114.明るい気分
きっと先ほど言っていたお茶や軽食の準備だろうと――そう思って入室を許可すれば。
「わ、わぁ……!」
「量がすごい……わね……?」
私もノエルも、セスが部屋の中へ持って来たワゴンに――目が釘付けとなる。
そこにはケーキにクッキー……が1種類だけに限らず。
(二桁種類ほどは……ありそうね……?)
ワゴンの上には、様々なお菓子でひしめき合っていた。
しかもセスの後ろに控えている私の侍女たちは――別のワゴンを押していて。
そこにもまた……お菓子と共にたくさんの種類の紅茶のポットが置かれていた。
あまりの量の多さに、虚を衝かれている私とノエルに対して、セスは「やってやりました!」とばかりに――ワゴンの上に置いてある品目の数々を説明していた。
「こちらは、あっさりとしたベリー系で……殿下が四歳の時によくお食べになっていたケーキでして……次にこちらが……」
嬉しそうに語るセスを見て、私は……。
(セスも……ノエルが元気になって本当に嬉しいのね)
彼の執事としての気遣い以上の想いを感じて、じんわりと温かい気持ちになる。
(けれど……結構な数のケーキやお菓子ね……二人では食べきれないわ……あ!)
相当な数のお菓子に、頭がくらくらとなりそうだったが――ふと、そういえば最近、私の部屋付きの侍女が増えたことを思い出す。
(それに、セインにも協力をお願いしようかしら)
せっかくセスが、ノエルのためを想って用意したお菓子を無駄にするのは――悲しく思ったので。
「よし! そうしたら、ノエルの快気祝いとして――みんなでケーキを食べましょうか! 侍女のみんなと……誰か、セインにも声をかけてくれるかしら?」
「は、はい! かしこまりました!」
「セスも、もちろん一緒に食べましょうね?」
「! お気遣いくださり、あ、ありがとうございます……っ」
そう私が言えば、セスと侍女たちはあらためてケーキやお茶の準備を部屋の中で――せっせとし始める。
「お母様……セスの暴走を気遣ってくださり、ありがとうございます」
「ううん、こうしてみんなで明るく食事ができるのも楽しいもの」
「確かに、とても明るい雰囲気です」
ノエルは私の言葉をきっかけに、そう返事をしてくれた。
そして続けて。
「ですが、僕の快気祝いなだけではありませんよ」
「え?」
「お母様にも元気になってほしい祝いです……!」
「!」
真っ直ぐと私の目を見て――ノエルはそう言った。
その言葉に、私は嬉しさがより増して……自然と笑みを浮かべて。
「ありがとう、ノエル」
そう、ノエルに返事をして……明るく、そして騒がしくなった自分の部屋に温かい気持ちが大きくなった。
そしてケーキやお菓子の準備が終わると――。
まるでプチパーティのごとく、たくさんのケーキとお菓子を前にして――ノエルやセス、そしてセインや侍女たちとケーキを美味しく食べ始めるのであった。
■ノエル視点■
お母様のお部屋に伺って、お見舞いをして――ケーキを食べたのち。
僕は自室に戻ってきていた。
窓から月明かりが差す中――僕はベッドに腰かけて、床でおすわりをしている自分の妖精の頭をゆっくりと撫でた。
そして部屋の中で控えているセスに視線を向けて。
「セス、これからは――あんなにも菓子を用意しないように」
「は、申し訳ございません……殿下」
今日あった「やりすぎなこと」に関して、注意を言った。
(はじめは……あんなにたくさんのケーキを持って来たセスに、ケーキを持ち帰らせようと思っていたけれど……)
まさかセスが、あんなにも持ってくるとは思わなかったため。
お母様を困らせてはいけないと――そう思ったのだが。
「……お母様は、本当に……優しい」
どう見ても食べきれない量に、ネガティブな感情ではなく……他の方法を考えてくれた。
その時のお母様の笑顔を思い出すと――。
(胸の中がぽかぽかする……)
ここ一か月ほど、お母様と会わずに……秘密裏なことをしていたせいで。
こうした穏やかな時間があることを、お母様のおかげであらためて実感した気がした。
(もうけして……あんなことはしない)
思い出すのは――苦しくて辛かったのが和らいだ……そののちに見た両親の顔。
僕が目を覚ましたことで、自分のこと以上に喜んでくれたお母様の顔と……。
(予想外だったのは……父上が――)
どこか安心した顔で――いつも無表情で変わらない顔が緩んでいたように……見えたこと。
「グルル……?」
「ああ、撫でるのを止めていたね……よしよし」
「ゴロゴロ……」
父上の顔を思い出していれば――思わず、妖精を撫でる手を止めてしまっていた。
それほどに――。
思い出すと未だに……自分の幻覚だったのでは――そう思うほどに、衝撃が強い。
「父上……お、おとう、さま……」
お母様からは、父上が自分のことを大切に想っているから――どんな呼び方でも大丈夫だと聞いた。
だから思わず、言ってみたものの――。
「慣れない……な」
どこか距離を作ってしまう今の関係よりは――きっと気兼ねなく話し合える関係の方がいいのだろうが。
自分と父上が果たして……くだけて会話ができるようになるのか、全く分からない。
お母様に背中を押されたものの――いざ、となると緊張してしまう気持ちが生まれている中。
――カコンッ。
「……セス」
「バルコニーのほうで、物が置かれたようです――おそらくこれは……」
音が鳴ったのは、部屋のバルコニー部分から。
僕の部屋までは、地上から縄を使ったとしても届かない距離にある。
生身の人間では到底たどり着けない。
そうなると妖精の力を使用して、そんな芸当を起こしているのだが。
(父上からは、護衛騎士を僕の部屋の前に配備してくれた……だからわざわざ、バルコニーに物音を立てて関心を向けさせるはずがない)
それにお母様も――今日会ったばかりで、そんな不思議な行動は起こさないはずで。
そうなると自然と浮かぶのは……。
「おばあ様から、何か来たようだね」
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