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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第二章、魔法への第一歩~ナイアードの髪と魔力の波長~
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第074話

 4月1日。新学期。多くの生徒たちにとって緊張の日である。

 昨年の一年間の頑張りで、自分はどの程度実力を伸ばしたのか。はたまた他の生徒に抜かれてしまったのか。緊張のクラス発表が始まる。

 が、一人の生徒。ユーリにとってはどうでもいいことである。何故ならどうせ成績が良くないことが確定しているからだ。どう頑張っても魔法技術は0点。そして入試の時と異なりあまり試験に身を入れていなかった。当然順位は最下位である。

 掲示板に張り出されたクラス表と順位表。鉛クラスの最後尾に自分の名前を確認したユーリは鉛クラスの教室へと向かう。

 2年鉛クラスの窓側最後尾。そこがユーリの席である。去年よりも高くなった景色を少しの間眺める。


「っと、そんなことより整理しないと」


 ガサッとカバンから取り出したのは魔力用紙の束。

 昨日はあまりの忙しさで帰ってすぐ寝てしまったので何も整理ができていない。まずは魔法属性毎に仕分けるところからスタートだ。

 火、水、風、土、木。そして稀に光や闇。

 今年の受験生にダブルはいたが、トリプル以上はいないようだ。

 仕分けを初めて数十分。早くも属性毎の特性が見えてきた。

 魔力の波長は、木属性は上、火属性は右上、土属性は右下、風属性は左下、水属性は左上に、大きくキザギザが飛び出しているようだ。

 闇と光属性についてはサンプルが少なく目立っだ特徴が無いため今回の資料だけでは判別が難しい。それでも5つの属性で波長に特徴があることがわかったのだ。一歩前進である。


「新学期初日の朝からそんなに紙を広げて何をしてるの?」


 夢中で仕分けをしていると、ユーリの前の席に来たナターシャが呆れたように話しかけてきた。ナターシャもユーリと同じように戦闘技術試験の点数が壊滅的に低いため今年もブービー賞だ。


「おはようナターシャ。この前作ってくれた魔力用紙にね、受験生の魔力の波長を記録させてもらったから、整理してるの」


「ふーん。何か分かった?」


「うん! 実はね!」


 ユーリは魔力の波長について分ったことを興奮気味にナターシャに話す。しかしナターシャは興味なさげである。気怠げにユーリに目を向けて言う。


「それで、波長と魔力適性の関係が分かったところでどうなるの?」


「へ?」


「まぁ、今まで鑑定水晶でしか判別できなかったのだから、それが出来るだけでも凄いんでしょうけれど」


「……」


 ナターシャの言葉にユーリが固まる。

 魔力適性と波長に関係があった。だからどうだというのか。確かにナターシャの言う通り、だからどうしたというのか。


「ちょっと、ユーリ?」


「うーん……」


「聞いてないわね」


 ユーリは一人、思考の海に潜る。

 昨年に引き続きノエルがクラス担当教官らしく、去年と同じように淡白な説明をしたあとにプリントを配る。二学期初日のホームルームはそれだけである。

 今年から鉛クラスに落ちた生徒たちはあまりに放任なノエルに戸惑っていたが、他の生徒たちがさっさと教室を出ていくのに合わせて帰っていった。

 気がつけば教室にはノエルとユーリ、そしてナターシャの三人だけだ。


「ユーリ。ホームルーム終わったわよ」


「んー……」


 ユーリは考える。魔力の波長と属性について。

 今回、沢山の受験者に波長を記録させてもらって、魔力適性と波長の関係性はある程度把握できた。

 例えば、火の魔法適性を持つ人であれば右上に大きく飛び出す波長を刻む。

 水の魔法適性があれば左上に。そしてその両方の適性を持つフィオレのようなダブルであれば右上と左上の両方に飛び出す波長となる。

 魔力属性によって大体の波長が決まるのだ。

 そこまでは解析できたが、それではナターシャの言う通り鑑定水晶の下位互換になっただけである。


「ユーリ君、ナターシャ君、何か質問かな?」


「いえ、ユーリが考え込んでるだけです」


「ふむ……この紙の束は?」


「えっと……」


 ナターシャは話してしまっていいものかとユーリを見るが、ユーリは思考の海から浮かび上がってくる様子はない。どんどん深く潜っている。ノエルは数枚の魔力用紙を手に取り眺める。そこには属性と何やらギザギザの線で描かれた円のような物が。

