129.健全な誘い(?)
(そ、そうよね。ベッドは一つしかないのだから、そうよね! ジェイドと二人で入ることになってしまうわよね……っ)
あまりに広すぎるベッドだったがために、勝手にパーソナルスペースがある形で眠れると――確信してしまっていた。
しかしよくよく考えれば、なんだかいかがわしい誘いにも聞こえてしまい……。
(あ~~~~~! 何言っちゃってるの……私……っ!)
あくまで、健全な誘いなはずなのに。
ジェイドの言葉を聞いて、私は焦ってしまう。
「あ……そ、その……」
うまく返事ができない。
しかも気恥ずかしさのためか……なんだか顔にも熱が集まってしまっているような状況で。
そんな言葉ではない声を出す中、ジェイドが再び口を開いたかと思うと。
「ふ、冗談だ」
「え?」
彼は優しく――言葉を紡いだのち、ソファから立ち上がって。
「まだお前は万全な状態ではないのだから、俺のことは気にせずゆっくり休め。支えはいるか?」
そう言うと、ジェイドは私の方へ手を差し伸べた。
彼の厚意をありがたく思って、その手に触れながら――私もソファから立ち上がる。
「! ありがとう。 で、でも、あなたを見送りたくて……!」
「今はお前が元気になることが優先だ。だから無理をしなくていい」
彼はゆっくりと、ベッドまで私をつれて行き……寝るようにと話した。
ジェイドの気遣いに嬉しい気持ちを感じつつも、これでいいのかと――そんなモヤモヤした感情が湧く。というのも、私を優先してくれるあまり……今現状で、一番の寝不足であろうジェイドに負担をかけているのだ。
(私だって、ジェイドにはゆっくり休んでほしいのに……)
先ほどの言葉では、返事に窮してしまったが……別にジェイドが側に居ることを不快に思ったりはしない。
もし私の態度のせいで、ジェイドに遠慮をさせてしまったとしたら。
(今までは冷酷王というイメージだったから、そんな遠慮なんてない……と思うかもしれなかったけど……)
何度も彼の優しさや気遣いを受けて、私としても――彼に報いたい……応えたいとそう感じていた。
「どうした? レイラ」
ベッドの前まで歩いた時、私が一向にベッドに入らないのを見て――ジェイドは不思議そうな声を上げる。きっと私がベッドに入ったら、彼はそのまま自分の部屋へ帰っていくだろう。
自分の部屋でも、きっと休めるのだろうが……。
チラッと彼の顔を見やれば、相変わらずひどいクマが見える。そんな状態で、一人で部屋へ戻らせることにも不安を覚えるし……なにより、そうした彼に対して自分が助けになれる状況なのに、それをしないのが……。
「……嫌だわ」
「? 何が……」
「ジェイドが一人で帰ってしまうのが、嫌なの!」
「!」
私がそう言うと、彼は目を見開く。
そんな彼を見ながら、私は続けて。
「少しでも、あなたの力になりたいから……マッサージをしたら身体が楽になるでしょう?」
「だが……お前が無理をするのは……。それに側で寝るのは、気が進まないだろう?」
ジェイドの言葉を聞いて、私はますます胸がキュッと締め付けられる。
彼の部屋ではベッドの上でマッサージを行ったりしたのだが……あれからは一度もない。
それに部屋を別々に分けた経緯もあって、ジェイドなりに私の気持ちを思いやって考えてだした結論なのだろう。ジェイドの部屋の時は――彼の要望ゆえにベッドの上で行った。だから自分の希望ではなく、あくまで私の希望を優先するがあまり。
だからこそ、私は彼を放っていたくはなくて。
それと――ジェイドに返事をした時に感じたのは“気恥ずかしい”ことだったのを思い出し、あとは自分の決意だけな気がして。
「私が……あなたの側にいたいの」
私は扉へ向かおうとするジェイドの――服の裾をキュッと掴んだ。
彼は私の手の動きを見ながら……聞こえた言葉に対して目を見開いて。
「レイラ……それは……」
「ジェイドが嫌なら、諦めるわ……けれど、私は本心だから……!」
そう言い切った私は、ジェイドの服の裾から手を放して。
ベッドにボフンと、勢いよく入り……奥の方へ身体を寄せる。
そして自分が占拠していない空間に手をついて。
「ほら……! ジェイドが寝られる場所があるでしょう? マッサージだって、できる元気があるから……!」
言葉だけでなく、行動でも――ジェイドに私の気持ちを伝えたかった。
(でも……ジェイドも言っていたけれど、無理強いはできないわ……だから、伝えたうえで……)
すべて正直に伝えたうえで、ジェイドの言葉を聞こうと思ったのだ。
そんな私の行動を見たジェイドは、一瞬キョトンと――虚を衝かれたような表情を見せてから。扉へ向かう足の方向を、私がいるベッドの方へ変える。そしてそのまま、ベッドに彼が手をついたかと思うと。
「前言撤回は――なし、だからな?」
先ほどの楽し気な口調ではなく――真っすぐと私の目を見て、彼はそう言った。
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