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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第二章、魔法への第一歩~ナイアードの髪と魔力の波長~
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第069話

 順調に勝ち進むナターシャと別れ、ユーリはまたふらふらと歩く。次の目的は姉フィオレである。いくつもの試合会場があるが、目的の場所はすぐに見つかった。会場に大きな火球が出現したのである。どよめく周囲の観客達。


「おい、あれみろよ!」


「初等部の子供が使う魔法じゃねぇだろ……」


「今年も優勝はフィオレかなー。2連覇とかいつ以来だ?」


 どうやらあのドでかい火球の下にフィオレがいるようだ。群がる観客達を掻き分け掻き分けユーリは進む。

 小柄な身長を生かし、最前列の生徒の懐に潜り込むようにして入り込む。


「勝者、フィオレ!」


 案の定、そこには姉の姿があった。ふぅと一息つき、フィオレは額に浮かぶ汗を拭う。


「お姉ちゃん!」


 ユーリが声をかけるとフィオレは勢いよくこちらを向き、ユーリを見つけると花が咲いたような笑顔になった。


「ユーリ!」


 フィオレが駆け寄ってきてユーリを抱きしめる。


「うれしい! 見に来てくれたのね!」


「うん。だけど来たときにはもう終わっちゃってたー」


「そっかそっか。時間ある? このあとすぐ試合なんだ」


「ほんとに!? じゃあここで見とく!」


「ユーリが見てるなら、お姉ちゃん張り切っちゃお!」


 フンス、と気合を入れるフィオレ。それを見ていた次の対戦相手は顔を引きつらせていた。

 一試合間に挟んだのちに、フィオレの試合がやってくる。

 相手は初等部二年の女子生徒である。始まる前から腰が引けている。総当たり戦で昨年の優勝者フィオレに当たるとは運がない。


「試合開始!」


 審査員の掛け声で詠唱を始める二人。


「つ、土の精霊! 壁になって私を守って!」


 女子生徒は慌てた様子で詠唱する。少女の周りの土の精霊が盛り上がり、簡易な盾をつくる。


「火の精霊よ、大きな大きな火球となぁれ。もっともーっと大きくなぁれ」


 フィオレは両腕を上げ、火球を作り出す。

 最初は小さかったそれに魔力を注ぎ込み、より大きくより熱くしているのだろう。大きさは直径5メートルほど。

 髪が焼けそうなほどの熱が周りの生徒にも伝わる。


「そしてあの子を焼き付く……」


「はわわわわわ! 降参! 降参です! やめてください! たすけて! 殺さないでー!」


 半べそをかきながら女子生徒は審査員の方へとかけていった。相手の降参によりフィオレの勝利である。


「お姉ちゃんおめでとう!!」


「ありがとうユーリ!」


 駆け寄ってきたユーリをまたもきつく抱擁するフィオレ。


「お姉ちゃんすごかった! あんなに大きな魔法使えるなんて、お姉ちゃんすごい!」


「お姉ちゃんも糞エロジジ……師匠に教えてもらってるからね。ユーリが冒険者の仕事をするときは、お姉ちゃんもお手伝いするね」


「うん、ありがとう!」


 フィオレはこれで総当たり戦3勝目。当然ながら決勝トーナメントへと駒を進めた。



 四日後。決勝トーナメント最終日。決勝戦の行われる日である。天気は晴れ。乾いた寒い空気が吹く。

 しかし、特設会場は熱気に包まれていた。


「それでは、初等部魔法実技大会の決勝戦を行います!」


 風魔法により拡散された実況者の声が響き渡る。


「一人目はお馴染み去年の優勝者、三年金クラス、フィオレ!」


 紫色の髪を揺らし、手を振りながらフィオレが登場する。ドッと会場が湧いた。


「昨年は二学年ながらも、三年の先輩方をコテンパンに倒し見事優勝を掴み取りました! その実力はお墨付き! 一部の生徒からは、初等部ではなく中・高等部の大会に出るべきではないかという声も上がるほど! それほどの実力者です! 二年連続の優勝となるか、見どころです!」


 実況者の声に、観客の激励の声が交じる。


「さて、対する挑戦者は……なんと、一年鉛クラス、ナターシャ・ベルベット!」


 ナターシャがどこか不機嫌そうに登場すると、会場はどよめいた。


「ななななんと、紛れもなくベルベット家のご令嬢です! 先輩達を押しのけて、なんと一年、しかも鉛クラスからの決勝進出です! 過去に一年鉛クラスからの決勝進出者はおりません! もしかするともしかするのか!? 伝説が生まれようとしているのかー!?」


 実況者が煽りに煽り、会場は大盛りあがりである。ナターシャは至極迷惑そうな顔をしているが。

 フィオレとナターシャが歩み寄り握手をしようとしたとき……


「お姉ちゃーん! ナターシャー! どっちもがんばれー!!」


 二人にユーリの声援が届いた。あどけない声援にフィオレの頬が緩み、ナターシャは苦笑いする。

 少しして、二人は自分だけではなく相手も応援されていることに気がつく。

 ガシッとナターシャの手を握り、フィオレは満面の笑みで問うた。


「はじめましてナターシャさん。さっそく聞きたいのだけれど、貴女はユーリとどういう関係なのかな?」


 何処かすごみのあるフィオレの笑顔に、ナターシャの顔が引きる。


「た、ただのクラスメイトよ」


「そ。ユーリと仲がいいのね」


「……別に、知り合いってだけよ。特に仲が良いわけではないわ」


「ふーん」


 フィオレの目線がナターシャの髪の毛……もとい、髪飾りに向く。

 小さな白い花飾りの付いた髪飾り。

 自分の髪に付けているものと同じ髪飾り。

 ユーリが大切な人に渡すと言っていた、異国の髪飾り。

 フィオレの笑みが深まった。


「とっても素敵な髪飾りね。どこで買ったの?」


「こ、これは……」


 ナターシャの顔が更に引き攣った。

 思わず手を引こうとするも、フィオレががっちりと掴んで離さない。


「良い試合にしましょう。手加減は……しなくていいよね」


「……もちろん」


 フィオレは最後に強く強くナターシャの手を握ってから離す。要らぬところでフィオレに火をつけてしまったナターシャであった。


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