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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第二章、魔法への第一歩~ナイアードの髪と魔力の波長~
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第051話

 ナイアードとは、綺麗な淡水に住むヒトガタの水妖である。魔物等級は銅級。

 見た目はほぼ人と同じであるが、肌の色が少しだけ青みがかかっている。人語を解し、また人間に友好的であるため、敵対的な行動をすることはほとんどない。しかし、泉や川を汚す者にはいっさいの容赦なく襲いかかってくる。

 ナイアードは水属性の魔法を使用し、それ以外の属性の使用例は発見されていない。また、ナイアードの髪は水の属性値が高い為、錬金術の素材として貴重である。

 一時期、高価なその髪をもとめナイアードの乱獲が発生したこともあるが、冒険者ギルドの粛清しゅくせいにより沈静化した。

 また、髪の他にもナイアードの住む泉の水は綺麗で治癒作用があることから需要が高い。

 ナイアードは種族特性として女性しか存在せず、女性器の作りは人間と同様であり、人間の男性との繁殖が可能。一種のサキュバス的側面もある。

 男性冒険者がナイアードに会いに行くということは、つまりはそういうことなのである。


「……」


 昼休み。

 ユーリは図書室から借りて読んでいた本をパタリと閉じた。

 男性冒険者がナイアードに会いに行くことは、つまりはそういうことなのである。

 セレスティアが勘違いしていたことも、つまりはそういうことなのである。


「僕のこと何歳だと思ってるのさっ!」


 そういえば、そもそもの事の発端も、ノーチラスとナイアードの蜜月であった。

 ある程度の年齢になるか、マセている子供であれば、ナイアードがそういう水妖であるということは知っている。


「何見てるのよ」


 前の席のナターシャが気だるそうにユーリに視線を向ける。


「ちょっとナイアードについて調べてたんだ」


 ユーリの言葉にナターシャは大きなため息をつき、侮蔑ぶべつの目を向けた。


「はぁ〜。あなた、本当に男なのね。まだ早いんじゃない? そういうの」


 どうやらナターシャはマセた子供の様だ。


「そういうのじゃない! 素材が欲しいの!」


「素材?」


「うん。属性値の高い特殊素材が欲しいの。できる限り新鮮なやつ」


「そういえばそんなこと言ってたわね。まぁ、変な気は起こさないようにしなさい」


「起こさないよ!」


 ナターシャはまたもダルそうにため息をついて、思い出したように言う。


「ナイアードの住む泉まで行くの?」


「うん、そのつもり」


「だったら……その……」


 ナターシャは何かを言いたそうに口ごもる。


「何?」


「えっと、頼み事、してもいいかしら?」


 ユーリは目を丸くする。ナターシャから頼み事されるとは思わなかったからだ。

 そして満面の笑みになる。


「僕に出来ることならなんでもやるよ!」


「なんでもってあなたねぇ……」


「なになに!? 何してほしいの!?」


 友達の役に立てることが嬉しくて前のめりに聞くユーリ。


「……ナイアードの住む泉の水、採ってきてくれないかしら」


「分かった! どのくらい必要なの?」


「たくさんあれば嬉しいけれど、持ってこれる範囲で構わないわ。無理はしなくていいから」


「分かった! 僕、頑張る!」


「だから、無理はしなくていいわ」


 何やら鼻息荒く意気込むユーリを見て、ナターシャは苦笑いするのだった。



「ユーリ君、何を作っているのですか?」


「水筒だよ」


「水筒、ですか」


 ユーリは今日もエレノアの研究室に居座り、錬金術を行っている。今作っているのは革製の水筒である。しかし、ただの水筒ではない。

 錬金術を使用し作成する『液体の長期保存が可能な水筒』である。と言っても、光属性の素材を使用し菌の繁殖を防ぐ効果を水筒の内側に付与しただけではあるが。

 素材はヒマワリ草。あまり種類の多くない光属性の素材の中では、比較的安易に入手できるものである。

 2リットル程入る物を十個。

 ナターシャは無理はしなくていいと言っていたため、このくらいで良いだろう。

 なお、ナターシャはポーション瓶一本(200ミリリットル程)程度を想像していたため、想像の百倍の量をユーリは持ち帰ろうとしていることになるのだが……


 また、ユーリが作っているのは水筒だけではない。水妖と言えども相手は女性。女性の髪をもらうのだ。手ぶらで行くのは忍びない。というわけでユーリは手土産を準備することにした。

 手土産は『蓄光石』である。原理は蓄熱石と同様で、日中光を当てておけば、夜間にほんのりと光を放つ石である。

 これも発明自体はされていたが、あまり普及はしていない。ランタンや蝋燭など、使いやすい光源が既にあるからだ。

 蓄光石の利点は燃えない事と、くり返し使えること。逆に言えばそれしか利点がない。

 反対に欠点は日中に光を当てる手間があることと、何よりもその値段である。

 錬金術によって作成されたものの値段は高い。発明の手間、作成の手間、触媒や素材の費用、錬金術師の人件費。一般人が蓄光石を手に入れようとすれば、そのお金でランタンと油がたくさん買えるのである。ならば蓄光石など買わない。あたりまえである。

 そんな訳で人気のない蓄光石だが、ナイアード相手ならば人気が出るのではないか、とユーリは考えていた。

 何せ相手は水妖である。水の中では蝋燭など使えるはずもない。ならば水中でも使用できる蓄光石は人気が出るのではないか。そう思ったのだ。

 こちらは5個程作成する。

 もっと作ってもいいのだが、ナイアードの髪を貰うことはこれから何回もあるだろう。なので小出し小出しにするつもりだ。

 中々に強かな考えである。


「よし、出来た!」


 ナイアードに貰った髪を入れる袋や、その他使えそうな魔導具をいくつか作成。

 準備は万端である。


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