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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
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第161話

 家の壁の跡やところどころ見え隠れしている石造の物体から、かろうじて街だったことが分かる風景を見ながら歩き、アンナはとある場所で足を止めた。


「ここ? 何もないけど」


「変な輩に荒らされないように、入り口をカモフラージュしているんです。えっと……ここですね」


 アンナが地面の土を払うと、木でできた蓋が現れた。それを横にどけると、出てきたのは地下に続く階段である。光が差し込まないため、奥の方は暗闇だ。


「えっと、ランタンを……」


「ナターシャ、光お願いしていい?」


「光の精霊よ、闇を照らす球となりて、我らの周りに浮遊しなさい」


 ナターシャが唱えると、五つの光の珠が現れてそれぞれの肩あたりに浮遊した。

 アンナがうらやましそうに眺め、ため息を一つ。


「光魔法は便利でいいですね。闇は使いどころがあまり無くて」


「そうかしら。明かりをつける道具はあるけれど、暗くする道具は無いから、闇の方が便利そうよ」


 そんな会話をしながら会談を下っていくと、少し降りた先に扉があった。アンナから聞いた通り、幾何学的な模様の掘られた金属でできた扉である。取っ手はあるが鍵は無い。


「前回はここで諦めました。ユーリ君、開けられそうですか?」


「うん、多分」


 ユーリはぺたぺたと扉を触る。素材は魔力箱と同一の様だ。

 ポシェットから簡易錬金台を二枚取り出してエレノアとセリィに声をかける。


「エレノア、セリィ、ちょっと持っててもらっていい?」


 魔力箱と違い大きく、また垂直に立っているためそう簡単に鍵の解除はできない。

 触媒を水で練ったもの、触媒と中和剤を合わせて水で練ったものを簡易錬金台に練り付けて、魔力箱を開けたときと同じような回路を作成する。

 エレノアとセリィがそれを動かないように扉に手で固定をして準備完了だ。


「よっし、それじゃやってみよう」


 ユーリの手元から錬金反応が開始する。

 まずは触媒と中和剤を混ぜたものに魔力を通し、己の波長を消した後に扉へ。扉を通った魔力が触媒を通り再び扉へ。扉全体が金色の錬金反応でボゥと光る。アンナがゴクリと息をのんだ。

 2,3分の後に……


 ――ガチャリ


 そんな重厚な音と共に、扉が奥に少し開いた。成功である。


「す、すごい。本当に開いた……」


 自分の研究仲間数十人と話し合い、いろいろ調べた結果『開かない』と結論づけた扉を、こんな子供があっさりと開いたのだ。驚きもするだろう。

 呆然とユーリを見ると、どうぞと言うようにアンナに道を譲った。先に入っていいという事だろう。

 アンナは無言でうなずき、その扉を手で押し開く。

 その扉の先に合ったものは……


「……扉?」


 何やら仕掛けが施されていそうな大きな扉が一つ。

 パーシヴァルは大変に慎重な性格だったようだ。



 その扉には直径三センチほどの窪みが七つあった。

 窪みは少し色がついており、左から赤、青、水、茶、緑、金、黒色である。おそらく魔力属性と関連しているのだろう。

 試しにユーリが触れてみるも何も変化がない。アンナが触れると、黒色の窪みに触れたときだけ、窪みが発光した。


「おそらく、自分の魔力適性と同じところだけが反応するのでしょう」


「全部光らせたら開くのかな?」


「もしくは、決まった順番で光らせるとか、決まったパターンで光らせるとか……でしょうか」


「そうなるとパターン数は7の階乗ね。諦める?」


 ナターシャが言うも、アンナがあきらめるはずがない。


「ありえません。それなら五千パターンほど試せばいいだけです。ですが……ここには闇、光、木属性の人間しかいません。時間はかかりますが、一度ベルベット領都に戻って私の研究仲間を連れてくるしかないですね」


