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第023話

 研究オタクであるエレノア・ハフスタッターの朝は早い。

 いや、嘘である。基本的に研究者などという人種は朝方まで研究に没頭しているので、朝に起きることなどない。寧ろ朝に寝るのである。

 しかしなぜエレノアがこんな朝日が昇ろうかと言うはやい時間に起きているのかと言うと。


「ねぇ、この服は変じゃないかな!? ねぇオリヴィア! 聞いてる!?」


 エレノアが問うのは、スリットの入ったスカートと篭手や胸当て等の軽装を身に纏った女性……いや、身に纏っていたそれらを脱ぎ捨て、部屋着姿になってだらけている女性である。


「もー、何着ても可愛いってばー。大体全部同じようなローブじゃない……」


 青色の髪を胸まで伸ばし、知的で鋭い眼差しを今は面倒くさそうに細めている彼女の名はオリヴィア。去年魔法学園を卒業し冒険者を始めた魔法剣士である。そして数少ないエレノアの友人でもあった。


「男とデートに行くって言うから飛んできたのに、相手は7歳? しかも魔法素材を取りに学園の湖畔まで?ねぇ、それデートって言っていいの? 私は言わないと思うんだけど」


「ででででも! 異性と二人なんだよ!?」


「いや、それだけじゃデートとは言わないんじゃ……」


「未婚の男女が二人きりで休日の昼間からお出かけですよ! これはデートの定義に合致しています!」


「デートの定義って……これだから研究者は……」


 オリヴィアは深くため息をつく。


「大体デートって言ったら恋愛感情が絡むものでしょ?」


 オリヴィアの言葉に、エレノアはビクリとしてしばし固まった後、顔を赤くしてモジモジし始めた。


「え、うそ……マジ?」


 これにはオリヴィアも驚愕した。


「いや、あんた……7歳の子に何考えてんのよ……」


「ちちちちち違うの違うの! そういうのじゃなくて! ね! その、分かってよ!」


「いや分かんないわよ……」


「あ、そうだ! 何か食べるもの用意しておかないと! オリヴィア! オリヴィア! 助けて!」


「そんなの適当にパンにハムと卵と野菜挟めばいいじゃないの」


「それが出来ないから言ってるの!」


「錬金術より数千倍は簡単なんだけどなぁ……」


 もうひとつため息をついてオリヴィアは立ち上がる。

 暴走癖のある友人が、小さい男の子に手を出すようなことになったら殴ってでも止めよう。そう決心したオリヴィアであった。



「エレノア、いるー?」


 控えめなノックと共にのんびりした声。ユーリである。


「は、はーい」


 迎えるのは付け焼き刃の準備が万端のエレノアだ。


「わ、エレノアまたきれいになったね。お嬢様見たい」


 結局着ていく服が決まらず、朝早くにオリヴィアと共に洋服屋さんに行き、白いワンピースを買ってきたエレノアであった。

 一方ユーリはというと学園の運動着である。シンプルな白いTシャツに黒いズボン。飾りっ気ゼロだが、それでもユーリが可愛いので許せる。

 そもそもユーリには何かを買うような財力などない。衣食住全てを学園に準備して貰えるもので賄っている。

 三食全て学食で済ませ、着る服は学園の制服と運動着。寝るのはもちろん寮のベッドである。


「あ、あの。お弁当、作ってきました。魔法素材を集めながら、少しお散歩しませんか? 属性値は低いですけど、他にも魔法素材や、魔法素材ではないですが錬金術で使えるものもあると思うので、見て回りましょう」


「え、本当!? 学食以外の食べ物、久しぶりー! 錬金術も興味あるから、今日もたくさん教えてほしいな」


「は、はい! がんばりますね!」


 楽しげな雰囲気で歩きだす二人。それを呆然と見送るオリヴィア。


「……マジでデートじゃん」


 どうやって友人の強行を止めようかと、本気で考え出すオリヴィアであった。


 そんなオリヴィアの気持ちなど知らずに、ユーリとエレノアは学園の湖畔に歩いていく。

 湖畔の大きさは周囲5キロメートルほど。学園からみて湖畔の奥側には草むらが広がり、さらに奥には雑木林がある。


「先日もお話した通り、魔法素材と普通の材料の違いはその属性値の多寡です。しかしその境界は厳密に決められているわけではありません。たとえばここらへんに生えている草たちは属性値が低く魔法素材としては扱われませんが、このベルフラワーという植物は個体によっては属性値が高いものもあります。なので個体の高いものは魔法素材としても使用されることがあります」


 エレノアはしゃがみ込み、紫色の花をつける植物を指差す。


「花の色が濃ゆいものほど属性値が高いと言われています。一本持っていきましょう」


 一房摘み取り、バスケットへ入れる。


「この湖に住んでる魚とかは魔法素材にならないの?」


「錬金術で使用できるほどの、という意味では、なりませんね。食べたら美味しいのもいるかもしれませんが。この湖、学園が作られた時に人の手で作られてるんです。なので魔法素材になりそうなレアな生き物はあんまりいないんですよね」


「へー、そうなんだ」


 時々エレノアの錬金術の講義を受けながら、二人の初デーt……お出かけは順調に進んでいった。


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