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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第二章、魔法への第一歩~ナイアードの髪と魔力の波長~
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第068話

「あー、コホン。今年もこの季節がやってきたのぅ。みなこの一年間、勉学に訓練に力を入れてきたことじゃろう。その成果を発揮する場が来たわけじゃ。まぁ、なんじゃ、長々と話をしても仕方なかろう。何と言っても主役は君たちじゃからのぅ。儂からは一言だけ。みな、存分に力を発揮するのだぞ! 学年末特別試験、開幕じゃ!」


 ドン、ドドン、ドン!


 学園長の短くも力強い開会の挨拶に合わせて、火属性の教官、院生の号砲段雷ごうほうだんらいが響き渡る。2月。学年末特別試験の開幕である。

 最初の一週間は初等部の戦闘技術大会と魔法技術大会が並行して行われる。なお、初等部では総合技術大会は執り行われない。

 人数にもよるが、四人の総当たり戦が行われ、一位の生徒だけが決勝トーナメントへと進むことができる。今年は初等部600名のうち、戦闘技術大会に412名、魔法実技大会に187名がエントリーした。

 ちなみにどちらにも参加してない異例の生徒が一人。もちろんユーリである。つい先程、錬金術品評会へポカポカ君スプーン完成版を提出し、早々に出番終了である。

 ポカポカ君スプーンの熱伝導問題だが、スプーンの真ん中に熱を光に変換する効果を付与することで、熱を光として発散することに成功した。

 飲み物をクルクルとかき混ぜると、飲み物があたたまると同時にスプーンが光るという面白魔導具となってしまったが、ユーリはとても満足していた。これでいつでも温かい飲み物が飲めるのだ。

 ちなみにこのスプーンだが、一点問題点がある。間違って口に入れてしまうと火傷してしまうのだ。

 温かい飲み物をすくい、フーフーと息を吹きかけて冷ましたつもりでも、息で液体が揺れてその力が熱に変換されるのだ。


 それはさておき、学年末特別試験である。生徒の数が多いため、予選の総当たり戦はグラウンドと室内訓練場を区切って一斉に行われる。

 決勝トーナメントは土属性の院生がグラウンドに特設会場を設けるため、多くの観客に見られながらの戦いとなる。

 初等部の戦闘技術大会は武器は禁止で、素手のみの戦いとなる。魔力による身体強化を覚えている生徒もほぼいないため、いわゆるキャットファイト状態だ。

 それでも何人か特出している生徒はいるが。

 魔法実技大会は直接攻撃が禁止されており、魔法を使用しての攻撃、防御のみが認められている。

 なお、走って避ける事は可能だ。


 ユーリはあちこちで行われている戦いを見て回りながら、ナターシャとフィオレの姿を探す。初等部に他に仲のいい人などいないので、見るべき人はその二人くらいなものだ。

 ふらふらと歩いて探していると、グラウンドの一角が非常に盛り上がっていることに気がついたので、そちらに足を伸ばす。


「そこまで! 勝者、ナターシャ!」


 どうやらナターシャは順調の様だ。


「ナターシャ! 勝ったの?」


 ユーリは駆け寄ってナターシャに話しかける。


「まぁ、余裕よ」


 余裕と言いながらも、ナターシャの息は荒い。


「大丈夫?」


「最近体調が良くなくて……魔法実技だけなら負けないのだけど、体力が持つかが心配ね」


 学年末特別試験は少ない日数で何回も戦う必要がある。そのため体力の少ないナターシャの様な生徒にはかなり不利である。


「そっか。無理しないでね」


「少しくらいは無理するわよ」


「次の試合見てもいい?」


「勝手にしなさい」


 三十分ほど経って、再びナターシャの出番となった。ナターシャと相手の生徒は二十メートルほど距離を取って向かい合う。相手は初等部三年の男子だ。


「それでは試合開始!」


 審査員の声とともに、両者詠唱を開始する。


「水の精霊、厚き壁となり私を守りなさい」


「風の精霊よ、不可視の刃となり敵を刻め!」


 開始と同時に、ナターシャは水の壁を作り、相手の生徒は攻撃の為に風の刃を飛ばす。風の刃は水の壁を貫通する力はないのか、ボシュボシュと水の壁にぶつかって霧散する。


「くそっ! 風の精霊よ!」


 他に打つ手は無いのか、さらに同じ魔法を詠唱する男子生徒。対してナターシャは


「火の精霊、火球となり降り注げ」


 相手に火球を落とす。詠唱は男子生徒の方が早かったが、魔法の発現はナターシャのほうが早い。


「クッ!」


 しばらくナターシャの火球を避けたり手で受けたりしていたが……


「そこまで! 勝者、ナターシャ!」


 男子生徒がこれ以上何もできないと判断し、審判が試合を止める。圧倒的な勝利である。


「ナターシャ! すごいすごい!」


 ユーリはナターシャに駆け寄ると、その手を取ってピョンピョンと跳ねて喜んだ。


「別にこのくらい普通よ」


「普通じゃないよ! 相手は年上だったのに! すごーい!」


 まるで自分のことのように大喜びするユーリに、ナターシャは頬が緩みそうになる。


「そ、そんなことより、あなたはどうなのよ。こんなところで呑気に観戦してていいの?」


「僕?」


「あなた、戦闘技術大会に出場しているんでしょ?」


「してないよ?」


「え?」


「してないよ?」


「……あなた、魔法が使えないのに魔法技術にエントリーしたの?」


「え? 僕は錬金術品評会に参加したよ?」


「え?」


 お互いに頭にはてなマークを浮かべながら会話をするナターシャとユーリ。


「錬金術品評会って、中等部からじゃないの?」


「錬金術を習うのは中等部からだけど、錬金術品評会に中等部以上しか参加できないっていう決まりは無いんだって」


「ほんと、めちゃくちゃねあなた……戦闘技術大会にでれば優勝も夢じゃないでしょうに」


「錬金術も楽しいよ?」


「楽しい楽しくないの話をしているのではなくて……」


「そうだ、便利な魔導具作ったからナターシャにもあげるよ!」


「全くあなたは……まぁ、期待しないで待ってるわ」


 そんなことを話している間に、ナターシャの総当たり戦、最後の戦いが来た。特に危なげなく、トーナメント出場を決めたナターシャであった。


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