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100.発光



(ライオンの身体に触れることはできたけれど……ここからいったいどうすればいいのかしら……)


レイヴンから言われたのは、黒いものを手で取り除くように……とのことだったが。


(この毛に……ホコリが付いているわけでも……)


もしホコリのようなゴミだったら、手でつまんで払うことはできるのだが――。毛にしみついたインクのような状態のため……つまんでどうにかすることはできない。


だから、ひとまずはライオンの毛並みを優しく梳いて――落ち着かせよう……としていれば。


「あら……?」


梳いていたライオンの黒い毛並みが、最初よりも色が薄くなっているように思った。


しかも薄くなったからといって、白髪になるのではなく――オレンジ色の明るい色がちらりと覗いていて。


「もしかして、黒いのがとれて……?」


そう私が口にした瞬間。

私が手で触れていたライオンの毛が、発光し始める。


「え……?」

「ひ、光ってるわ……!?」


私が驚きの声を出したのと同時に、レイヴンもまた驚きの声を上げていた。


その光は最初、ライオンの毛に触れている私の手の周りから光りだし――。


気づけばあっという間に、ライオンの身体を光が包み込む。


「あなた、大丈夫……?」

「……グルル」


突然の光で、何か痛みはないかと――ライオンにそう問いかければ。


ライオンは何も問題ないとでも言うように、先ほど同じく穏やかな鳴き声で返事をした。


しかし初めて見る光景に、私はライオンから目が離せなくなった。


そして数分ののち――光が収まると。


「い、色が……変わったわね」


はじめは黒色のライオンだった妖精が――オレンジ色のライオンに様変わりしていたのだ。


私はしげしげと目の前のライオンを見つめながら、そっと手を放した。


するとライオンは、自分でも毛並みを整えたくなったのか……ぺろぺろと、身体を舐めて――毛づくろいをしている様子だった。


そしてすぐに、ライオンは耳をピクッと動かしたかと思うと。


「おか……あ、さま……?」


ライオンの耳の動きと同時に、ノエルの声が聞こえてきた。


すぐに私は声の方へ顔を向けて。


「! ノエル……!」


そう呼びかけて、ノエルの方を見れば。

ノエルはまだ目を覚ましたばかりなためか、ボーッとしている様子だった。


「あれ……どうして……おかあさまが、ここに……」

「良かった……良かったわ……っ。どこか痛いところはない?」

「は、はい……どこも痛くないです」


一番に心配していたノエルの体調不良が、収まっている様子にホッとする。


そして、ノエルの片手をぎゅっと握りしめて――「良かった」と安心の声がまた出ていた。


「グル……グルル……」

「あ……れ? お前、いつの間に外に出て……」

「グルルル……」

「ずっと会えないから、どこに行ってたのかと……わっ」


ノエルがライオンにそう言葉をかけた時――ライオンは、ノエルが目を覚ましたことに嬉しくなったのか。顔を思いっきり、ノエルに近づけて。


――ぺろぺろ。


「わっ、ふふ。くすぐったいよ」


しきりに無事を喜ぶように、ライオンはノエルの顔を舐めていた。


そんな中、私の背後からは――。


「……意識が戻ったか」

「ヴッ……ノエル~~~~心配したんだからっ!」

「! 父上……! それに、レイヴン様もいたのですね……!」

「も、もう~~~~! 心配かけすぎよ~~~~!」


ジェイドが安堵したように、ノエルに声をかけ――そのジェイドの声よりも大きく、レイヴンが感極まった声をあげていた。


まさかジェイドがここにいるとは思っていなかったノエルは、驚くのと同時に……レイヴンの様子に眉が八の字の状態になって、少し困惑しているようだった。


(でも、本当に、本当に良かったわ……)


ノエルが、こうして意識を取り戻して――話してくれていること。


何気ないそんなノエルの行いが尊くて、自然と涙が目尻に溜まってしまっていた。


「お、お母様……? ごめんなさい……僕のせいで迷惑を……っ」

「いいえ、ノエルは何も悪くないの……! 本当にただ……嬉しくて」

「……?」


ノエルを心配させて、心労をかけさせたくはないものの。


本当に嬉しいと――無意識のうちに涙が出てしまうようだ。


そんな私を見たノエルがオロオロと、今の状況を理解しようとしている様子になった頃。


――コンコンコン。


「セスです。先ほど、お医者様をお見送りしまして……皆様のために軽食をご準備いたしました」


扉の外からは、セスの声が聞こえて来た。

セスは医師の見送りののち――今の部屋の状況を知らなくて。


こうして気遣って、長時間ノエルを見守っている私たちに食事や飲み物を準備してくれていたようだ。


そんなセスの声に、いち早く反応したのはノエルで。


「セス? どうしたんだ、軽食って……」


ノエルがそう返事をした瞬間。


――ガチャッ!


「で、でで、殿下っ!」


すぐさま声に反応して、セスが部屋の中に入って来た。


そしてベッドで、少し上体を起こして――セスを見るノエルを確認して。


セスは目を大きく見開いていた。


「ああ、僕だけど……」

「目を……目を覚まされたのですね……っ! お、お、お医者様を……っ! お医者様を呼んで、お身体のご無事を見ていただかなければ……っ!」


――バタンッ!


セスはそう言葉を紡ぎ、無我夢中で部屋から駆け出して――出て行った。


「僕……まだ……何も言ってないんだけどな……」


ノエルがセスの行動に、ポカンと驚いている中。


カーテンから漏れる朝日が――キラッと部屋の中に差し込んでくるのであった。




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