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第009話

 入園式の前からちょっとしたトラブルがあったが、ユーリは気を取り直して体育館へと向う。体育館の入口には既にクラス割のようなものが張り出されており、ほとんどの生徒はその張り紙に従って整列しているようだ。

 魔法学園のクラスは一クラス40人の5クラス。

 成績の良い順に金、銀、銅、鉄、鉛クラス。分かりやすい分け方である。

 さらにその中でも成績順に並ぶらしく、ユーリは一番左の一番うしろであった。

 ちなみに学年が上がるごとにクラス替えがあり、当然その際にも成績順でクラス決まる。

 ユーリが左の列の一番うしろに並ぶと、周りからジロジロと視線を向けられた。

 『こいつが最下位のやつか』といったところであろう。

 ユーリは気にしない。成績が最下位であることなど、2年前から分かっていたことだ。それよりもこの場に立てたことが嬉しくてたまらなかった。


「随分嬉しそうなのね。最下位だと言うのに」


 ツンとした声。話しかけてきたのはユーリの一つ前に並んでいる少女である。

 身長はユーリと同じか、ユーリより少し高いくらいか。

 細く輝く金の髪は癖っ毛なのか、肩口までくねくねと伸びている。病的なまでに真っ白な肌に大きな翠と紫のオッドアイ。健康的であればさぞかし可愛かろうに、頬はこけ隈は濃く染み付いている。

 エレノアの不摂生な不健康さとは異なり、病弱であることが見て取れる肉のない身体。コホコホと空咳をする彼女は、ナターシャ・ベルベット。紛れもなくベルベット辺境伯の娘である。


「ギリギリ滑り込んだ程度で満足してるなんて、向上心が無いのね。高々三百点しか取れなかったことをもっと後悔するべきよ」


「三百点でも合格は合格だよ。僕は嬉しいな」


 言った後にユーリはハタと気がつく。掲示板に張り出された合格者の一覧、その右下を。

 最後にあった点数は、300点。ユーリと同じである。


「君も三百点なんだよね? 後悔してるの?」


「ふん、後悔なんてしてないわ。私はね、殆ど運動が出来ないのよ。病弱なこの体のせいで……」


 ナターシャは自信の腕をキツく抱く。まるで壊そうとしているかのように、強く、強く。


「私は必死に頑張ったわ。戦闘技術点が絶望的なのは分かっていたから。だからそれを補えるように必死に頑張った。その結果が三百点。この三百点は値千金なの。あなたなんかの三百点と一緒にしないで」


 ユーリは首をひねる。

 自分の三百点とナターシャの三百点の違いが分からないのだ。

 そんなユーリの様子に、ナターシャはカチンと来たように、血の気のない顔を少しだけ上気させていう。


「分からないの? 私は戦闘技術点がほとんど貰えないの。今回の試験だって、たったの12点だった……でもそんなのわかってたから、他の科目で点数が取れるように必死に頑張って勉強したの。あなたに分かる? 数問間違えただけで不合格になる恐怖が……」


 ユーリは考える。確かにそんな恐怖は分からない。何故ならユーリはたった一問の間違いで不合格だったのだ。

 だから、むしろ自分のほうが気が楽だったのか、なんて考える。


「うーん、確かに分からないかも」


「でしょう?」


「でも、僕も同じ三百点だった。だから合格できた。せっかく同じ境遇なんだから、仲良くしようよ」


「あなたね……っ!」


 ナターシャがさらに言い返そうとしたところで、壇上から声が響いた。


「あー、コホンコホン。新入生の諸君、ちぃーっとばかし静かにしてもらってもよいじゃろかのぅ」


 昨日も聞いた声、学長ヨーゼフである。ザワザワと騒がしかった新入生たちが水を打ったように静かになる。


「まずは入学おめでとうと言っておくかの。このベルベット魔法学園はベルベット領でも屈指の魔法学園じゃ。魔法のレベルも、それ以外のレベルもの。まだ右も左も分からず何からやっていいかと迷うこもとたくさんあると思うが、まずは一つ、先生たちの指導に素直に従って勉学に励むこと、とりあえずそれを頑張ると良い」


 ヨーゼフは一息ついて、新入生を眺める。

 一番の優秀者から、最下位のユーリまで。


「評価というものは無慈悲で冷酷じゃ。どんなに怠惰なものであろうと点数を取れば評価はあがり、どんなに努力しても点数が低ければ評価は下がる。そこには過程も家柄も容姿も関係ない。ただの数字で決まる。諸君らの中にもおるじゃろう、『がんばって偉いね』と褒められて育てられたものがの。しかし、ここではそんなものは関係ない、頑張っても評価が低ければ意味はない。それを念頭に置いておくことじゃ」


 ナターシャが居心地悪げに身じろぎをする。まさに先ほどユーリに言った言葉は、『私の方が頑張ったんだから私の方が偉い』というようなものだったからだ。


「とまぁ、ちっとばかし脅してみたがの、まぁ諸君らはまだ小さな子供じゃ。たくさんのことに興味をもって、色々と試してみるのがよい。再度にはなるが、入学おめでとう。儂からは以上じゃ」


『頑張ること自体に価値はない』


 ユーリは心にそのことを刻んだ。


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