 四枚、五枚とめくっていき、そこからは夢中で確認し始める。


「な……こ、この紙は一体……。人間の魔力を可視化したものだと!? これは、すごい……」


「ノエル教官。これのどこがすごいのですか? この波長と属性の関係がわかったところで意味はないと思うのですが」


「あ、あぁ、すまない」


 ノエルは興奮している気持ちを抑えてナターシャに説明する。


「ナターシャ君の言う通り、確かにこれだけ分かったとしても意味はない。しかし、今まで魔力を測る概念は鑑定水晶による『色』と魔力測定器による『数値』の二通りだけだった。そこに『図』いや、『波』が加わったんだ。数百年間動かなかった魔法の基礎研究が動き出すかも知れない」


 ノエルは興奮気味に説明するが、ナターシャはいまいちピンとこない様子だ。そんなナターシャにわかりやすようにノエルが補足する。


「学会で発表出来るレベルの発見だよ、これは。いや、しかし、教会に目をつけられる可能性もあるか……。属性毎に波長が決っているなんてことは、魔法を宗教化している教会にとっては不都合かも知れない」


「属性毎に波長が決まる……?」


 ノエルの言葉を聞いてユーリが思考の海から浮上してくる。


「違う。反対だ。波長によって属性が決まるんだ。魔力には向き不向きがある。火属性向きの波長、風属性向きの波長と言ったように。鑑定水晶はその波長を色に変えてるんだ。ナイアードの髪に僕の魔力を通しても鑑定水晶は反応しなかった。あたりまえだ、波長が変わったわけじゃないから。なら、波長を変えてしまえば良い……?  そっか!! 波長をその属性に合わせればいいんだ!!」


 ガタン!

 ユーリは勢いよく立ち上がる。ナターシャの肩が驚いて跳ねた。


「ナターシャ! ノエル! ありがと! 研究が進みそう!」


 ユーリは魔力用紙の束を雑にカバンに突っ込むと、そのまま走りだす。


「ノエル! 波長のこと知りたかったらエレノアの研究室に来てねー!」


 呆気にとられる二人をよそに、ユーリは飛び出して行った。



「……というわけ! やっぱり魔力適性と波長は関係してるみたいだった!」


「すごいです! これで一歩前進ですね!」


 ユーリが発見したことをエレノアに伝えると、エレノアは大いに喜んだ。


「ということは、魔法素材にも波長があるんでしょうか?」


「多分そうなんだと思う。ねえエレノア、魔法素材を通して魔法用紙に波長を描いて見て」


「はい。やってみますね」


 エレノアはナイアードと触媒を使用して魔力用紙に魔力を通す。

 波長は刻まれた、しかし……


「うーん、何か、特徴がないですね」


「ホントだ」


 元々のエレノアの波長は上に大きく飛び出る形だが、ナイアードの紙を通して描かれた波長は上に少し膨らんではいるが全体的に凹凸が小さくなっている。


「もともとのエレノアの波長とナイアードの髪の波長が混ざって変になってるのかな?」


「そうかも知れませんね」


「うーん。ここからどうしよう」


 一歩前進して立ち止まる。一足飛びに事は進まない様だ。


「とりあえず色々な素材で試してみますか?」


「うん、やってみよう!」


「……そういえば、ユーリ君の魔力の波長ってまだ見てなかったですよね?」


「あ、そういえば。魔力適性ないからやろうとも思わなかった」


「一応見てみませんか?」


 言いながら魔力用紙を取り出すエレノア。

 ユーリは魔力用紙の真ん中に指を置いて魔力を流す。すると……


「うーん、ギザギザはしてますね。ただ特徴がありませんね」


 受験生はそのすべてにおいて、少なくとも一か所はギザギザが飛び出しているところがあった。しかしユーリにはそれが無いのだ。


「ちゃんと波長はあるんだ。だけどやっぱりどの属性とも違うね」


「そうですね。やはり凹凸が大きく飛び出しているところがその人の魔法適性になるみたいですね」


「まぁ、わかってたことだけど! さ、いろいろためしてみよ〜」


 改めてユーリが適性無しであるということが分かったが、特に気にした様子はない。そんなことよりも、今は波長の研究である。

 新たな取っ掛かりを探すために、ユーリとエレノアは試行錯誤を続けるのであった。


魔法への第一歩~ナイアードの髪と魔力の波長~ 完

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