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113/151

113.呼び方



ノエルの反応に、私は慌ててしまう。

聞いてしまった後だが、「やっぱりなし」と言ってもいいだろうか――いや、まだ聞いたばかりだから、すぐにそうして言い募るのもよくないし……。


ノエルに負担をかけさせたくはないがために、あわあわと焦り考えを巡らせていれば。


「……なんです」

「え……?」


どこか――もじもじと答えたノエルの言葉が上手く聞き取れなくて、私は聞き返す。


するとノエルは、決意した様子で口を開いて。


「ち、父上が……おばあ様のことを……母上、と呼んでいるのを聞いて……」

「……う、うん」

「カッコいい呼び方をしたら、その……大人っぽくて……その……父上に認められるかな……って」

「……!」

「それで言うようになったんですが……でもその、本当は……お父様って言う機会を逃してしまって……」


話すうちに顔を真っ赤にしたノエルは、言い切るように再び口を開いて。


「今更、お父様って……呼べなくなってしまったんです……っ!」


ノエルの言葉を聞いた瞬間、私は心臓をギュッと握りしめられたかのような――大きな感情に襲われる。だって……ノエルは、背伸びをしてジェイドのことを「父上」と今まで呼んでいたわけで……。


(け、健気すぎる……っ! というか、可愛いがすぎるわ……っ! 尊くて胸が痛い……っ!)


私の胸の中では、感情が大嵐状態に。

しかし全表情筋を動員して、けしてだらしない顔を見せまいと――いたって普通の……ノエルの言葉を神妙に受け止める表情に努めた。


「お、お母様……?」


私が無言で、自分の感情と戦っていれば。

何も話さない私に、心配そうにノエルが話しかけてくる。


ノエルに声をかけられて、ハッとした私は。


「ジェイドのことをそう呼ぶのに……理由があったのね……!」

「は、はい……! 僕個人の……情けない理由なんですが……」

「そんなことないわ……! かわい……」

「かわい……?」

「いえ! 大人として認められたいゆえに、なんて立派な理由よ!」

「立派な……」

「ええ、だから――卑下することはないわ。それに……」


ノエルが……ジェイドを「父上」と呼ぶ理由が判明したのと同時に。


私はノエルに呼び方を強制するつもりはなくて……むしろ。


「ノエルの呼びやすいように、ジェイドのことを呼んでいいと……私は思うわ」

「呼びやすいように……?」

「ええ、きっとジェイドは今まで通りでも……他の呼び方でも。きっとノエルのことを大切な息子として見てくれるはずだわ」


ノエルにそう言葉を紡ぐ、私の頭の中には――ノエルが倒れた日の時に見たジェイドの姿を思い出す。


普段、家族に関しては距離を取っている様子だった彼が……自ら今後は改善したいと――反省を口にしていた。そんなジェイドの姿を見て、それと――これまでの彼の振る舞いを見て。


(ジェイドは家族に対して……想いが変わっているはずだから。それに……)


だいぶ前からも――ノエルの剣の鍛錬をじっと見つめていたりもしたのだ。


彼自身、愛情表現を今までできていなかっただけで……分かりにくいながらも、関心や想いは態度にあったように思う。


そんなジェイドの想いを信じているからこそ――私は、ノエルに安心させるように「どんな呼び方でも問題ない」と話した。すると、ノエルはおずおずと口を開いて。


「そう、でしょうか……?」

「ええ。心配しなくても大丈夫だわ」

「お母様が……そう言ってくださるのなら……」


ノエルは、私をじっと見つめてから。


「信じます……!」


キリッとした表情で、ノエルはそう言った。

そんなノエルの表情を見た私は、再び――あまりの可愛らしさに胸がぎゅっと締め付けられていた。


「……うっ」

「お母様……!?」

「ふふ、何も問題はないわ……ノエル……」

「えっ、ほ、本当ですか……?」


本日二回目の巨大感情に、思わず表情筋の動員が追い付かず……一瞬変な顔を、ノエルにさらしてしまい――心配されてしまった。


すぐに「大丈夫だ」とノエルに、説明していれば。


――コンコンコン。


「大変お待たせいたしました……! セスでございます」


扉越しにセスの声が聞こえてきた。




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