 そこまで言ってアンナはため息を吐く。扉が開いて心躍らせたにも関わらず、この仕打ち。パーシヴァルはなかなかに性格が悪い。


「しかし、こちらは先程の扉と比べればマシです。解決策があるのですから。……いえ、ちょっと待ってください」


「どうかしたんですか?」


 急に考えこんだアンナにエレノアが問う。


「私が調べていたアウグストの資料の中に、意味の分からないメモ書きがあったのです。七つの色の羅列……っく、流石に順番までは思い出せません。最初は緑、次は青だったと思うのですが……」


「それだけ思い出せればすごくないですか……?」


「だったら残りは5の階乗ね。現実的な数字になったんじゃない?」


「そうですね。しかし、手元に研究資料さえあれば……持ってこなかったことが悔やまれます」


「あ、もしもしお姉ちゃん? 良かったー、ちゃんとつながった。あれ、でも今って授業中じゃないの? あ、そっか。高等部から単位制なんだっけ?」


 唐突なユーリの話し声に四人が目を向ける。まるでそこに姉のフィオレがいるかのような話し方だ。


「あのね、今からアンナの研究室に行ってきてほしいんだけど。あ、鍵? そっかー。ねぇアンナ、研究室の合鍵とか無いの?」


「え、あ、はい。教官室の私の机に観葉植物があります。その土の中に合鍵が隠してありますが……」


「おねーちゃん、聞こえた? そうそう。そこにあるんだって。ちょっと行ってきてくれる?」


「え? もしかしてフィオレさんと話をしているんですか?」


 そうとしか思えないユーリの行動にエレノアが問いかける。


「そうだよ? だっていつでも家族と会話できるように作ったんだもん。お姉ちゃんに持っておいてもらわないと意味ないじゃん」


「それは、そうですけど……」


 つい先日作った魔道具をもうすでに実用化している。行動の速さは流石ユーリと言ったところだ。


「アンナ。さっき言ってた資料って研究室のどこら辺にあるの?」


「確か、机の上に置きっぱなしだったはずです。資料は数十枚あるのですが、右下に走り書きで書いてあるので見つけるのは難しくないかと」


「机の上の資料の、そうそう、右下だって。……あ、ほんと? 教えて教えて。えっと、もう一回いい? えーっと、緑、青、赤、金、茶、黒、水色? うん、ありがと、助かったー! また何かあったら連絡するね。じゃーねー!」


 ユーリが魔道具をポシェットにしまう。


「だって」


「え、あ、はい。え? あ、ちょっとメモします! もう一度いいですか!?」


 呆然としていたアンナが慌てふためいてメモ帳を取り出す。


「緑、青、赤、金、茶、黒、水よ」


 暗記していたナターシャがするすると答えた。

 さて、順番は分かった。しかし七属性全てとなると、やはりそれぞれの属性を持つ人を連れてくる必要がありそうだ。


「足りないのは火、水、風、土ですね。光と闇がそろっているので探すのは難しくなさそうです。皆さん、一度マドリード王都に行って……」


「みんな、はやくはやく」


 アンナの声を遮って言うユーリ。

 何やらユーリとセリィが錬金台を壁に設置して、通力の準備をしている。

 ユーリの左人差し指から伸びる触媒は赤へ、右手の触媒は青へ、セリィの左手は水、右手は茶へと伸びている。触媒の途中にそれぞれの魔法属性に対応した魔法素材がテープで張り付けられていた。

 意味の分からないユーリとセリィの行動にアンナが問う。


「あの、何を?」


「だから、それぞれの属性の魔力が必要なんでしょ? 火と水は僕が、風と土はセリィが担当するから、早くして」


「え、あ、はい」


 ユーリにせかされてエレノア、ナターシャ、アンナがそれぞれ緑、金、黒の窪みに触れられるように準備する。


「それじゃいくよー。緑、青、赤……」


 エレノア、ユーリの右手、ユーリの左手と光が点灯していく。


「金、茶、黒、……水」


 ナターシャ、セリィの右手、アンナ、最後にセリィの左手人差し指から錬金反応の光が伸び、水色の窪みに光が灯った。


 ――ガチャリ


 開錠、成功である。

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