逞しい男性ということもあり。
全然、広々と使えると思ったベッドは――そこそこスペースを占められる形になった。そうだとしても、OL時代に使用していたベッドよりも、このベッドの半分のスペースの方が大きいくらいなのだが。
「どうした? 寝ないのか?」
「あ……え、ええと! さっき言ったでしょう? マッサージをしようかなって!」
「マッサージを……?」
ジェイドはすでに掛け布団を被って、横になっている。先ほど言った通り、休養をしたおかげか――元気がある私は、ジェイドをマッサージしようと思った。
それと同時に――そんな彼と共に、掛ふとんの中に入ることに……どこか変な緊張が生まれてしまうため、マッサージで時間をかけて、彼の側にいることを慣れようと思ったのだ。
有言実行をすべく、上体をさらに起こして……マッサージをする体勢になろうと思えば。
ジェイドが私の上半身に腕を添えて――起こそうとする身体とは逆の方向に、力が加わった。
「え……?」
――ポフンッ。
気づけば私の頭は――自然と枕へ吸い込まれていた。痛みなどは全くなく……あまりにも自然に倒れたので、理解がまだ追い付かない。
そして首のところには逞しい腕の感触があって……。
(これはジェイドの腕……よね? つまりうで……腕枕……?)
段々と状況を把握していくうちに、理解しない方が平静を保てたんじゃないか……と思い始める始末で。
「……マッサージはなしだ」
「マッ……え……?」
「言っただろう? 俺もお前に休んでほしい、と」
声がした方に顔を向けると、想像以上に近い距離で――ジェイドの美貌があった。どうやら彼は、横向きになりながら寝ているようだ。
あまりの近さに、私の脳内はキャパオーバーになる。そのため、ジェイドの言った言葉を理解することにいつも以上の時間がかかり……言葉がうまく出せない。
そんな中、彼は続けて口を開いて。
「……だから、今日は――」
――ギュッ。
ジェイドに近かった私の手が、彼の逞しい手に包まれる。彼の温かさを感じた時――。
「こうして……握っててもいいか?」
「!」
「お前とこうするだけでも、俺はすごく……身体が楽になるし……」
「なる、し……?」
「嬉しいんだ」
至近距離で、私は彼の艶やかな笑顔を見つめることになる。彼の魅惑な笑顔を見たせいで心拍数があがり――体温が高くなったのか、顔が間違いなく真っ赤になっている気がする。
私が、うまく言葉を出せていなかったためか――ジェイドは気になったのか。
「手を握るのは、だめか……?」
「!」
許しを請うような問いかけに……普段見たことがなさすぎる彼の態度に、またもや私の心臓はおかしくなる。
しかしこうして、何も言えずにいると――彼に勘違いさせてしまうと思い。
「だめじゃ、な、ないわ……!」
どうにか、返事をした。するとその言葉を聞いた彼は、眉尻をやわらげて……嬉しそうにほほ笑んだ。
(わ、私の心臓……どうか、鎮まって……!)
そんな必死の願いを自分に言っていれば、ジェイドは私の返事を聞いたのちに、柔く握っている手のつなぎ方を変えて。
それぞれの指で、絡める――手のつなぎ方に変えた。
(これはこ、恋人……つなぎ……え、あ……)
彼のそうした行いに、完全に頭が冷静に処理をしきれなくなっていれば。
「こうして俺の手が、自由になれないように……拘束しておこう。たがを外して――お前に嫌われたくないから、な」
「……?」
「ふ……分からないのなら、気にしなくていい。それよりも――」
ジェイドは恋人つなぎをした手を、彼の口元に持っていき――私の指先にキスを落とした。そして、私の方をじっと見て。
「良い夢を。おやすみ、レイラ」
「! お、おやすみ……?」
ジェイドはそう――優しく言った。そしてそのまま、ゆっくりとまぶたを閉じて、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。一方の私は、相変わらず祭りのような怒涛の心音が鳴り響いていて。
(私、今日……眠れるのかしら……!?)
変に目が覚めてしまったこともあり、私は必死に眠ることに集中するのであった。
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