第024話
「それでは早速試してみましょう」
「うん、反応する素材があるといいな」
湖の周りを散歩し、エレノアお手製の(本当はオリヴィアお手製の)お弁当を食べ、いくつかの魔法素材を入手して楽しげな雰囲気で研究室に戻ってきた二人。
「……おかえり」
そんな二人をジト目で出迎える人。オリヴィアである。
「オリヴィア! なんでまだいるの!?」
「その言い方はひどいなぁ。今日の早朝に叩き起こされて散々つきあわされて、挙げ句の果てには扉を開けっ放しで出て行った研究室で、お留守番までしてあげた友人に向かってさぁ」
「うぐっ……ご、ごめんなさい……」
ど正論で返されてダメージを受けるエレノア。ユーリはそんな二人を不思議そうに見ていた。
「エレノア、お友達?」
「あ、ごめんなさい。紹介しますね。去年この学園を卒業して冒険者になった友人のオリヴィアです」
「初めまして。駆け出し冒険者のオリヴィアよ」
「僕はマヨラナ村から来たユーリだよ。よろしくね」
「早速だけどユーリ君、なにやらエレノアと研究してるんだって?」
オリヴィアが疑いの目線でユーリに問う。まさかこんなに小さな子供が、学園でも一目置かれるほど優秀なエレノアと一緒に研究しているなんて信じられないのだろう。
「うん、そうなんだ! ちょうど魔法素材をとってきたところ! エレノア、はやくはやく!」
「あ、はい。すぐに用意しますね」
自分のことを疑義の目で見るオリヴィアに気がついていないのか気にしていないのか。ユーリはエレノアを急かす。
魔法素材を鑑定水晶に接触させ変化を見る。その実験を今日取ってきたいくつかの材料で試してみる。
途中、春に咲く白い花、セリバオウレンで試した際に、
「あれ!? 今光った!?」
「う、うーん……光ったといえば、光ったような気も……」
進展があったような気がしたが、結局は気がしただけという結論となった。
「うーん、全滅かー……」
「どの素材もナイアードの髪と比べると、属性値が大きく劣りますからね」
「となると、冒険者ギルドに依頼するか、自分たちで探しに行くか……」
「ですが、冒険者ギルドへの依頼は金額がかかる上に、依頼が受領されるかどうかも定かではないです。知り合いに冒険者がいれば直接依頼なども出来るとは思うのですが……」
ユーリとエレノアは言いながら顔を上げ、退屈そうにあくびをしているオリヴィアを見る。
オリヴィアは二人の研究にこれっぽっちの興味もないのか、大きくあくびをして、紅茶に口をつけて、もう一度あくびをして、自分へ向う2つの視線に気がついた。
「え? え? あたし? ムリムリムリムリ! 冒険者登録だってしたばっかりなのに!」
「でも学園の戦闘技術大会で優勝したこともあったよね?」
「たかが模擬戦が強くったって冒険者としてはまだまだ三流以下なんだから!」
冒険者。ユーリにはその単語が頭に残っていた。昔は父であるシグルドも冒険者をやっていたという。
「ねぇ、オリヴィア。冒険者について教えて」
ユーリは何やら言い合いを続けている二人に、そう声を駆けた。
◇
冒険者というのは、つまるところ何でも屋である。
昔々、ことの始まりは酒場の主人かららしい。
仕事柄、沢山の人の話を聞いていた酒場の主人が、とある常連の客が話していた悩みを、また別の常連客なら簡単に解決できるのではないか、と思って話を持ち掛けた。予想通り問題は解決し、解決してもらった常連客は喜び、銀貨数枚を解決してくれた客に、そして酒場の主人にも謝礼として渡した。
これが冒険者ギルドのはじまりだった。
最初は酒場の主人の手の届く範囲でしかやっていなかったが、あまりに依頼が多くなり酒場に掲示板を作ることにした。これが後のクエストボードである。そのうちクエストボードにさえ依頼が収まらなくなり、しまいには良からぬことを考える輩も出てきた。
依頼の管理や問題の解決を行うために組織が作られ、それが現在の冒険者ギルドの始まりである。
次に冒険者ギルドの仕組みについて。
特に難しいことはなく、頼みたいことがあれば依頼内容と報酬を書いた紙を用意しギルドに依頼すればいい。
逆に依頼を受けたければ冒険者ギルドのクエストボードから受注すればよい。
冒険者ランクは下から土、鉛、鉄、銅、銀、金であり、金より上もあるらしいが、金級以上の冒険者はほとんど存在しない。
金級の冒険者になればそれはそれは稼げるらしいが、土、鉛級ではその日暮らし以下の輩がほとんどである。
一攫千金の夢がある反面、身体を動かすしか脳がない馬鹿の受け皿でもある。
ちなみに冒険者になるための資格などはないとのこと。
「そんな感じ。まぁお手伝いしてお小遣い貰うって認識で問題はないわね」
「なるほどー」
ユーリは考えた。
これから研究していくための費用稼ぎ、そして研究材料集め。冒険者になれば、この2つを一度に解決出来るのではないだろうか。
「オリヴィア、明日時間ある? 冒険者ギルドに連れて行って欲しい」
「えっと……本気?」
ユーリの冒険者生活が始まろうとしていた。




