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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
162/167

第162話

 地下室の扉を開いた先は広さ十畳、高さ三メートルほどの部屋になっていた。

 置いてあるものはアンナの背丈よりも高い本棚。ボロボロの机と椅子。何やらよくわからない道具が沢山置かれた棚。そして、


「ねぇ、あれ」


 ナターシャが指をささずとも、皆そこを見ていた。

 壁際に置かれた朽ちかけのベッドと、骸骨。

 腐敗などとっくの昔に終えており、ベッドにシミを残しているだけで臭いは無い。


「十中八九、パーシヴァルでしょうね」


 アンナが指を組んで祈る。


「あなたの書き残した地図に導かれてやってきました。真の歴史を、教えてください」


 数分祈ったあとに、早速とばかりに本棚に齧りつくアンナ。

 丁重に、だが迅速に確認をする。貴重な書物を崩さないように手早く確認する様は、流石は学者といったところ。

 こうなったらしばらくはこのままだろう。

 そんなアンナの姿を見てユーリとエレノアが感心した様に言う。


「アンナ、すごい集中力だね。学者ってみんなああなのかな」


「ホントですねー」


 まるで他人事の様に言う二人にナターシャが呆れる。


「私から見れば、あんた達だって変わらないわよ」


「そうかな?」


 首を傾げた後、手持ち無沙汰に部屋の中を物色するユーリ。

 パーシヴァルの骸骨をまじまじと眺めたり、棚のガラクタを手に取ってみたり。

 取っ手の付いたツボのような何かを持とうとして、取っ手がとれて床に落ち割れた。


「あ、ごめんね」


『……』


 もう何前年も前に死んでいるとはいえ、当人の前で物を壊したのだ。なんとなく骸骨に向けて謝っておく。返答はなかった。当然だが。

 気を取り直して物色を続ける。机の上の羽ペンや、乾ききったインク。机の横に立てかけられた分厚い金属の板を指でなぞり……


「え?」


 目を見開いた。この感触は、慣れ親しんだこの手触りは。間違いようがない。


「錬金台……?」


「え?」


 ユーリのつぶやきを聞いたエレノアとセリィが近づいてくる。


「でも、錬金術って魔法より後に発明されたんですよね? だったら錬金台がここにあるのはおかしくないですか?」


「おかしいん、だけど。でも、これ絶対錬金台だよ」


 よいしょと掛け声を出して、錬金台らしきものを床に置く。

 触媒を取り出して錬金台らしきものに置き通力してみるも、魔力は逃げて行かない。やはりこれは錬金台である。


「錬金台だ。間違いない」


「うーん。もしかして、ここってパーシヴァルさんの部屋じゃないんですかね?」


「その可能性はあるね。そういえば入り口の扉もさ、よく考えたら魔道具だよね。魔道具で出来た扉があるってことは、やっぱりここは錬金術の技術がある程度整った後にできたことになるよ」


「確かにそうですね。ではやはり、ここはパーシヴァルさんではない、過去の錬金術師の地下室ってことになりそうですね」


 結論を出そうとするユーリとエレノアにナターシャが待ったをかける。


「それだとおかしいわよ。だって扉の暗号はアウグストの残した資料に書かれていたのよね? ならここはパーシヴァルか、もしくはアルマーニの地下室になるわ。そうでなければ、偶然五千分の一のパターンを当てたことになるわよ」


 確かにナターシャの言う通りだ。


「うーん。アンナが持っていた資料自体が、そもそもアウグストのものじゃなかった、とか?」


「偶然にしては出来すぎてるわね」


 悩むも一向に答えは出ない。

 うんうんと唸るユーリとエレノアに、書物から目を離さないままアンナが話し出した。


「そもそも、前提が間違っていたようです。ここにある書物の情報から分かることは、魔法を発明したのはアルマーニで間違いないという事と……」


 書物をぱたりと閉じ、本棚に戻してからアンナが振り向いた。

 その顔はどこかつきものが落ちたようにすっきりとしており、またどこか呆れたような表情だ。


「パーシヴァルが錬金術師だったということ。逆なんです。私たちが考えていた前提が。魔法が後、錬金術が、先でした」


 アンナの言葉を聞いた後、ユーリとエレノアが数秒顔を見合わせ、無言で本棚をあさり始めた。その顔は真剣そのもの。今話しかけたとしても、何も耳に入らないだろう。

 そんな二人を見て、ナターシャがポツリとつぶやいた。


「ほら、あんたたちだって変わらないじゃない」


 魔法史にも錬金術にもさして興味の無いナターシャが、パーシヴァルのむくろが横たわるベッドの比較的綺麗なところに腰かける。


「パーシヴァルだっけ? あなたも結構な偏屈ものよね。誰にも開けられない箱に、誰にも開けられない地下室の場所を記しておくなんて。隠しておきながら、本当は誰かに見つけてほしかったのでしょう?」


 ナターシャはユーリ達に目を向ける。ここに残された情報を、余すことなく持ち帰ろうと必死に読み漁る三人と、興味があるのかないのか、パーシヴァルの魔導具を弄るセリィ。


「良かったじゃない。多分あなたの研究、その全てが受け継がれたわよ。まぁ、受け継がれるまでに二千年くらいかかっちゃったけれど」


『……』


 まるでナターシャのことばに答える様に、パーシヴァルの骸骨の顎骨が、カタリとなった。

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