102.安心して
「お前もそう思うだろう? レイヴン」
「えっ! あ……」
ジェイドがノエルに言葉をかけたのち。
レイヴンに話をまわした――突然、話を振られたこともあり……レイヴンは少しビックリした様子を見せてから、すぐに落ち着きを取り戻して。
「そうよ、ノエル。アタシも……陛下も――それに王妃様も、あなたが元気になってくれることが一番なのよ」
「レイヴン様……」
レイヴンは優しく――そう言葉を紡いだ。
彼から言葉を貰ったノエルは、どこかホッとした様子を見せながらも。
自身の手を、再び目元に持っていこうとしていたので。
私はすかさず……持ち上げられていた彼の手をぎゅっと握って、制止した。
「ノエル……目をそんなにこすったら、傷がついてしまうわ」
「お母様……」
ノエルの瞳からは、眠ってしまっては失礼に当たるかも……という不安が滲んでいて。
「あなたのお父様も、閣下も……ノエルのことを深く思っているわ」
「そ、そうですが……」
「何かまだ――不安なことがあるの……?」
私が安心させるように、そう言葉をかければ。
ノエルは、目をうつらうつらと眠そうにしながらも。
私の方をじっと見て。
「父上と……レイヴン様からのお言葉は、本当に嬉しく……感謝でいっぱいなんです」
「うん……」
どうにか言葉を紡ぐノエルに、私は頷いて返事をする。
するとノエルは続けて。
「お母様が……」
「私が……?」
「お母様が、僕のことを……嫌ってしまわないか……それが怖いんです……っ」
ノエルは、こみあげてきた気持ちを――吐露するように、そう言葉にした。
その気持ちを聞いた私は、ノエルから目が離せなくなる。
(出会った時も……私に嫌われたくない気持ちを伝えてくれたけれど……)
その時は――「ノエルのことを嫌わない」というのを返事として、彼に伝えた気がする。
けれど今もなお……こうしてノエルの口からこの言葉が出るということは……。
(ずっと……不安に思っていたのね)
言葉ではノエルの気持ちを安心させるように――それを一番に言葉にしていたが。
きっとそれでも埋まらない……今まであった寂しさが、彼をここまで不安にさせているのかもしれない。
(そうよね。私がこの世界に来る前は……ずっと親子らしいことなんて皆無だったもの。その時の記憶の方が長かったのだし……)
ここまでノエルが不安に思ってしまうのも――仕方がないことだと感じた。
だから……すぐに、その不安すべてを取り除くこと不可能かもしれないが。
(今は、ゆっくり身体をやすめてほしい。それと……ノエルが少しでも安心できるように……)
上体を少し起こして、座るノエルの側へ――私は近寄り。
身体をノエルの方に傾けながら、ノエルの髪を優しく撫でた。
「ノエル……私はあなたのことが大好きよ」
「おかあ……さま……」
「それにとっても……愛しているわ」
私がそう伝えると――目を何度も瞬きしながら、ノエルはこちらをじっと見つめていた。
ただ眠くて、目が乾燥しているのか……先ほどよりも目をとろんとさせている。
「もし不安なら、ノエルが目を覚ました時に――あなたのことが大好きな……私の気持ちを伝えるわ」
「! ほ、本当に……?」
ノエルが親からの気持ちに対して不安を持ってしまうのなら。
何度でも、ノエルのことを大切に想う――気持ちをノエルに伝えたい……と思ったのだ。
(一度きりでは、きっと過去の記憶が不安をつくってしまうのだから……そのたびに、思い出を増やすように――ノエルに気持ちを伝えよう)
あらためて自分の気持ちを確認した私は――ノエルにゆっくりと語り掛けた。
「ええ、絶対……ノエルの側で伝えるから……だから、今はゆっくり寝ましょう?」
私はそう話しながら、ノエルが寝やすいように――背中にたくさん敷かれた枕を取り除き、寝やすいように姿勢をサポートする。
すると枕に頭を沈めたノエルは、段々と眠気に耐えられなくなってきたのか。
目を半開きにしながら。
「……うん。起きたら、お母様に……また……会いたい」
「私もよ、ノエル」
「ふふ……嬉しい、なぁ……」
「おやすみ……ゆっくり寝てね」
「う、ん……おや……すみ」
そう返事をしたノエルは、「すぅ……」と穏やかな寝息を立てて目を閉じていた。
その様子を見て、ホッとしたのと同時に。
ノエルを起こさないように、再び屈んでいた姿勢を直してから。
背後にいる――ジェイドとレイヴンへ向き直り。
「ノエルを起こしたくはないから……出ましょうか?」
そう小声で、私は二人に言葉を紡ぐのであった。
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